67.マナポーター、モンスターの大群に襲われているらしきサルファー砦に向かう

 いつものように冒険者ギルドでクエストを探していた時のこと。


「ギルドマスターは居るか?」


 王国騎士が冒険者ギルドに駆け込んでくると、ひどく慌ててそう言った。

 受付嬢がパタパタと走り去り、彼をギルドマスターの部屋に招き入れる。


「どうしたんだろう?」

「う~ん、ものすごい慌てようでしたね?」


 アリアと顔を見合わせて、首を傾げる。

 果たして何が起こったのかは、すぐに判明した。



「『緊急クエスト』を発令する!」


 ギルドマスターは10分もしないうちに出て来ると、そう声を張り上げた。

 クエスト表題は「サルファー砦防衛戦に援軍として参加」と書かれている。



「うおー! 最近多いな、緊急クエスト!」

「馬鹿っ、何を喜んでるんだよ! それだけ異常事態が続いてるってことだぞ!」


 誰かが喝采を上げ、それを非難する声が上がる。

 危険を伴うことも多い緊急クエストだが、報酬も極めて大きく成功させることは何よりも名誉だ。

 少しだけ浮ついた空気がギルドに流れそうになるが、



「サルファー砦? 魔界と接してる大陸北端の防衛ラインなの。落とされたら大変なの!」


 リリアンの言葉で、ピンと空気が張り詰めた。

 この緊急クエストが、どれほどの意味を持つかに気が付いたのだろう。


 サルファー砦――僕は知識を記憶から引っ張り出す。


「これまで問題になったことはないですよね? 防衛ラインがどれだけ重要か、誰もが嫌という程、知っているはずです。各防衛ラインは、十分すぎるほどの戦力を持っていると聞いたことがあります」


 魔界と接している防衛ラインは、強固な防衛ラインが敷かれている。

 王国直属の騎士や、スカウトされた冒険者、フリーの傭兵など、腕の立つ者を中心に、万全の態勢を整えていると冒険者育成機関で講師が言っていたはずだ。

 


「十分すぎる戦力を有していたはずなんだけどね……。伝令によると、モンスターの数が急に増えたらしいんだ。おまけに随分と組織立った行動をするらしく、戦いは長期化しているとも。物資切れも相次いでいてな――すぐにでも援軍が欲しいと言っていた」


 どうやら状況はあまり良くないらしい。

 王国に救援要請が届くほどの緊急事態なのだから、当然と言えば当然だった。



「そ、想像以上にやばそうなクエストだな――」

「お、俺……急に腹が痛くなってきて……」

「さーて、採集クエストに行ってこようかな~」


 緊急クエストのやばさを悟り、先ほどまで騒いでいた冒険者たちがあっという間に手のひらを返す。

 それも当然の判断だろう――命あっての物種なのだから。



「どうする、リリアン?」

「この間のスタンピードとの繋がりも気になるの。もちろん向かうの!」


「了解、僕もマナポーターとして全力を尽くすよ!」


 当たり前のように頷き合う僕たち。

 そんな様子を見て、ギルドマスターが深々と頭を下げた。


「災厄の竜を撃退したばかりで疲れているところ申し訳ありません。あなたたちが受注してくれるなら安心です」

「任せて欲しいの!」


 リリアンはいつも通り無邪気な笑みを浮かべる。

 この人に任せておけばすべて上手くいきそうと思わせるような心強い笑みで――


「――ね、イシュア?」」


 何故かこちらを振り返った。


(って、なんでこっちに振ったの!?)

(そこでマナポーターの名前なんて出したら、士気が下がるんじゃないかな……?)


 そんな僕の予想に反して、



「イシュアさんたちばかりに、厄介ごとを押しつけてられねえ! 俺もやってやるぜ!」

「おっしゃあ! ここで手柄を立ててBランクになってやる!」

「俺、この戦いが終わったら、けっこ――」

「おい馬鹿、やめろ!」


 ギルドに居る冒険者たちは、物凄くやる気に満ち溢れていた。

 そんな様子を見て、満足そうにニコニコするリリアン。



「イシュアさんは、すごいですね。名前が出るだけで、ここまで士気が上がるなんて」


 そんな中、受付嬢がこちらにやってくると、そんなことを言った。


「まさか……。すべてはリリアンのカリスマの為せる技ですよ」

「ふふ、でもイシュアさんが居れば心強いのは本当ですね。――イシュアさんが居れば、砦に居る兵士全員の魔力を補えちゃうかもしれませんね?」


「はは、もしそうなら本当に心強いですなあ。恥ずかしながら我らが騎士団は、1000人単位でマナ切れを起こしているそうで……。長期的な防衛戦は、やはりマナの補給が一番の悩みですなあ」


 駆け付けた騎士団の男が、そんなことを言った。


 戦場に居ながら、魔力不足で戦えないのは魔法職にとって歯がゆいことだろう。

 直接は戦う事は出来ない僕でも、砦でやれることは十分にありそうだ。


「それぐらいなら十分支援可能です。任せて下さい」

「――はあ? そんなこと、可能な人間が居るはずが……」


「ふふっ。先輩をそこら辺の一般人と一緒にしないでください。ね、先輩?」

「同意を求めないで、アリア!?」


 騎士団の男は、信じられないとアリアや受付嬢の顔を見ていた。

 彼女たちがいたって大真面目な顔をしているのを見て、ぽかーんと口を開けるのだった。



 そうして僕たちは、緊急クエストを受注した何組かの冒険者と共に、サルファー砦に向かうことになった。

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