68.マナポーター、王宮で面倒な騎士団長に絡まれる

 冒険者ギルドを出て、僕たちはそのまま王宮に招かれた。

 なんでも援軍に向かうのは冒険者だけでなく、王宮で控えていた騎士団も一緒の合同作戦とのことだった。


「中央騎士団が、ゴネタんです。最近は冒険者ギルドが手柄を上げていて、騎士団のメンツが丸潰れだって」

「め、メンツって……」


 王宮には、僕たちの活躍を快く思わないものも居るということだろう。


「その……何を言われても、気を悪くしないで下さいね。彼らは現場を見ていませんから――冒険者たちの力も必要だということが、まだ理解出来ていないんです」


 冒険者ギルドに駆け込んできた男――ライムが、申し訳なさそうに言った。


「ま、まさか……。この緊急事態に、まさかメンツなんて下らないことを気にする筈が――」

「……世の中が皆、イシュアさんみたいな人だったら良かったんですけどね――」


 ライムの言葉が、やけに印象的だった。




◆◇◆◇◆


 王宮にたどり着いた僕たちを迎えたのは、王宮に勤めている騎士団だった。

 その中の1人がつかつかと前に出て、歓迎の挨拶を述べる。


「我はイナーヤ。栄えある中央騎士団の隊長勤めている。冒険者の方々には、まずは要請に応えてくれて感謝を」

「勇者パーティのリリアンなの。サルファー砦の防衛、力になれるように頑張るの!」


 自然と冒険者の代表のような立ち位置になっていたリリアン。


「ふん。貴様が例の勇者パーティのリリアンか。勇者などという仕組み自体が実に不愉快なのだ。どうやら国王陛下からは随分と気に居られているようだが、その実力はどこまで本物か……」


 口を歪めて言葉を吐き捨てた騎士団長のイナーヤ。

 明確に向けられた敵意。

 ニコニコと笑みを浮かべたまま、リリアンはぽかんと固まる。



「我らが中央騎士団が援軍に向かえば、一瞬でモンスターなど蹴散らせるというのに。何故、国王陛下は、下賤げせんな冒険者などに頼ろうというのだ」


 嘆かわしいと嘆息するイナーヤ。

 胡散臭うさんくさい者でも見るような目でじろじろと見られ、集まった冒険者たちはムッとした顔になる。


「なんだと! いつも偉そうにふんぞり返っているだけで、面倒ごとは全て冒険者に押し付けているくせに!」

「貴様! 中央騎士団を侮辱するのか!」


 そんなやり取りを見て、僕は早々に悟る。


 王宮に勤めている騎士団は選民意識がとても強いのだ。

 貴族の中でもエリートのみが王宮に勤めることを許されるため、自分たちは選ばれた者だという自負があるのだろう。

 仕事へのプライドを持つのは大事だが、それで他者を見下せば要らぬ衝突を引き起こすに決まっていた。

 今のように。



「大陸の英雄様も居るんだってな? ふん。冒険者でありながら、二回も王宮に招かれた身の程知らずは、どこのどいつだ?」


 イナーヤは、なおもネチネチと絡んでくる。

 その言葉の節々から、渦巻く嫉妬が感じられた。



「それは、僕のことですね?」

「貴様がイシュアか。偶然ちょっとばかりの手柄を立てて、国王陛下に気に入られてるからって――調子に乗るなよ?」


 なんか凄まれてしまった。

 しかしカオス神導会の男や、災厄の竜のむせるような殺意を浴びたこともある僕にとって、彼の威圧はこれっぽっちも怖くない。


(う~ん。どうして、ここまで一方的に敵意を持たれるのだろうね?)


「身の程は、わきまえています。ほんとうに身に余る光栄だと――」


 適当にやり過ごそうとしたが、



「イシュアに対する侮辱は許さないの!」

「その通り。俺たちの英雄に、その態度はいただけねえ! 何もせずに蹴落とし合いばかりしてるお前たちは違うんだ!」

「冒険者を舐めるのも大概にしておけよ!!」


 冒険者ギルドに助けを求めてきたライムは、アチャーと頭を抱えていた。

 もしかすると、こうなる未来が見えていたのかもしれない。


「誰とも知れぬ冒険者ごときが、我らに楯突くのか!」

「ふざけるな!!」


 ヒートアップしかかったところで、


「この騒ぎは何事か?」


 姿を現したのは国王陛下だった。




◆◇◆◇◆



「ハッ。身の程を知らない冒険者の者たちに、立場というものを教え込もうと――」

「ばかもの!!!」


 イナーヤ隊長の言葉に、国王陛下が一括した。

 ビリビリっと空気が震えるような迫力。



「し、しかし! 我々、中央騎士団にも威厳というものが――!」

「今回、冒険者ギルドに救援を要請することを決定したのは私だ。イナーヤ隊長、貴様は私の決定に異を唱えるというのだな?」


「そ、そんなつもりは――!」


 先程までの威勢はどこへやら。

 イナーヤ隊長はギリギリと歯ぎしりしながらも、反論は出来いようだった。


「イシュア殿、リリアン嬢。ほんとうに済まなかった」


 国王陛下は躊躇ちゅうちょなく、深々と頭を下げる。



「や、やめて下さい。別に、僕は気にしてませんから!」

「そうです! どうして国王陛下が、そんな奴らに頭を下げるんですか!!」


 イナーヤ隊長は尚も納得がいかないとばかりに、こちらを睨んでいた。

 国王陛下が頭を下げてまで、丸く収めようとしているのに台無しである。



「黙れ! サルファー砦の未来は、この者たちにかかっているのだ!」

「中央騎士団だけで十分だと、申し上げたはずです!!」


「……どうしてもというから、同行を許可したが。これ以上の問題を起こすようであれば――分かっているな!!」


 国王陛下の目は、本気も本気だった。


 イナーヤ隊長は、ここでようやく国王陛下の意思が固いことを悟る。

 自分の発言が、どれほどの怒りを買ってしまったのかも。


「申し訳ありませんでした」


 しかし感情は別のようだ。

 イナーヤ隊長は、苦虫を嚙み潰したような顔で、形だけの謝罪をした。



 友好的な雰囲気とは程遠かった。

 結局、この場はこれで解散となった。



◆◇◆◇◆


「すいません、皆さん。わざわざ協力いただくのに、中央騎士団があんな調子じゃ――」


「ちょっと驚いたけど、別に気にしてはいないよ。……でも、あそこまで敵意を持たれたのは、ちょっと面倒だね――」

「む~。私はイシュアを悪く言ったことは許せないの!」

 

 リリアンが、ぷく~と頬を膨らませていた。

 


 先行きは不安だが、気にしても仕方ない。

 そうして僕たちは、王宮で用意された乗り物に乗り込んだ。


 最先端の研究がふんだんに盛り込まれた世界最速の飛空艇らしい。

 そうして僕たちは中央騎士団の者と共に、サルファー砦に向かうことになった。

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