《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
71.【SIDE: イナーヤ隊長】意気揚々とモンスターの群れに突っ込むも、まるで通用せずに逃げ帰る(2)
71.【SIDE: イナーヤ隊長】意気揚々とモンスターの群れに突っ込むも、まるで通用せずに逃げ帰る(2)
しばらく歩き、イナーヤ隊長の率いる中央騎士団はモンスターとの交戦地域に到着した。
巨大なオークと騎士だちが交戦中だった。
もともとサルファー砦に勤めていた面々だろう。
「中央騎士団、突撃ぃぃ!」
「ほ、本気ですか?」
「あそこにいるのはグラウンド・オークです。無駄な犠牲者が出るだけです!」
「なんだと!?」
「あのような相手なら、守りを固めた盾役と遠距離から魔法を撃つ者に分かれて相手どるべきです!」
「黙れ! そのような小細工は必要ない! 正面から叩き潰してくれるわ!」
騎士団たるもの、やはり中央から圧倒的な剣術で敵を叩き伏せるべきだ。
それなのにそのような軟弱な意見が出るのは、たるんでいる証拠だ。
俺は団員を脅し、そのまま突っ込むように命じた。
ここで大きな戦果を上げ、国王陛下から信頼を得る。
そんな輝かしい未来を疑っていなかった。
しかし――
スパーーン
「は?」
グラウンド・オークに襲い掛かった騎士団員が、ポーンと空に打ち上げられた。
モンスターがフルスイングしたこん棒に吹き飛ばされたのだ。
すでにモンスターと交戦していた1人が、慌てた様子でこちらに飛んでくる。
「あなたがこの部隊のリーダーですか!? 奴の守りは鉄壁で、パワーは他の追随を許しません。それなのに正面から挑もうなどと――馬鹿なんですか!?」
「なんだと!!」
地方に勤めている騎士のくせに、俺になんて口を聞くのだ。
思わず逆上したが、すぐに思い直す。
こいつもきっと、手柄欲しさに人に文句を言わねば気がすまないのだろう。
「いくら中央騎士団であっても、ここでは我々の言うことに従って下さい!」
「何を言う! 私がこれから手本を見せる。貴様らこそ、そこで指をくわえて見ているがよい!」
手下がだらしないなら俺が手本を見せるしかない。
俺は単身でグラウンド・オークに向かう覚悟を決めた。
なんせ俺は、王宮の剣術大会でトップの成績を収めた神剣使いなのだ。
あんな豚型モンスターに遅れを取るはずがない。
「うおおおおおお!」
俺はモンスターに斬りつけ、
「……は?」
刃は通らなかった。
まるで鉄とでもぶつかったのかというように、手ごたえがなく弾き返された。
ブモウ!
モンスターは、わずらわしそうに手にしたこん棒を振り回した。
それだけで俺は、簡単に吹き飛ばされる。
たまたま他の騎士団員との戦いに区切りがついたのだろうか。
さらにモンスターは、こちらに標的を構えたようだった。
生き物としての格が違う。
情けないことに、そう思わされてしまった。
「ヒィ……助けてくれ。助けてくれ――」
俺は尻餅をついて、後ずさることしか出来なかった。
今更ながらに、事態をどれだけ楽観的に見ていたかを思い知る。
もちろん許しの言葉をモンスターが聞き入れることはなく、
ガアアアアアアアア!
すさまじい咆哮。
一切の
そのまま振り下ろされたら、ちっぽけな人間など一瞬でミンチにされてしまうだろう。
「死にたくない。死にたくない……!」
恥も外聞もなかった。
「誰か! 誰か俺を助けてくれ――!」
大のおっさんが涙を流していた。
プライドなどとっくに無くなっていた。
そうしてこん棒が振り下ろされ、
「ヒィィィィィィィ」
騎士として武器を手に取り勇ましく立ち向かうどころではなかった。
目を閉じて、俺は恐怖から失禁してしまった。
「ファイアボール!」
「エアロ・ブラスト!」
幸い、
助けに入ったのは、あれだけ見下していた地方騎士団の団員だった。
杖を構えた、鋭い目でモンスターを見つめている。
まだ俺よりも若い騎士たちだった。
しかし誰もが、立派に勤めを果たしている。
「邪魔だ! 中央騎士団の連中なんて、おとなしく城でふんぞり返ってればよいんだ!」
「き、貴様! 黙って言わせておけば――!」
「現に我々の隊列を崩して、モンスターを逆上させただろうが! せめて言うことを聞いてくれないなら、迷惑なんだよ!」
全力で怒鳴り返された。
死ぬか生きるかの戦場で、身分など関係ないのだ。
やがて中央騎士団の仲間がこちらに駆け寄ってきた。
「い、イナーヤ隊長? 大丈夫ですか?」
「こ、腰が抜けてしまった……。早く俺を助け起こせ!」
「は、はい。申し訳ありません」
「撤退だ。ここはわざわざ中央騎士団が手を出すほどの場所ではないからな!」
ビビっていた。
ビビり倒していた。
「隊長? そ、それは……?」
「どうした? ……ッ!」
騎士団員の視線が集まったのは、俺の足元だった。
情けないことに、失禁した跡が残ってしまったのだ。
「イナーヤ隊長、大丈夫です。我々は、何も見ていません」
「――ッ! 誰だ、今笑ったのは誰だ!!」
思わず顔を逸らすもの。
笑いをこらえきれないもの。
ここで誰も隊長のことを庇わないあたり、普段の人望というものがうかがえた。
結局この日、中央騎士団は何ら戦果を上げることなくサルファー砦に敗走した。
ただ現地で戦っていた人を妨害しただけであった。
そしてこの日から、イナーヤ隊長の名は「おもらし隊長」として、ひそかに広まっていくことになる。
日頃、好き勝手に偉そうに振る舞う隊長に、隊員としてもストレスが溜まっていたのだ。
あれだけ偉そうにしておいて、肝心のモンスターを相手にしたら、手も足も出ずみっともなく命乞いし、挙句の果てには失禁する――隊長の威厳は完膚なきまでに無くなっていたのだ。
イナーヤ隊長の率いる中央騎士団の面々が、サルファー砦に戻るとほぼ同時に。
「僕たちは王宮より要請を受けて来た冒険者です」
「代表のリリアンなの!」
ちょうど雑用を命じていた冒険者たちが、到着したようだった。
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