49. マナポーター、マナを辿り『災厄の竜』が封印された地に辿り着く!

 アランの来訪というアクシデントはあったものの、翌日、僕たちは計画を実行することにした。



「先輩、ほんとうに危ないと思ったらすぐに止めてくださいね?」

「もちろん! ――それじゃあ……始めるね?」


 僕の手元には、ハーベストの村に仕掛けられた8つの魔法陣が揃っていた。

 そのうちの1つのターゲットを選ぶ魔法陣を書き換えることにより、自らをターゲットとするのだ。



「というか先輩? 当たり前のようにやってますけど、魔法陣の内容の書き換えってほんとうは魔工師の専売特許ですからね……?」

「マナを注げるものは、何でも理解しておきたいからね――できた!」


 魔法陣の効果が僕に向けられる。

 徐々に徐々に、決して気が付かれないように。

 しかし確実に闇のマナを吸い取られている。


(よっぽど注意してなければ、魔法に詳しい人でも気が付かないかもしれないね)

(本当に巧妙な魔法陣だよ)



「あげるよ。これが望みなんだよね?」


 僕は奪われるマナに法則性を見出す。

 そうと分かれば話は簡単だ。

 僕は魔法陣に持っていかれるであろう闇のマナを追跡するためマーキングした。




「先輩? 大丈夫ですか?」

「イシュア、本当に無理はしないで欲しいの!」


 アリアたちが、とても心配そうに僕を覗き込んでいる。



「今、場所を辿る仕掛けを施したマナを魔法陣に押し付けた。すぐにでも場所は分かると思う」


 僕はマナを追いかけるために意識を集中する。


 魔法陣により収集されたマナは、そのまま別の街に流れていくようだった。

 同じく魔法陣により集められたマナと合流して、さらに移動を続ける。


(これは長期戦になるかもしれないね……)


 もしかするとアメディア領全体を巡るのかもしれない。

 うんざりすると同時に、規模の大きさに改めて戦慄する。


 果たして、そのまま数時間が経過した。

 パーティメンバーが固唾をのんで見守る中、僕は目を閉じて意識を集中する。

 いくつかの街でマナを合流して、ようやく繰り返して辿り着いた先は――




「うん、間違いない。白亜の霊脈――その最奥部にマナが届けられてる」


 目の前に広げられた地図を見ながら、僕は場所を指さす。


「白亜の霊脈!? 『災厄の竜』が眠る場所なの!」


 目を丸くしたリリアンが悲鳴を声を上げた。



「リリアン、ええっと……何だって?」

「災厄の竜――魔王の右腕なんて言われた史上最悪のモンスターの1体なの。そのモンスターに滅ぼされた領地は数知れず。勇者が何人も集まって、どうにか封印には成功したの」


 聞いたことある? とアリアのこっそり確認するが、彼女も小さく首を振るだけだった。

 他のパーティメンバーも「初めて聞いた」と、驚きを隠せない。


(勇者にしか知らされない秘密なのかな?)

(『災厄の竜』か……)


「そんな危険なモンスターが眠る場所に、マナが送り込まれてる。魔法陣を調べたけど、すごく計画的なものだよね。――きな臭い」

「うん、嫌な予感がするの。すぐにでも国王陛下に報告して欲しいの。私は一足早く様子を見に行くの!」


 リリアンが当たり前のようにそう言い切った。

 たまたま居合わせただけでも、見て見ぬふりなど出来ない。

 勇者としてのプライドがそうさせるのだ。



「国王陛下への報告は、私たちに任せて欲しい」


 話を聞いていた領主の使いが、顔を青くしながらもそう言った。

 領主は届いた白露の霊薬を各地に届けるため、今も忙しいだろう。

 それでも領地を思う気持ちがあるからこそ――蔓延している奇病の真実を知れば、全面的に協力してくれるだろう。



 リリアンは少しだけ不安そうに、パーティメンバーの顔色を伺った。


「これは私の独断なの。『災厄の竜』が関係してるなら、どれだけ危険かも未知数なの。必ず付いてきて、とは言えないけど……」


「リリアン、水臭いこと言わないでよ。もちろん僕も力を貸す」

「先輩が行くなら、もちろん私も行きます!」


 災厄の竜がどれほど危険な存在なのか、正直なところピンと来ていない。

 それでも危険があることぐらい勇者パーティに加わった時から覚悟はしていた。

 それこそ今さらの話だ。


「ハーベストの村では力になれなくて悔しかったッス。戦いならウチも戦力になれるッスよ!」

「同感だ。リリアン、ようやく巡ってきた活躍のチャンスなんだ! そう簡単に奪おうとしないでくれよ?」


 ディアナとミーティアは、やけに気合の入った言葉をこぼす。



「いや……戦うと決まった訳じゃないけどね」

「みー。そんないにしえの時代のやばい竜、すみやかに再封印するべき」


「先輩、先輩! また封印する必要があるなら、またまた私の出番ですね!」

「え、待って? なんで皆、封印が解けてるって想定で話を進めてるの!?」


 領土をいくつも滅ぼして勇者が束になって封印が精一杯だったドラゴン。

 さすがに手に負えないだろう。



「――イシュア。それに皆。ありがとうなの!」


 リリアンは表情を少しだけ緩めた。

 そうして深々と頭を下げるではないか。



「パーティメンバーとして当たり前のことだよ。リリアン、変な気は使わないで良い」

「そうです! もし置いていかれたら、その方がよっぽど恨みますからね!」

「イシュア様の背中を見て育ったウチらを、あまり見くびらないで欲しいッスね!」

「みー、もっと私たちを信じて欲しい」


 そんなリリアンにかけられる温かい言葉。



「良いメンバーじゃないか。良かったなあ、リリアン」

「――うん!」


 ディアナのささやきに、リリアンは満面の笑みを浮かべた。



 そうして僕たちは、白亜の霊脈に向けて出発した。

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