65.フリーの日に疲れを残すのはご法度だけど、そっと許す優しさも必要だよね?

 ボス部屋に入ること、わずか10秒。

 ダンジョンのボスは倒されて光の粒子に変わっていた。


 結果から言うと、ダンジョンのボスはまるで相手にもならなかった。

 というか、剣聖のディアナがワンパンした。



「ひどいッス! あそこは全員で協力して、ボスを倒す場面じゃないッスか?」

「みー、消化不良」

「ごめんなさい。ディアナが空気読めなくて」


「ええ……? 何で私が責められてるの!?」


 思えば格下のダンジョンだったのだ。

 これならボス部屋に1人で挑むリリアンを、別に慌てて止めることもなかったと思い直すディアナ。

 もっともリリアンの焦りを知れたので、結果オーライではあったのだが。


 もともとは、ダンジョン内のアイテムを採集するだけのクエスト。

 ついでのようにダンジョンを完全攻略して、リリアンは達成感に満ちた顔をする。



「リリアン? 受けたクエストはこれで終わり?」

「えっと、実は……これとこれも――」


 ディアナの確認に、おずおずと依頼書を取り出すリリアン。

 その中身を見て、ディアナはヒッと息を呑んだ。


「アルベス平野。それとピンキー山脈って、ここから正反対じゃん! ……どうしてこんな無茶なクエストの受け方をしたの――?」

「ちょっと焦って……。貼られてる中で難易度が高いものを受けたら、気が付いたらこうなってた……」


 普通なら疑問を持ちそうな受付嬢も、まあリリアンなら大丈夫かと口を出さなかったのだ。

 リリアンの信頼度の高さが仇になった形だろうか。


「1日飛び回ってもギリギリだよ! 早く次、行こう!」

「え、いいの?」


「乗り掛かった船ッス!」

「不完全燃焼だったし、ちょうど良い」


 驚くリリアンに、ミーティアたちは当たり前のように頷く。

 ここまで来て途中で帰る方が、気になって仕方ない。



 そうしてリリアンたちは、受注したクエストを1日かけて消化していった。


「なんだか武者修行のために、片っ端から"ハズレ依頼"を消化してた日々を思い出すッスね!」

「みー、でも思い出すには少し不吉」


 クエストに巻き込まれている間に、イシュアにはエルフの里に旅立たれた。

 さらには待ちに待った帰還のタイミングには、クエストで遥か遠方の地。

 ――2人の脳裏によぎるのは、イシュアと合流出来なかったそんな日々であった。



「私もなかなかイシュアとパーティが組めなかったの」

「リリアンの場合は、単にリリアンが恥ずかしがって――」


「ディアナ~! それ以上はダメなの!」

「はいはい。もうバレバレだと思うけどな……?」


 ぷく~っと頬を膨らませるリリアン。

 そんな彼女に、メンバーからは生暖かい目が向けられる。


 彼女ほど好意が表に出やすい者も珍しいが、本人はこれでも真面目に隠そうとしているのだ。



 フリーの日とは何だったのか、というぐらいには忙しい1日となった。

 それでも確かにパーティメンバーの仲は縮まっているのだろう。

 そうして彼女たちのフリーの日も、終わろうとしていた。




◆◇◆◇◆


 そして翌日、冒険者ギルドにて。


「ごめん。その……羽目を外し過ぎたみたいで――アリアが二日酔いで」

「う~、ごめんなさいなの。昨日のクエストの疲れが取れなくて、今日も休息日にして欲しいの……」


 そこには申し訳なさそうに頭を下げる、イシュアとリリアンの姿があった。


「え、フリーの日にどうしてクエストを?」

「ふ、二日酔い……?」


 お互いに顔を見合わせて、


((詮索はしないでおこう))


 妙なところで意気投合した。



 結局、アリアの誘いを断り切れずに付き合い、ついつい周囲に居た冒険者と盛り上がってしまい……気がつけばそうなっていたのだ。

 リリアンもかなりのハードスケジュールでクエストを消化しており……本調子には程遠かったのだ。



 基本的に何をしていても良いフリーの日だが、翌日に疲れを残すのはご法度であるが――


「……今日もフリーの日にするの。明日から頑張るの」

「ごめん、リリアン。助かるよ」


 やらかしてしまったときは、そっと許す優しさもパーティが上手くやっていくための秘訣なのだろう。たぶん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る