58.元勇者の末路③ 〜激怒する国王、指名手配犯になった元・勇者〜

「くそっ。なんて奴だ」


 残された自警団のリーダーは、去っていった元・勇者をにらみつけた。

 まさか、あのような暴挙に出るとは。



「急げ、迎え撃つぞ!」


 勇者が予想以上のクズだったからと言って、自分たちがやることは変わらない。

 隊長は部下に回復薬を飲ませて周り、襲ってくるであろうモンスターの群れをにらみつけた。


「勝てる見込みの少ない戦いだ。こんなことになって……悪いな」

「隊長は何も悪くありません。あれで元・勇者ですか――ああはなりたくないものです」


 アランの行動は、深々と人々の胸に刻まれた。

 決して真似してはいけない反面教師として。


 そうしてモンスターを迎え撃つ覚悟を決めたのたが――




「な!? モンスターが去って行く……だと!?」

「いったい何がどうなっているんだ!?」


 まるで目的は果たしたとばかりに、モンスターの群れが去って行くではないか。



「隊長? 助かったんですかね……?」

「ああ、どうやらそのようだが――」


 口にするまでも無い違和感。

 ある目的を果たすために現れ、それが成ったから速やかに立ち去ったのだろう。

 無邪気に喜べない不気味さがあった。



「大失態ではあるが――これは国王陛下に報告しなければいけないことが、増えてしまったかもしれないな」


 考えても仕方がない。

 今できることをやるしかない、リーダーはそう首を降った。




◆◇◆◇◆


「元・勇者が犯罪者ギルドに手を貸していた?」

「アメディア領の状況につけ込んで、違法薬物を売ろうとしていただと?」


 その日、謁見の間には戦慄が走った。

 アメディア領の使者から、耳を疑う報告が飛び込んてきたのだ。



 国王は怒りにわなわなと震えていた。

 勇者を最終的に任命するのは国王だ。

 スキルもさることながら、この人物なら人類を背負って立つ希望となるだろう――そんな期待を込めて任命していた。


 犯罪者ギルドと共に行動をしているアランの行動は、そんな国王の顔に泥を塗るなんてものではない。



「それで勇者はどこに……?」

「申し訳ありません……! モンスターのスタンピードに襲われ、思わず勇者に頼ってしまい――拘束を解いたところを取り逃しました!」


「スタンピードだと!?」


 ざわっとどよめきが広がった。



「幸いにしてモンスターの群れは、どこも襲わずに去っていきましたが――なんとも不気味な光景でした」

「そうか……」


 重々しい沈黙。

 モンスターが大量発生し、無作為に暴れるのではなく、何らかの目的を持っている動いている――その不気味さが分からぬ愚か者はここに居ないのだ。



「思わず勇者を頼ってしまった私の落ち度です。部下は何も悪くありません。罰ならばどうか私ひとりに―」

「罰などあろうはずがなかろう。こうして無事に生き残り、報告を上げてくれただけで大手柄だ!」


 国王の言葉は暖かいものだった。

 その言葉を聞いて、自警団の男はほっと胸を撫でおろす。



「それにしても――元・勇者でありながら、モンスターの群れを前に尻尾を巻いて逃げ出すとは。なんと情けないことだ……」

「逃げ出すどころか拘束を解いたら、モンスターでなく我々に襲いかかりましたからね。あいつは、最初から俺たちをオトリにするつもりだったんですよ」



 国王が絶句した。


「あいつは、どこまでわしの顔に泥を塗れば気がすむんだ……」



 名実ともに犯罪者にまで落ちぶれた元・勇者。

 これを見過ごすことは、国王の威信にも関わる。


「勇者に任命されながら、世界樹を滅ぼしかけ、反省もせず違法薬物の売人となった。さらには保身ために、罪もない一般人に襲いかかったという。許しがたい行為だ……重大犯罪者として指名手配し、すぐに討伐部隊を組織せよ――!」

「と、討伐部隊ですか?」


 国王は重々しくうなずいた。

 ここまでの勇者の悪名を聞き、反論する者も当然ながら誰も居なかった。




 そうして勇者は凶悪犯罪者として、国中で指名手配されることになった。

 ギルドにも手配書が出回り、もはや勇者が落ち着いて過ごせる場所は、この国には存在しない。

 さらに国王が直々に結成した討伐部隊により、常にその命を狙われる事となる。



 これまでの勇者の行動を思えば、当然の末路であった。

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