《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
73.マナポーター、アリアと共に重傷者を簡単に治療してもの凄く感謝される
73.マナポーター、アリアと共に重傷者を簡単に治療してもの凄く感謝される
「冒険者の皆さんは、どうかこちらでお休みください。長旅でお疲れでしょう?」
「え、でもサルファー砦ではずっと戦いが続いてるんですよね? 僕たちだけ休んでなんて居られませんよ。何でもやりますよ?」
いきなり騎士団員に言われ、僕は戸惑った。
もしかすると戦力外と思われているのかと不安に思ったが、
「大丈夫です。イシュア様と聖女様のおかげで、私たちも元気いっぱいです」
「イシュアは凄いの!」
ニコニコとリリアンが言った。
「すいません。すぐに冒険者の方々を受け入れるためのスペースを作ります。とりあえずは、こちらでお待ち頂ければ……」
そうして僕たちが通されたのは、怪我人を休ませるための医務室であった。
◆◇◆◇◆
「みんな戦ってるのに、僕たちだけ休んでるなんて良いのかな?」
「冒険者にとっては、休めるうちに休むのも仕事。先輩の口癖ですよね?」
僕は首を傾げたが、アリアにそう諭され渋々うなずく。
サルファー砦の危機に、ほんとうはもっとできることを探したいところだが、指示を無視して好き勝手に動き回ることのリスクは非常に高い。
イナーヤ隊長が、とっておきの反面教師になっていた。
「うう。うう……」
しかし、休む騒ぎではない。
医務室の中では、うめき声が上がっていた。
見ると腕がなくなり、止血しているだけの重傷者が寝かされていた。
もっとも血は止まっており、命に別状はなさそうだったが……
「う……悲惨ですね」
「凶悪なモンスター相手の戦いだもんね……」
「重症者は、さすがに範囲回復魔法だけじゃ治せなかったみたいです」
「アリア、治せる?」
「もちろんです」
そう言うとアリアは怪我人に駆け寄り、
「『フル・ヒーリング!』」
完全回復魔法をかけた。
「こ、これは――私たちの命を救った『奇跡の光』と同じ輝き!」
「少しだけ痛むかもしれません。我慢してくださいね?」
「な、なにを―― ……おおおおおお!?」
腕を無くした騎士が、驚きに目を丸くした。
文字通り、いきなり腕が生えてきたのだ。
「あ、あなたは何者なのですか!?」
「アリアです。勇者・リリアンのパーティで聖女をやっています」
そのときアリアが浮かべた微笑みは、まさしく「聖女」に相応しいものだった。
そうしてアリアは、横たわる重傷者の間を飛び回った。
もう完治は難しいだろうと、医務スタッフが匙を投げた人々の怪我が、もう助からないだろうと死を待つだけだった重症が、わずか一瞬で治っていく。
アリアの日頃の修練が、功を奏したのだ。
「大丈夫、アリア?」
「先輩? 私だってレベルが上がって少しは魔力が上がってるんです。これでも聖女のジョブを持ってるんですから――任せてください!」
「そう? 分かった。少しでもやばいと思ったら、ちゃんと言ってね?」
僕はついでにアリアの後を付いて回り、怪我人にマナをチャージしていく。
生命力が弱っている場合にも、マナを整えることで、体調を万全なものに近づけることができるのだ。
一晩にしてサルファー砦のけが人を癒し、腕を失くした重傷者すら回復してみせた勇者パーティの聖女の奇跡。
そして一瞬でマナをチャージしてみせた第二の奇跡。
――それはサルファー砦の戦いが終わった後になって、瞬く間に領内に広がっていくことになるのだが……それは、また別の話。
◆◇◆◇◆
そうして重傷者の治療を終えたころになって、パタッと扉が開けられた。
騎士の1人が慌てて飛び込んできて、
「申し訳ありません。冒険者の皆さんをお通しするための部屋を用意できました――って!?」
「すいません。勝手なことかと思いましたが、治療させて頂きました」
「皆さんが戦っているんです。じっとして居られなくて……」
部屋に足を踏み入れて、騎士が目を丸くする。
なんでもこの部屋は、怪我人の中でも完治する見込みもない重傷者が運び込まれる場所。
手の施しようもなく、戦力外の者が集められているスペースだったと言う。
しかし今ではアリアの治癒魔法の効果で、騎士たちはケロっとした顔で立ち上がっていた。
「アメーダ!! もう助からないと思っていたよ!」
「奇跡の光が医務室を覆って――! すっと痛みが引いたんだよ!」
「でも命は永らえても、戦えるほどではない。……そう思っていたのに、聖女様がいらして――もうこの通りさ!」
「お、落ち着け! 傷口が開く――って傷口がない!?」
ここに運ばれる人々の表情は、とても暗かったらしい。
助からないかもしれないし、どうにか一命をとりとめても現役復帰は不可能。
そんな閉塞状態を打ち破ったのが――
「これならまだ戦える!」
「この歳で引退となると、田舎に残してきた家族が心配だったんだ」
「聖女様! 助けられた御恩は、絶対に忘れません!」
ものすごく気合が入った様子で、医務室の中では騎士が喜びあっていた。
「聖女様! イシュア様、ほんとうに何とお礼を言ったらよいのか――!」
「冒険者として、聖女として――当たり前のことをしただけです」
「サルファー砦の防衛戦、皆さんのおかげでここまで持ちこたえたんです。あと少しだけ頑張りましょう」
そんな歓喜の声を背中に受けて。
僕たちは休憩室に通されるのだった。
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