《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
44.【SIDE: 勇者】勇者、隣領に違法薬物を届けに向かう
44.【SIDE: 勇者】勇者、隣領に違法薬物を届けに向かう
違法薬物の運び屋――などという怪しげな依頼を受けてしまった翌日。
俺は結局、男に指示された集合場所に足を向けていた。
「モタモタするな。早くしろ、新入り!」
(くそっ、俺は勇者だぞ!)
(どうしてこんな奴らに、俺が良いように使われないと行けないんだ!)
俺は歯ぎしりしながらも、黙々と男たちを手伝う。
木箱の中に毒々しい色をした薬品を詰めていく。
「おい、この薬品は何なんだ?」
「余計な詮索はしない方が身のためだぞ?」
俺の隣で黙々と作業していた男が、脅すように俺に言ったが、
「まあまあ、せっかく勇者殿に加わって頂いたんだ。少しぐらいクエストのことを話しても良いだろう」
もう1人の男が、軽薄そうに口をゆがめた。
「この薬はな――『不死鳥の丸薬』。万能薬のなり損ねだよ」
◆◇◆◇◆
「万能薬のなり損ね?」
「ああ。使うとしばらくは万能薬と同じような効果を発揮するんだが――副作用も酷いんだ」
不死鳥の丸薬。
俺もその薬物の名前は聞いたことはあった。
しかし、こうして現物を見るのは初めてだった。
「精神が不安定になって幻覚も見えるなんてヤバイ代物だ。過去に使用した者が事件を起こし、大きな問題にもなってたよな?」
「その通り、違法薬物として扱われるのも頷ける話さ。王国では所持しているだけで牢屋にぶち込まれるな」
男はへらへらと笑いながら、瓶詰めされた薬品を愛おしそうに撫でた。
(くそっ。ほんとうの犯罪じゃねないか……!)
(本当なら勇者として、輝かしい日々を歩んでいたはずなのに!)
聞いてしまった以上、もう後には引けないだろう。
逃れられぬ糸に、絡めとられているようだった。
「不死鳥の丸薬か。これほどの量、どこに持っていくんだ?」
「隣のアメディオ領で、厄介な病が流行っているようでな。どんな副作用があるにせよ――万能薬の効果があるなら需要があるとは思わないか?」
「でも後に副作用が出るんだよな……?」
「知ったことじゃ無いね。俺たちはここにある薬さえ金に換えられれば、それで良いんだ」
(こいつらは――クズだ)
アメディア領の人たちは、ワラにも縋るような思いで万能薬を頼るのだろう。
そうして手に入れた薬品が、実は違法薬物として扱われている危険な薬品だったとしたら……。
「分かってるだろうな? 今さら降りるなんて、絶対に許さないからな」
「……ここまで聞いて抜けられるとは思っていないさ」
「それで良い。最近では王国の警備隊による監視の目も厳しくてな。期待してるぜ、勇者様?」
犯罪者の紋を押された元・勇者どころの騒ぎではない。
今の俺は、まごうことなき犯罪ギルドの一員だった。
(くそっ。泥沼じゃないか)
(どうして、こんなことになったんだ……)
やはりイシュアを追放したのが、全ての始まりだったのか。
あの一件で、俺はパーティメンバーを敵に回してしまい――最終的にここに繋がったのだ。
(……俺は、絶対にこんな所では終わらねえ!)
(こうなったら犯罪ギルドでも構わねえ。ここから成り上がって――いつの日にか、イシュアの野郎に目にもの見せてやる!)
俺の勇者パーティで、空気を読まずに我が物顔で人気を集めたこと。
犯罪者の紋を刻まれそうになったときに、そのまま見捨てられたこと。
――逆恨みだとしても構わない。
イシュアに対する復讐心。
いつしかそれだけが、心の支えとなっていた。
「最初の目的地は、ここから近いハーベストの村だな。付近の街から患者も受け入れているそうだ。くっくっく、さぞ万能薬は喜ばれるだろうよ――」
リーダーと思わしき男が、醜く笑う。
作戦の成功を疑いもしない顔。
彼らはまだ知らなかったのだ。
原因不明の奇病は、イシュアたちにより完璧に治療済であることを。
――そのときには既に、偽の万能薬なんて全くお呼びではなかったのだ。
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