56.マナポーター、アメディア領で英雄として石像を作られそうになってしまう!

 屋敷に戻り、僕たちはカオス神導会の男を領主に突き出した。

 領内での一連の出来事の元凶だ。

 領主は怒りに燃えた目で男をにらみつけ、厳重な取り調べを約束した。


「災厄の竜を復活させて、何をしようとしていたんでしょうね?」

「カオス神導会は、大陸中に根を張る怪しい宗教だ――我々には理解することも出来んよ。まさか我が領土で活動していたとはな……」


 領主は顔をしかめた。


 死こそが救済であり世界は滅ぶべきであるとうたうカオス神導会は、早々に危険視はされていたそうだ。

 それでも表立った行動もなく、どうにも出来なかった状態で発生した今回の事件。

 国王の判断次第では、国が大々的に動くかもしれない。


 僕たちはそのまま、領主に勧められて一泊することになった。




◆◇◆◇◆


「美味しいです。アメディア領、ほんとうに素敵な場所です!」

「はは。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 その夜、僕たちは領主の家族とテーブルを囲んでいた。

 なんと屋敷で働く使用人も一緒だった。

 アメディア領の英雄をもてなすのだと、使用人たちが随分と気合を入れて準備したらしい。



「ミーティア様とリディル様には、また救われてしまいました。なんとお礼を言ったら良いのか――ほんとうにありがとうございました!」


「冒険者として当然のことをしただけッス」

「みー。すっかり元気になったみたいで良かった」


 ぺこりと頭を下げて、屈託なく笑う領主の娘。

 アメディア領に薬を届けに行く行商人を、偶然通りがかった2人が助けたことがあったらしい。

 久々の再会に、ミーティアとリディルも嬉しそうに笑っていた。



「改めて信じられないな。以前は何人もの勇者が集まって、封印が精いっぱいだったのだろう。よくぞ無事に戻ってきた!」


 しみじみの領主が口にする。


「かつての勇者より、このパーティが強かった。それだけなの!」


 リリアンの言葉を、決して誇張だとは思わない。

 高難易度のダンジョンをあっさりとクリアし、災厄の竜だって撃退したのだ。

 このパーティはきっと、かつての勇者たちより強い。



「改めてあなたたちに心からの感謝を。あなたたちがいなければ、この領はどうなっていたことか――あなたたちはこの領の英雄だ!」


 領主は勢いよく、僕にそう言った。

 それだけで話は終わらず、領主はこんなことまで言い出した。



「そうだ! 我が領の英雄として、石像を作らせよう!」

「勘弁して下さい」


 光の速さで拒否。


 領主の顔を見て、気が付いてしまった事実。

 この領主――ちょっと酔っている。



 僕は自分の石像が、領地に立っている光景を想像してみた。

 ……想像するだけで、悶絶もんぜつしそうなほどに恥ずかしい。


「むう。一流の石材師を呼ぶぞ? 領内のどこからでも見えて拝めるように、大陸一の立派な石像に仕上げてみせる!」

「勘弁して下さい」



「先輩、先輩! こんな機会めったに無いですよ? 勿体ないですよ!」

「そうなの! イシュアの石像、見たいの!」


 さらにはアリアとリリアンまでが身を乗り出して、そんなことを言い出した。

 味方に背中を撃たれた気分だ。


(というか――しまった!)

(この2人が酔うと収拾が付かない!)


 ほろ酔いの領主を見て、慌てる僕。

 しかしこの2人、なんと今日は酔って――いなかった!


「リリアンさん、それお酒ッス!」

「アリア。そのジュースより、こっちの方が美味しいよ?」


 ……影では、ミーティアとリディルが大活躍していた。



「ただの支援職である僕より、勇者と聖女の石像を作るべきです。リリアンとアリアは、見ている人に希望を与えます!」


「え、イシュア……?」

「……先輩、ごめんなさい。想像して――ちょっと心に来るものがありました」


「うん、分かってくれて良かったよ」


 納得した様子の2人。

 しかし、話はそれで終わらなかった。



「むう、たしかに英雄はこのパーティ全員なのだよな。ひとりだけというのは不公平だな。ここはパーティメンバー全員の石像を、平等に作ろうでは――!」

「「「「「勘弁して下さい!」」」」」


 パーティメンバー全員の魂の叫び。


「むう、残念だよ。我が領にとっての英雄――どうにかして感謝の気持ちを伝えたいと思ったのだがな」

「き、気持ちだけで十分です」



 見かねたのか、娘が会話に割り込んできた。


「もう。お父さん、酔いすぎ! 勇者様、ごめんなさい。長年の問題が片付いて、お父さん浮かれてるみたい」


「ルナシーや? お父さん、酔ってなんか居ないぞ?」

「酔っ払いはみんなそう言うの!」


 普段は厳格な領主が見せる、ちょっぴり情けない一面。

 テーブルを囲む使用人たちも、屈託ない笑みを浮かべていた。

 平和な光景だった。




◆◇◆◇◆


「なにか旅で助けが必要になったら、いつでも遠慮せず我が領に遊びに来てください! 何をおいても最優先で歓迎しますから!」


 そうして領主たちに名残惜しく見送られ。

 翌日、僕たちはクエストを報告するためにノービッシュに出発した。

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