74.マナポーター、指揮官を討つべく魔界に進む

 休憩室で休んだ翌日。

 僕たちは冒険者とともに作戦室に呼ばれた。


 ちなみにイナーヤ隊長は牢で謹慎中である。

 彼の代わりとして、中央騎士団の副団長も参加していた。


「本当にイナーヤ隊長が失礼なことを言い続けて申し訳ありませんでした。自分たちの未熟さと、冒険者の腕前は嫌という程理解できました――これからは誠心誠意勤めさせていただきます」


 こちらが恐縮してしまうように深々と頭を下げる副団長。

 そうして僕たちは作戦会議に参加する。



「モンスターの数が多くて、いくら防衛に徹しても守り切れません」


 サルファー砦防衛戦の総指揮官は、開口一番にそう言った。


 それには同感だった。

 僕やアリアが加わったことで、サルファー砦の継戦力は大きく向上しただろう。


 それでも僕たちはただの人間だ。

 睡眠も必要だし、魔力やHPなど目に見えない部分の疲労だってある。

 無限に戦い続けることはできない――時間が経てばたつほど不利になる戦いなのだ。



「やっぱりモンスターを指揮している奴を倒す必要があります」

「同感です。どこに居るのか分かるんですか?」


「ええ。敗走していくモンスターを追いかけ、モンスターがどこから現れるかを確認した結果――この辺にリーダーが居るとあたりをつけました」



 騎士団員が、地図に大きく丸印を付けた。

 モンスターのボスの居る場所を突き止めるまでには、多大なる犠牲があったという。

 だとしても敵のボスが居る場所が分かった意味は大きい。



「――というか、実は短期決戦を目指して、一度そこに攻め込んだことがあるんです」


 さらには騎士団員が口にした。

 なんでも少数精鋭の部隊だったという。


「ほとんど全滅してしまいまいした。私は元・精鋭部隊の生き残りなんです」

「作戦は失敗したんですか?」


「途中までは順調だったんです。それでも――炎をつかさどる凶悪なモンスターと、禍々しく輝く真っ黒な剣を使う人型のモンスターが現れてからは……一方的でした」


 その団員は、ぶるぶるっと震えながらそう声を上げた。



「炎をつかさどるモンスター? それはもしかして……」

「たぶんイフリータなの。これほど大規模な侵攻戦――間違いなく四天王が直々に指揮をとっているの!」


 リリアンの声を受け手、作戦室が絶望の声に包まれる。

 それでもここに居るのはリリアン――唯一、四天王を討ったことがある勇者なのだ。



「イフリータ程度なら、今の私たちが居れば敵じゃないの」

「もう1人の禍々しい剣を使う人型モンスターってのは何だろうね?」


「イフリータと……ウンディネ? ――いいや、あいつは直接戦うようなモンスターじゃないの……」


 リリアンは考え込みながら首を傾げる。

 有力なモンスターの情報は、どうやら勇者しか知らないらしい。



「リリアン?」

「考えても仕方ないの。実際に見てみないと分からないの」


 何にせよ見てみなければ分からない。


「負担は大きいかと思いますが、これを任せられる人はリリアンさんたちを置いて他には居ません。どうかお願いします」

「分かったの!」



 そうして僕たちは、モンスターの指揮官を討つ任務を任されることになる。

 非常に責任重大だ――気を引き締め、現地に向かうことになる。




◆◇◆◇◆


 作戦はすぐに始めた。

 時間が経てばたつほど不利になる戦いなのだ――勢いのある今、いっきに攻め込むべきだと判断したのだ。


 僕たちは、サルファー砦の奥にさらに進む。

 向かう先は魔界だ。


「この砦の守りは大丈夫ですか?」

「問題ありません。皆さんが届けてくださった物資がありますし――いちばん大変なところをお任せするんです。それぐらいは任せてください」


 騎士団のリーダーが胸を張った。



「僕たちに付いてきた冒険者は、誰もが腕に覚えのある精鋭ばかりです。戦闘にも慣れています。きっと力になってくれると思います」

「心強いよ。中央騎士団の連中も、昨日で懲りたのか、荷運びであっても嫌な顔ひとつせずにやってくれる。結果オーライだよ」


 イナーヤ隊長は、ふざけるなここからだせと牢で暴れているらしい。

 しかし誰も顧みることはなかった。


 度重なる命令違反。

 戦闘時の無様な姿――特に失禁したことは、中央騎士団の全員が知る事になり、ただでさえ少なかった人望が完全に消滅したのだ。

 無事にこの戦いが終われば、しかるべき処分だ下るだろう。



「リリアンさんにイシュアさん。どうかご武運を!」

「はい。行ってきます」


 イナーヤ隊長とは違って、部下の信頼も厚い人だ。

 すべてが不足するなか、サルファー砦をしっかり守り抜いたベテランである。

 彼が大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。



 そうして僕たちは出発する。



◆◇◆◇◆


「うわ、やっぱり魔界の瘴気は濃いね」

「本当なの。イシュアが居なかったら、この瘴気があるだけで苦戦してたの」


 リリアンがしみじみとつぶやく。


 防戦一方にならざるを得ない理由の1つが、この瘴気だった。

 瘴気は体を蝕み継続的なダメージを与えてくる。

 魔界の奥深くに進むにつれ濃くなっていくため、どうしてもサルファー砦から離れすぎることはできないのだ。



 もっとも――


『マナリンク・フィールド!』


 ここは僕の出番だ。

 範囲内のマナを浄化して、新鮮な空気を届けること。

 これぐらいなら何時間でも可能だ。



 さらには――

 

『マナ・サイレント!』


「先輩? その魔法は何ですか?」

「この世には、マナを探知して居場所を探る魔法があるからね。それを遮断する――できる限り、身を隠しながら進むべきだからね」


 瘴気に覆われており人間がそうは近づけないと思われている拠点――そこに一気に乗り込むことで短期決戦を狙っている。

 言うなればこの作戦は、奇襲が目的だ。

 



 やがて作戦会議で教わった洞穴ほらあなに辿り着く。

 モンスターの指揮官が居ると思われる場所で――中の様子は分からない。


 それでも入口には見張りが立っていた。

 モンスターの見張りが立っていたのが、リディルが睡眠の魔法を遠距離からかけ、昏倒させる。



「この辺かな?」

「この先には恐らく四天王と、正体不明の強敵が居る――それでも行くしかないの!」


 そうして僕たちは、モンスターの指揮者が居ると思わしき洞窟に足を踏み入れた。

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