《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
69. イナーヤ隊長、団員の制止を振り切りサルファー砦に突き進む
69. イナーヤ隊長、団員の制止を振り切りサルファー砦に突き進む
「ここの村に物資を降ろそうと思います。下手に近づいて迎撃されては、
僕たちの前には、地図が広げられていた。
サルファー砦の防衛戦に参加したこていたライムが、地図を見ながら説明する。
「サルファー砦に近づきすぎると、モンスターの恰好の的だもんね」
「その通りです」
僕たちが乗っているのは、スピードに特化した飛空艇である。
それこそ、モンスターの群れに襲われたらひとたまりもないだろう。
「何を怖気づいているのだ? モンスターが襲ってくるなら、蹴散らせばよいではないか?」
イナーヤ隊長が、不機嫌そうにそう言った。
「飛空艇の上で、モンスターの攻撃をしのげる訳がないだろう!」
「自殺したいなら、人を巻き込まないでくれ!」
「貴様ァ! 我は栄えある中央騎士団の隊長だぞ。冒険者ごときが、知ったような口を聞くな!!」
イナーヤ隊長の言葉は、どこか白々しく響く。
「ケンカしたらダメなの。成功する作戦も上手くいかなくなる!」
「むう……。リリアンがそう言うのなら――」
リリアンが止めに入って、冒険者の面々はハッとした表情を浮かべる。
味方同士で争っている場合ではないと、思い直したのだ。
「ふん。身の程知らずめ……」
もっともイナーヤ隊長は、まったく空気を読まない。
周囲の視線を物ともせず椅子に座りこみ、タバコを吹かすのだった。
◆◇◆◇◆
やがて飛空艇が、サルファー砦の傍の村に着陸した。
「先輩? 村、ものすごく
「近くの砦がずっと交戦状態だからね。避難してるんだよ――正しい判断だよ」
村は閑散としていた。
ほとんどの者は、すでに避難していたのだろう。
砦に補給物資を運ぶための、最低限の人数しか残っていないようだった。
残っている村人の表情は、ものすごく暗い。
「そうですね。砦が落ちたら、どれほどの被害が出るか……」
まるで葬式のような空気。
重たい空気を払拭するように、リリアンが声を張り上げた。
「私たちが来たからには、もう大丈夫なの!」
「たったそれっぽっちの人数で、何が出来るって言うんだ……?」
村人たちの
「ここに居るのは、腕利きの冒険者の集まり――災厄の竜を倒した救世主であるイシュアも付いてるの!」
リリアンは励ますように、言葉を続けた。
(こういうところは、本当にリリアンの凄いところだよね)
(……いや僕の名前を出しても、逆効果だと思うけど)
リリアンの声は、不思議と心にスッと入っていくのだ。
どん底に居る者でも、再び立ち上がらせる不思議な力があるのだ。
「ええ!? あの伝説のイシュアさんが、ここにいるっていうのか!?」
「ようやく希望が見えた! この子、四天王を撃退したリリアンだよ」
「
村人たちが、俄然として活気づく。
「飛空艇に物資が積まれています」
「この村を守るためだ。出来ることは、なんでもやらせてくれ!」
「おっしゃ! 援軍に来て下さった方ばかりを、働かせる訳にはいかねえ!」
あっという間に村人に活力を与えたリリアン。
そんな様子を、イナーヤ隊長は憎々しげに睨みつけていた。
「ふん。それなら貴様らはここで、積み荷を降ろすが良い。我々は先行部隊として、サルファー砦に向かうことにしよう」
「ま、待ってください。ライムさんも、受け入れ準備や作戦があると言っていました。そんな勝手なことは――!」
「うるさい! 冒険者ごときが、気安く口をきくな!!」
僕が静止するも、イナーヤ隊長は聞く耳を持たない。
「しょ、正気ですか!? どう考えても、冒険者の言葉が正しいです」
「ライムさんは現場を見ています。今は、その言葉に従いましょうよ」
「うるさい、うるさい! 逃げ帰ってきた臆病者の団員に従う義理がどこにある? 逆らうなら王宮に帰ったら、貴様らを首だ!!」
止めようとする団員も居た。
しかしイナーヤ隊長は、まるで聞き入れる様子もなく、つばを吐きながら怒鳴り散らす。
そして不本意そうな団員を引き連れ、サルファー砦に向かうのだった。
「本当に申し訳ありません。中央騎士団がここまで酷いとは――」
「ライムさんも、苦労してそうだね……」
所属は騎士団である以上、ライムさんは面と向かってイナーヤ隊長に逆らうことも出来ないのだろう。
それでもこちらに残っているのは、彼なりの意思表示か。
(というか中央騎士団の面々は、現場を経験したことがないとか言ってたっけ……)
(――大丈夫なのかな?)
今更ながら不安に思うが、
(まあイナーヤ隊長も、自信満々みたいだったし)
(下手なことにはならないよね?)
だから僕たちは、今ここでやるべきことをしよう。
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