48. マナポーター、奇病の原因を突き止める!

 話はアランの訪問の少し前に遡る。

 数日前、診療所に集まっていた患者をまとめて治療した後のこと。


「リリアン!? いったいなにが――」

「分かったの! アメディア領で蔓延してる奇病の原因!」


 リリアンの宣言により騒然とした広場。



「こっちに来てほしいの!」

 

 やがてリリアンは、そう言って走りだす。

 僕たちがたどり着いたのは、村の外れにポツンと存在する井戸であった。


「リリアン、ここに何が……? いや、これは……」

「ひとめ見ただけで気が付くなんて、流石なの!」


 隠蔽の魔法がかけられているが、間違いない。

 井戸の底には、何らかの効果を持つ魔法陣が仕掛けられていた。


「連動するタイプだね……下手に動かすと、何が起きるか分からない。リリアン、魔法陣は見える?」

「さっき潜って調べてきたの!」


 リリアンはそう言いながら、サラサラっと空中に魔法陣を描いて見せた。

 てきぱきと魔法陣を描くリリアンに感心したのも一瞬。

 その魔法陣の効果を悟り、僕は思わず表情をゆがめてしまう。



「マナ輸送の魔法陣――なるほど。たしかに、これが原因みたいだね」

「奪い取ったマナを転送するための魔法陣――他にもあるの」


 奪い取ったマナ、とは穏やかではない。


 アメディア領で流行っているという奇病。

 原因が同じであれば、なんてことはない。


「奇病が蔓延してるなんてとんでもない。これは魔法陣によるマナの搾取――病気なんかじゃない。人為的なものだね」

「もう少し調査は必要なの」


 そうして僕たちは、しばらく村に滞在して調査を進めることにする。




◆◇◆◇◆


 数日かけて調査した結果、僕たちは分かったことを確認していた。



「同じような魔法陣を、全部で8つ見つけたの!」

「みー。それぞれで補い合って、すべて合わせて効果を発揮するようになってる――とても巧妙」


 リリアンがドヤっと笑みを浮かべ、リディルが補足する。

 魔法陣の効果は、魔力が低く魔法が使えない者をターゲットにするもの。

 効果もマナを奪うのではなく、別属性のマナと等価交換するというものであった。



「誰も気が付けなかったのが不思議だったんだけど――完璧な隠蔽っぷりだね」


 一朝一夕で出来ることではない。

 この仕掛けがアメディア領全体に及んでいるとしたら――僕はうすら寒いものを感じた。


「誰にもバレないように闇のマナを集めて、いったい何を企んでるんだろうね?」

「分からないけど、きっと碌なことじゃないの!」


 現にこうして被害も出ていた。



「でも困ったの。アメディア領全体となると、とてもじゃないけど魔法陣を壊して回るのは不可能なの」


 リリアンはむ~と唸った。


 この村だけを救えば良いなら、見つけた魔法陣をすべて破壊すれば良い。

 しかしアメディア領全体で症状が出ている以上、魔法陣も同じように仕掛けられていると考えるべきだ。


「奪ったマナが集められてる場所――そこに配置した魔法陣を管理するコアみたいな仕組みがあると思うんだ。それを破壊するしかない」

「ええっと、なにか策があるの?」


「うん。安全な方法ではないけど、ターゲットを選ぶ魔法陣を書き換えて――僕がオトリになろうと思う。僕なら奪われたマナを追跡することも出来ると思う」


 元々はモンスターにマナを押しつけて、モンスターの巣を突き止めるために使っていた手法だ。

 魔法陣により奪われたマナも、同じ要領で場所を追いかけられるはずだ。



 良いアイディアだと思ったのだが、


「先輩! この魔法陣はかなり巧妙です。場所を探ろうとして、何か防衛機構が仕掛けられていたら――あまりにも危険です!」

「イシュア様だけに、そんな危険なことはさせられないッス!」

「そんな危ないことさせるぐらいなら、アメディア領を回って魔法陣を壊して回るの!」


 一斉に止められてしまった。

 たしかに危険がないわけではないが、魔法陣を壊して回るのはあまりに非効率。

 この時点で考えられる最善の方法に思えた。



「そ、そんなに危ないことはないと思うよ? 万が一があれば追跡はやめるし――ここには頼れる聖女様もいるもん!」

「先輩……。そんな言い方――ずるいです」


 アリアはねたように呟く。



「なら私がやるの! 勇者として、パーティメンバーに危険なことはさせられないの!」

「ごめん、リリアン。この中でマナのコントロールが一番得意なのは僕だ。――この役割は僕が適任なんだよ」


 渋るリリアンとアリアを、僕はどうにか説得する。


 準備は出来るだけ万端に。

 翌日に作戦を決行することを約束して、僕たちはいつものように広場に集まった。



 目的はリディルによる薬品講座。

 最初はイヤそうだったリディルであったが、今ではノリノリで講座をしていた。

 さらには僕も医術師の人たちにせがまれて、マナから相手の体調を探るための方法を教えたりしていた。



 元・勇者がハーベストの村にやって来たのは、そんなタイミングであった。

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