75.マナポーター、元・勇者と再開する

 洞穴の中には、やはり大量のモンスターが居たが、


「そこをどくッス! 魔剣よ、力を貸すッス!」

「みー。イシュア様の魔力を久々に堪能できて嬉しい! えっと……この魔法が一番消費魔力が大きいはず――『エンシェント・フレア!』」


 ミーティアが魔剣を振るうたびに、モンスターの群れが消し飛ぶ。

 リディルの大魔法一発で数百のモンスターが消し飛ぶ。



 モンスターからすれば、悪夢のような光景だろう。

 まさに圧倒的な実力差――抵抗も許されずにバタバタとモンスターが薙ぎ払われていく。



 そのとき、2人の資格から、突然、強力な吹き矢が飛んできた。


「危ない! 『シールド!』」



 ガキーンッ!


「もう、ふたりとも! 油断しないでください!」

「ありがとう、アリア。いつでも撃てるガード魔法が浮いてるのは、やっぱり助かるよ」


 アリアの展開した術式に、僕が魔力を通し即時展開。

 どこか懐かしい戦い方だった。



 そうして洞穴を進むこと数十分――

 あれほど居たモンスターの群れが、噓のようにスーッと引いていく。


「どうしよう、追う?」

「向かう先にボスが居ると思う。追いかけよう!」


 そう尋ねた僕に応えた声は、予想外のものだった。




「いいや、その必要はないさ」

「ガッハッハ。勇者・リリアンじゃねえか! そちらから来てくれるとはね」


「イフリータ!」


 奥から現れたのは、燃えるような体を持つモンスター。

 リリアンが険しい顔で睨み付けた。

 そしてもう1人現れた謎の黒い魔剣を持つというモンスターの正体は――



「アラン!!?」

「久しぶりだなあ、イシュアさんよう? この魔王様から授かった力で――今日こそおまえを倒させてもらうぜ!」


 血走った目でこちらを睨みつけるのは、元・勇者のアラン。


「どうして魔王の仲間なんかに!?」

「おまえがすべて悪いんだぞ! おまえがあのとき、俺を庇わなかったから――おまえが俺の悪事を暴くから!」


「それってアメディア領で、偽の万能薬を売ろうとしたこと? だってそんなの放っておけるわけが――」

「黙れ!! 良い子ぶるんじゃねえ!!! お前さえいなければ、俺は勇者としてすべてを手に入れていたんだ。お前さえいなければ。お前さえいなければ――!」


 吐き出されるのは呪詛のような言葉。


「そんな目でこっちを見るんじゃねえ! ――『聖剣よ俺に力を貸せ!』」



 そうしてアランは、いつものキーフレーズを唱えた。

 たとえ勇者としての地位を失っても。

 魔王の味方となってしまっても、彼はスキルで聖剣を作り出す――否、その聖剣はどす黒く輝いた。



「そこまで落ちましたか……」

「こんな奴のパーティに居たなんて、一生の恥ッス」

「みー。それ以上は見過ごせない――ここで倒す」


「やってみやがれ!」

「ガッハッハ。因縁あるもの同士の戦い――熱いではないか! 我もこの時を待ち望んだぞ――リリアン!!」


 アランとイフリータは、実に楽しそうに笑っていた。




「私たちの背中には、サルファー砦の未来がかかってるの。こんなところで負ける訳には行かないの――『幻想世界!』」


 そうしてリリアンは、普段のように魔法を唱えた。

 この世とは異なる世界を生み出し、別の世界に転移させる彼女だけの固有スキル。



 そうして僕たちは、彼女の生み出した世界に降り立った。


「私たちはイフリータをやるの。イシュアたちは……そっちをお願いなの!」

「因縁の相手だからね。任せて……そっちはマナは大丈夫?」


「一瞬で終わらせるの!」


 リリアンはにこやかに答えた。

 それは自信の現れ――そして、僕たちが心置きなくアランとの戦いに望めるようにという気遣いだろうか。



 リリアンとディアナは、イフリータと。

 僕たち元・勇者パーティは、元・勇者と。

 サルファー砦の未来をかけた戦いが今、はじまろうとしていた。

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