52.マナポーター、災厄の竜を討伐する① ~作戦開始~

「お願い!」


 祈るようにリリアンが生み出したのは幻想の剣。

 それを手にしたディアナを阻むものは誰もいない。



「『エンハンスド・シャープネス!』『エレメント・シャープネス!』『パーティ・リカバー』『プロテクション!』」

 

 さらにはアリアが、フルセットで支援魔法をかける。



「みんな、出し惜しみはしなくて良い。魔力は僕がどうにかする!」


「分かったッス」

「みー、分かった」


 5人分の魔力を補うとなると、相応の集中力が必要となるが仕方ない。

 僕の言葉に応えて、パーティメンバーがいっせいに災厄の竜に襲いかかった。



「神の怒りに触れし矮小なるものに神の裁きを与えたまえ――出でよ、審判の雷!!」

「魔剣よ、ウチに力を貸すっス! ――グリム・ランサー!」


 まばゆい光とすべてを塗りつぶす黒が混ざり合って、災厄の竜に直撃する。

 どんな敵であっても一撃で葬ると思われた威力を秘めた攻撃だったが――結果は無傷。



「デリャアアアアア!」


 ディアナが一気に接近し、災厄の竜の尻尾に切りかかったが、あっさりと弾かれてしまう。

 すきが出来たのを見て、災厄の竜をが鋭い爪をディアナに向けて放つ。



『ッ! デュアル・プロテクション! デュアル・プロテクション!』


 アリアがあらかじめ展開してくれていた防御魔法を、慌ててディアナの周囲に展開。

 二重詠唱をさらに重ねがけするが、それでも竜の爪を防ぎ切ることは出来なかった。



「ディアナ!?」

「リリアン、落ち着いてください! すぐに直せます――リザレクション!」


 紙切れのように吹き飛ばされたディアナ。

 まともに攻撃を喰らったように見えるディアナを見て、思わず悲鳴をあげるリリアン。



「危なかった。間一髪、剣を差し込めたけど――まともに喰らったら今頃死んでたね」

「ディアナ! もう危ないことはしないで!」


 かろうじて防御が間に合ったのと、アリアの回復魔法により大事にはいたらない。

 それでもリリアンが、涙目で訴えかけた。



「ウチらの全力の攻撃を受けたのに、ピンピンしてるッス」

「みー、攻撃が全然効いてない」


 なにか取っ掛かりが欲しかった。


「先輩、私も攻撃に加わりますか?」

「基本的には支援に専念してほしいけど……少しだけお願い!」


「分かりました。やってみます――『ホーリーノヴァ!』」


 なにもアリアが出来るのは、支援魔法だけではない。

 聖女のジョブを極めたアリアは、高位の神聖魔法だって使えるのだ。

 アリアの放った一撃は、災厄の竜に直撃し――その体の一部をえぐりとった!



「き、効いてる?」

「いいえ、私の攻撃では倒し切ることは出来ないようです。どんどん再生しています」


 効いてる感触はあった。

 しかし、倒し切るにはいたらない。

 ぼごぼごっと不気味な音を立てて、災厄の竜の肉体があっという間に蘇っていく。



「やっぱり、闇のマナを中和しないと話にならなそうだね……」

「先輩? そんなこと出来るんですか!?」


「光のマナを流しこめば良いだけだから、可能だとは思うけど……さすがに時間がかかりすぎるかな」


 プロテクションの魔法を、あっさりと貫いてきた災厄の竜の攻撃力。

 持久戦を挑むのは、だいぶ分が悪く思えた。


「そ、そんな。イシュアですら、どうしようもないなんて――」

「いいや、マナの中和って戦術が使えないだけだよ。弱点も分かったし、このパーティなら勝てると思うよ」


 これから説明する作戦がハマれば、決して倒せない敵ではないはずだ。

 このパーティの力量は、ほんとうに高い。

 不安要素があるとすれば――


「これから説明する作戦は、僕が作戦の中心になるからね。成功するかどうかも、最終的には僕次第になる。マナポーターとしての腕を信じてくれるなら、乗って欲しいんだけど――」


「信じるに決まってるの! 私はイシュアが居なかったら、ここまで来れてなかったの!」

「そうです。先輩のことを信じない人が、今さらこのパーティに居るわけ無いじゃないですか!」


 リリアンとアリアが口々にそう言い、パーティの面々がうなずいた。



(ただのマナポーターが作戦の中心になる――)

(どうやって説得しようかと思ってたけど……。そうか――)


「先輩。それで私は、何をすれば良いですか?」


 アリアが信頼しきった曇りのない目で、僕を見つめる。

 じんわりと胸が暖かくなった。



「試してみたいのは攻撃魔法の属性変転」

「属性変転?」


 きょとんと首をかしげられた。

 たしかに馴染みのない概念ではある。

 それでも魔法の威力を効率的に上げるために、自然と行きつくひとつの理論だ。



「攻撃を集めて、別属性の攻撃に変換する。今回は光属性の魔法が良いね――再生されるなら、再生が追いつかないように一撃で吹き飛ばせば良い」

「……!? そんな理論、机上の空論過ぎて実践で使えるはずが―」


「そこは僕のマナポーターとしての腕次第。万が一にも暴発したら、全員を巻き込んで自爆しかねない。それでも――」


 リリアンたちは、少しだけ顔を見合わせたが互いにうなずき合う。


「やろう!」


 迷いのない言葉。

 ここまで言い切られてしまえば、僕も後には引けなかった。



「リディルの最上位魔法と、ミーティアの魔剣による攻撃。オリジナルの魔法としてアリアの攻撃魔法も欲しいね」



「イシュア、私とディアナは?」

「……ふたりには申し訳ないけど、災厄の竜の攻撃をどうにかして防いで欲しい」


 作戦に名前が出てこず、不満そうなリリアン。


「――楽勝なの!」


 僕がお願いしたのは、要するにおとりだ。

 一番危険も大きい役割。

 それでもパッと表情を明るくして、リリアンは笑顔でそう答えた。



「もちろんフォローはする。出来るだけ危ないことはしないで――」

「イシュア、役割分担なの! こっちは気にしないで。時間稼ぎは任せて欲しいの!」


「――分かった。とどめは任せて! 絶対に一撃で決めるから!」


 必要なのは中途半端な思いやりではない。

 相手を信じぬく心と、自分の役割を絶対に果たすという強い覚悟だ。


 僕の返事に、リリアンは満足したようにうなずいた。



 ――そうして災厄の竜を討ち倒すための作戦が始まった。

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