四章 《魔力無限》のマナポータ、四天王を撃退する

59.マナポーター、ギルドでまたしても特別恩賞を送られてしまう!

 事の顛末てんまつを報告するため、ノービッシュの街に戻った僕たちは予想外の事実を知ることになる。


「先輩、あれって……?」

「間違いないね。アランだよ」


 指名手配犯として、見覚えのある人相書きが出回っていたのだ。

 罪状を見ると僕たちの知っているもののほかに、輸送中に自警団に襲い掛かって逃げ出したなんてものが追加されていた。

 幸いにして自警団のメンバーに大事に至ったものは居ないらしい。


「大丈夫ですかね? 先輩、アランからずいぶんと憎まれてますよね?」

「イシュア様は何も悪くないッス。完全な逆恨みッス!」

 

 ハーベストの村で向けられた憎悪にも似た感情を思い出す。

 自らが落ちぶれた怒りを、僕たちに向けているのだ。



「気を付けるしかないね」


 迷惑な話ではあるが、向かってくるなら降りかかる火の粉は払わないといけない。

 黙ってやられる訳にはいかないのだ。


 そんなことを話しながら、僕たちはクエスト報告のため冒険者ギルドに向かった。




◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドに入り、僕たちは受付嬢にクエストの報告をしていた。

 ギルドの建物には、普段は見ないほどに冒険者が集まっていた。

 とあるクエストの前に人がたむろしており、混乱にも近い騒ぎが起きていたのだ。



(うわ……。緊急クエストが発令されてるみたいだね)

(まあ、僕みたいな新米冒険者には関係ないか)


 緊急クエストとは、何より優先して解決すべき高難易度クエストのことだ。

 たいていの場合は指名依頼という形で、トップランクの冒険者に直接依頼が届くそうだ。

 しかし今回は、とにかく人数が必要という判断らしく、一般の依頼と同じように貼りだされていた。



「今日はクエストの報告に来たの!」

「え、リリアンさん!? え、え!?」


 元気よく報告に向かうリリアンを見て、受付嬢がぽかんと口を開けた。

 その驚きにただならぬ雰囲気を感じ、僕も受付嬢に質問する。



「どうしましたか?」

「ええっと? アメディア領のマナが、災厄の竜が眠る地に集められているんですよね。あまりの事態に、大慌てで緊急クエストを発令したんですが……」


「あ、それならもう大丈夫です。もう倒しました」

「――は?」


 ぽかんと口を開く受付嬢。

 なんと冒険者ギルドに貼りだされた緊急クエストは、災厄の竜にまつわる物だったらしい。



「イシュア凄かったの! 時の流れを歪めて、2人の魔法をアリアの魔法に変換してぶわーって! 最後は瞬間移動したの!」

「――ええっと……?」


 困惑する受付嬢に、テンション高くリリアンがそんなことを言った。



「ほんとうに復活しちゃったんですか、災厄の竜?」

「カオス神導会の仕業でした。不完全な形ですが……」


「それで、ほんとうに倒しちゃったんですか? 勇者が束になっても封印が精いっぱいの災厄の竜を……」

「つ、つい。まずかったですか?」


 もしかして緊急クエストの横取りになってしまうのだろうか。

 少し慌てた僕だったが、


「まずくはないですけど――待ってくださいね。ちょっと現実が受け入れられないだけですので……」


 ぐるぐると目を回している受付嬢。

 彼女がこれほどまでに取り乱した様子を見せるのは初めてだ。

 


「またイシュアさんたちがやりやがった!!」

「災厄の竜を単独パーティで撃破だって!? どうなってるんだ!?」


「くそっ! せっかくイシュアさんたちに恩返しするチャンスだと思ったのに!」

「バカッ! あんたなんかが行ったところで、災厄の竜に踏みつぶされて終わりだよ!」

「そんな言い方はないだろう!」


 騒ぎを聞きつけ、ギルドにいた冒険者たちにもウワサが一瞬で広がった。

 そのどれもが僕たちを賞賛するもので――



「うん! イシュアはすごいの!」


 さらにパーティのリーダであるはずのリリアンまでもが、ギルドのメンバーと同じように目を輝かせて僕を見ていた。

 ……ギルド中から注目を浴びてしまい、なんだか恥ずかしい。


「いや、リーダーのリリアンの手柄だよ!? 受け取って、受け取って!」

「イシュアが居なかったら、絶対に無理だったの」


「それ言ったら、ただの支援職でしかない僕も同じだから!」


 本心からお互いにそう思っていたし――どちらの言うこともきっと正しい。

 このパーティから誰が欠けても勝てない。

 そんなギリギリの戦いだった。




「もはや、こんなもので報いれるものではないのですが――また特別恩賞を送りたいと思います。あなたたちは当ギルドの誇り。いいえ、国の誇りです!」

「え、そんな短期間に2回も受け取れませんよ!?」


 歴史に名を残すような偉業を成し遂げた冒険者に贈られるのが特別恩賞だ。

 さすがに安売りし過ぎではないだろうか?



「イシュアさん、良いですか。災厄の竜ですよ、災厄の竜!」

「は、はあ……」


「放っておいたら、下手するとアメディア領が地図から消えます! 倒そうにもどれだけの犠牲者が出ることか……それを犠牲者ゼロで成し遂げてしまった。歴史に残る偉業です――それだけのことをしたんです!!」

「むしろ特別恩賞ぐらいでしか報いれないのが口惜しいほどだ」


 受付嬢が両手をグッと胸に当てて力説。

 いつの間にか現れたギルドマスターまで、隣で深々と頷いていた。


「――そんなことでランクが上がり続けたら、他の冒険者からも不満が……」

「出る訳がないでしょう?」


 受付嬢が、そっと回りを指さした。



「イシュア様は真の英雄! 本当ならとっくにSランクになるべき冒険者です!」

「冒険者には実績に見合ったランクが与えられるべきだ。文句を言うやつがいたら、俺たちが袋叩きにしてやるさ!」


 ニカっと笑う冒険者が居る。

 納得いかないなんて顔をしている者は、ひとりも居なかった。



「そもそも、イシュアさんがBランクなんてのがおかしいんだ」

「そうよ。あんたとイシュア様が同じランクなんて有り得ないわ!」

「ちょっ? 事実だけど、それは酷くないか?」


 そんな言い争いまで起こり、ドッと笑いに包まれる。

 驚くことにこちらを見る冒険者は、みな晴れ晴れとした顔をしていた。


 それなら――


「ええっと。パーティ全員に、ですよね?」

「もちろんですよ!」


「なら……受け取ります! 良いかな、リリアン?」

「もちろんなの!」


 こうしてメンバー全員に、特別恩賞が贈られた。

 その日、僕とアリアは揃ってAランク冒険者となった。



(といっても、個人ライセンスを使う機会は、当分なさそうだね)


 個人ライセンスを使うということは、勇者パーティのライセンスが失効するということ。

 パーティからの離脱か、解散を意味する。

 そんな日は来ないだろう――笑い合うメンバーを見て、僕はそう思った。

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