50.マナポーター、難関ダンジョンである白亜の霊脈を軽々と攻略する!

「ここが白亜の霊脈ですか……」

「まさかアメディア領に広がる病気の原因が、こんなところに眠ってるなんてな。未だに信じられないぜ」


 馬車に揺られて一週間。

 僕たちは無事、白亜の霊脈に到着した。

 どうやって白亜の霊脈まで行くかを悩んでいたが、たまたま滞在していた親切な行商人が手を貸してくれたのだ。


「先輩、感じます。この中に、闇のマナが流れ込んで行ってます」

「さすがアリア、よく気が付いたね。マナの流れを隠す魔法陣が使われてる――知らなかったら見逃すところだね」


 そろって首をかしげるディアナとミーティア。マナを感じられない者にとっては、何も違和感が無いのだろう。

 否、魔法ジョブの者が注意深く探って、ようやく気がつける程度の違和感しかない時点で――



「"違和感がない"のか異常なの。進むなら覚悟しないといけないの」

「そうだね、何が起きるか分からない。気を引き締めて行こう」


 ここまで近づいてみても、闇のマナの密度が上がっているようには感じないのだ。

 よほど巧妙に隠されているか、何かに使われているのか。

 どちらにせよ最大の警戒心を持つ必要があった。




◆◇◆◇◆


 僕たちは、白亜の霊脈の中を進んでいた。

 白色に輝く結晶に照らされた、美しい洞窟だ。


「先輩先輩! すこい綺麗です、なかなかに幻想的な光景ですね?」

「アリア、油断はしないで? ここはAランクの中でも、かなり難易度が高いダンジョンだったはず――一瞬の油断が、命に関わるかもしれないから」


 集められた闇のマナの問題を抜きにしても、攻略難易度が相当高いダンジョンだ。

 僕たちの適正ランクよりも遥かに高い。


「ご、ごめんなさい……」

「もちろん景色を楽しむのは、冒険者の醍醐味だからね。休憩中はうんと楽しもう!」


「――はい!」




◆◇◆◇◆


 ときには休憩をはさみながら、僕たちは順調に白亜の霊脈の探索を進めていく。

 攻略は驚くほどに順調だった。



 僕は歩きながら、辺りをマナを使って探っていた。


(うわあ……魔力に反応して発動するトラップか)

(まあ僕が居る以上は、絶対に発動なんてさせないけどね)


 難易度の高いダンジョンでは、トラップをかわしきれないことも多いらしいが、この程度の隠蔽なら問題ない。

 僕は歩きながらトラップを無力化する。



 モンスターの対処も万全だった。

 現れるモンスターはB〜Aランクといったところだろうか。


「どりゃああああ! 一刀両断!」

「魔剣グラム、喰らい尽くすッスよ!!」


 頼れる剣聖と魔導剣士が、ここぞ私たちの出番! とばかりに先陣を切ってモンスターに踊りかかった。


「イシュア様のおかげで、魔力が使い放題っスからね! 戦いは任せて欲しいッス!」


 ドヤ顔のミーティア。



「私もイシュアさんの魔力が欲しいな……」

「ディアナ、わがまま言ったらダメなの。この人数のマナを把握しながら戦うのは、イシュアさんが大変すぎるの」


 リリアンの提案で、マナを使うのは同時に3人までと取り決めがなされたのだ。

 この人数に対して、即時マナを補充するための準備をしておくのは、おそらく集中力が最後まで持たない。

 僕としてもありがたい話だ。


「みー。マナが無いなら、無いなりの戦い方がある――『フルブレイク!』」

「リディル! 上位のメイススキルだよねそれ。いつの間にそんな芸当を!?」


 賢者のリディルが、両腕でメイスを振り抜いた。

 それだけで目の前のスケルトン型のモンスターは跡形もなく吹き飛んだ。


「イシュア様と別れてから――いっぱい練習した」

「む、ウチも魔剣に頼らない戦い方も、いっぱい練習したッスよ!!」


 自慢げに言うリディル。


 魔剣に頼るだけだった前までとは違って、ミーティアは洗練された動きを見せた。

 その言葉が、決してウソでは無いことが分かる。


(ふたりとも苦労したんだろうな……)

(これぐらいの人数なら、息をするようにマナの肩代わりと補充が出来るように――僕ももっと頑張ろう!)


 ふたりのことを感動しながら眺めていると――


 

「先輩先輩! 私も魔力を使わない戦い身につけたいです。何からはじめれば良いですか?」


 アリアがそんなことを言い出した。



「ええっと……アリアの回復魔法とバフは、途切れさせる訳にはいかないから――アリアはマナのことは気にせず、とにかく回復魔法と支援魔法を極めて欲しい」


「そうですが……分かりました!」

「うん。ほんとうに頼りにしてるからね、アリア」


 元気よくうなずくアリア。

 気のせいか支援魔法のキレがよくなったような――



 パーティの安定感には、リーダーのリリアンも大きく貢献していた。


「『マッピング!』――その分岐点は右なの!」

「……まったく迷わずに進めるね。リリアンのその魔法、さすがに便利すぎない?」


「イシュアの能力に比べたらまだまだなの――『サーチ!』『トレジャーハント!』……マナポーションなの。あ、前方に敵発見なの!」


(マップに映った宝箱の中身を、入手する魔法!?)

(さすが勇者……ヤバすぎる!)


 ダンジョンの地図を描ききるマッピング、敵を索敵してマップに映し出すサーチ、そして宝箱の中身を勝手に獲得するトレジャーハント。


 迷わずまっすぐ進める上に、モンスターの不意打ちの警戒すら必要ない。

 ……貢献というか――もはやただのチートだった。



「この辺の魔法は、今までは魔力消費が激しすぎて使い物にならなかったの。イシュアはこのパーティの救世主なの!!」

「それは大げさだよ。僕に出来ることは、みんなに気持ちよく魔法を使って貰うことだけだもん」



 サポート役に特化したの聖女のアリア。

 なんでもこなせる勇者のリリアン。

 リディルとミーティアは、ときとき入れ替わりながら様々な形でアタッカーをこなす。

 剣聖のディアナさんは、縦横無尽に戦場を駆け回る。

 僕は全体を見ながら魔力支援。


(こうしてダンジョンを攻略してみて気がついたけど……)

(このパーティ、ほんとうにバランスが良いかも――!)



「着いたの!」


 リリアンが笑顔で宣言。

 僕たちを迎えたのは結晶しらめく開けた空洞。


 ――そうして僕たちは、白亜の霊脈の最奥部に到着した。

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