46.マナポーター、村人を人質を取った元・勇者をあっさり撃退する!

「アラン! どうして違法薬物なんかに手を染めたの!?」


 突然の再会に驚いたのも束の間。

 僕は信じられない思いで、アランのことを見た。


「黙れ! 全部……全部、貴様のせいだ!!」


 もはや隠すことも諦めたのだろう。

 アランは、つばを吐きながら怒鳴り散らした。



「聖剣よ、我に力を貸したまえ……!」

「な、何をするつもり?」


「俺はこんなところで捕まる訳にはいかねえ!」


 アランはスキルで、聖剣を生み出した。

 こんな状況でも輝きを失わない刃。

 人々を守るための勇者の刃を、アランはよりにもよって村人に突きつける。



「聖剣のユニークスキルだと?」

「まさかあいつも……勇者?」

「なんだって勇者がこんなことを!?」


 アランの突然の凶行に、広場には混乱が広がった。

 


「聞いたことがあるぞ! エルフの里で、世界樹ユグドラシルにとどめを刺しかけた勇者が居るって話……!」

「勇者の資格をはく奪されて、今は犯罪者の紋を刻まれてるらしいが……まさかこいつは……!」


「ああ! 俺がその勇者だよ! 国王陛下の怒りを買って勇者の資格を剥奪された――全部そいつのせいだ!」


 アランの中で、すべての元凶は僕なのだろう。

 まごうことなき逆恨みなのだが、彼の中ではそれだけが事実なのだ。



「イシュア、貴様だけは許さねえぞ! 人質の命が惜しければ――」

「アラン、どうしてそこまで……」


 村人を人質に取ったアランは、勝ち誇ったようにこちらを睨みつけたが、



「あなたみたいな人が勇者を名乗るのは、迷惑なの――『幻想世界!』」


 次の瞬間、リリアンの固有スキルが発動した。

 

 リリアンのユニークスキルは、この世とは異なる法則を持つ固有の世界を創り上げて、敵と自分たちをその世界に転移させるものだ。

 僕たちはアランと共に、リリアンの生み出した世界に転移した。




◆◇◆◇◆


「な、なんだこれは……」


 アランが呆然と、辺りをキョロキョロと見渡す。

 当然のことながら頼りの綱の人質は、この場に居ない。



「アラン、もう終わりだよ。この固有空間は絶対に破れない――僕たちには勝てないよ」


 元・勇者パーティ全員に加えて、こちらにはリリアンとディアナも居る。

 アランには万に一つの勝ち目もなかった。



「誰か俺を助けろ! そんなパーティに居るより、絶対に良い思いをさせてやるから――!」


 アランは、往生際悪くあがく。

 しかしその言葉は、ただただ空虚に響くだけだった。


「ウチは忘れてないッスよ。ダンジョンであんたに見殺しにされそうになったこと――そんな人とパーティを組むなんて、2度とごめんッスね!」

「みー。犯罪者の紋を刻まれたからって、ほんとうに犯罪に走るなんて……別れて正解だった」


 軽蔑しきった目で、ミーティアたちはアランを見据える。


 ダンジョン攻略を強行して、仲間を見捨てて逃げようとした――それもまた、許しがたい行為だ。

 オーガキングに襲撃された際に、自らの命と引き換えにしてでも、僕たちを逃がそうとしたリリアンとは正反対である。



「くそっ。アリア! 貴様なら分かるはずだ。貴様にほんとうに相応しい場所はイシュアの隣じゃない――俺の隣だということが!!」


 もはや現実をまったく見ていない馬鹿らしい言葉。

 嫉妬のこもった怨念のような感情。

 聖女アリアを手に入れたい――そんなアランの歪んだ望み。



「いいえ、私はずっと先輩に付いていきます! あなたの顔はもう2度と見たくありません。大人しく捕まって――しっかり罪を償って下さい」


 罪を償って欲しい――それはアリアなりの良心かもしれない。


 アランの望みは何ひとつ叶わない。

 仲間のことを、何ひとつとして知ろうとしてこなかった者に訪れる当然の末路だった。 



「くそおおおおおお!」


 アリアの言葉がきっかけだった。


 アランは聖剣を構え、そのまま突っ込んでくる。

 その歩みは剣聖ディアナに比べて、あまりにも遅い。



「『マナリンク・フィールド!』」


 僕が使ったのは、味方のマナの回復速度を高めるだけのスキルだ。

 しかし勇者というジョブにあぐらをかいて、何の努力もしてこなかったアランは、それだけで魔力酔いを起こす。


「イシュア! 貴様なにをした――!」

「アラン、結局僕が提案したことは、なにも受け入れなかったんだね」


「なにを訳のわからないことを――! ぐあああああ……」



 僕はアランにマナを過剰に注ぎ込み――そのまま昏倒させた。

 戦いとも言えないアッサリとした結末だった。



(マナの濃度が濃いところで、きちんと動けるようにすること。マナを取り込んで自らのものとすること)

(ずっと忠告してきたんだけどね……)


 ちなみにアラン以外のメンバーは、ケロッとしている。

 アランが魔力酔いを起こしたのは、修行不足以外の何物でもない。


 アランが倒れると同時に、リリアンが幻想世界を解除した。



「何が起きた――うおお!?」

「おおおお! イシュア様が戻られたぞ!!」

「ご、ご無事ですか! 先ほどの刺客は――!」


 やがて広場のざわめきが、辺りに戻ってくる。

 いきなり消えて、前触れもなく再び現れた僕たちを、村人たちは目を丸くして迎え入れるのだった。

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