《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
57.元勇者の末路② 〜スタンピードの発生、勇者逃亡〜
57.元勇者の末路② 〜スタンピードの発生、勇者逃亡〜
ハーベストの村の自警団の馬車に乗せられ、アランは王城に移動していた。
領と領をつなぐ、それなりに整備された大通りだ。
「なあ、俺は死んだってことにして逃してくれないか。犯罪者ギルドに加担していた元勇者が居たなんて、表沙汰にならない方が良いだろう?」
「ふざけるな! そんなこと出来るはずがないだろう!!」
自警団のリーダーが、アランを怒鳴りつけた。
正義感の強い自警団の男にとって、アランの行動は、決して許せるものではない。
何がなんでも、報いを受けさせてやろうと意気込んでいたのだ。
「逃げようなんて考えるんじゃねえぞ?」
「くそっ。分かってるさ」
常に見張り目を光らせており、とても逃げ出すのは不可能。
それでも往生際悪く、アランは逃げ出す機会をうかがっていた。
そして――
「おい、なんだあれは――?」
「冗談だろう……?」
何十というモンスターの集団が、群れをなしアランたちに襲いかかってきたのだ。
自警団の面々が困惑するのも無理はない。
いったいどこから現れたのか。
「な、なんだあの数は?」
「ま、まさかモンスターの異常発生――スタンピードか?」
「まずいぞ! あんなものが街になだれ込んだら……。大きな被害が出る!」
自警団の面々が、大混乱に陥った。
ハーベストの村の周辺は平和であり、これほどのモンスターの集団を相手にすることなど無かったのだ。
「だ、誰か近くの街に走ってスタンピードだと伝えてくれ。俺たちはここで喰い止める!」
「そ、そんな……! ――隊長!」
それでもひとり伝令を走らせ、隊長は迎え撃つことを覚悟。
モンスターの集団を相手に、一歩も引かない覚悟を見せた。
自警団の面々は、明らかにモンスターの集団に怯えている。
アランは、千載一遇の好機にほくそ笑んだ。
「俺だって勇者の端くれだ! モンスターを相手にして、こうして縛られてるだけなんてあり得ない! それこそ勇者失格だ!」
「何を言っているんだ?」
「いいから俺の縄を解け! こんなところで死にたくはないだろう!?」
絶望的な状況での甘いささやき。
目の前の男が勇者だと、心のどこかで信じてしまったのだろう。
自警団の男が、思わず信じてしまったのも無理はない。
「ふっ。ありがとよ、間抜けな自警団さん!」
縄を解かれたアランが、真っ先に襲いかかったのは自警団の隊長だった。
完全な不意打ち――腹部を深々と切り裂かれ、あっけなく隊長は倒れ伏す。
あっけにとられる自警団の面々に、アランは次々と襲いかかる。
アランの実力は大したことがない。
それでも、いきなり解き放たれた凶刃を振るう勇者を前に、対応できる者は居なかった。
「このマナポーションは貰っていくぜ?」
「くっ、くそ……。おまえ、はじめからこのつもりで……」
「当たり前だろう」
自警団の隊長は、切りつけられた腹部を抑えながら憎々しげにうめいた。
「あんなモンスターの群れ――とても相手にしていられない」
「その聖剣を振るえば、倒せるのではないか?」
「そうして魔力切れを起こしたところを、捕まえようってわけか? そんなのはごめんだね!」
アランは手の中で、剣をくるくるっと遊ばせる。
最初からモンスターを相手にするつもりなど、無かったのだ。
「あばよ! モンスターの足止めは頼んだぜ?」
そうして勇者は逃げ出した。
スタンピードの発生を知りながら、なんの対応策を取ることもなく。
ただ己の自由だけを求めて――逃走したのだ。
その男に勇者としてのプライドは、欠片も残っていなかった。
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