43.マナポーター、ハーベストの村の英雄となる

 そうして僕たちは、いくつかの病室を周り眠っている患者の様子を見せてもらった。


「どうでしたか、先輩?」

「やっぱり同じだね。闇のマナが足りてないみたい」


 誰もがマナのバランスを崩し、体調を崩していた。

 原因がそれなら、十分僕の方でどうにか出来る。



「先輩、私は何をすれば良いですか?」

「アリアはとにかく回復魔法を、診療所全体に。マナが持つ限りお願い」


「無茶を言いますね……。分かりました、やってみます!」


 僕の無茶振りにも等しい言葉を聞いて、それてもアリアは嫌な顔をひとつせず走り出した。

 こういうときにアリアの回復魔法は、とても頼りになる。



「みー。わたしは念の為、白露の霊薬の精製を手伝いにいく」

「分かった。助かる人も、大勢いると思う」


 賢者であるリディルは、魔法だけでなく薬剤の調合も得意としている。

 白露の霊薬の精製の人手が足りていない今、強力な助っ人になるだろう。



「闇属性のマナ不足――気になるの。イシュアさん、少しだけ調べてくるの」

「分かった、こっちは任せて欲しい」


「リリアン、調べごとか? ひとりで大丈夫か?」

「うん。ディアナは、ここでイシュアさんを手伝って欲しいの!」


 リリアンは症状を聞いて、なにやら考え込んでいたが、やがては自ら調査に乗りだすことを選択。

 そのままパタパタと外に走り出していった。



 そうして残されたのは、剣聖と魔導剣士の少女ふたり。


「イシュアさん――私たちは何をしていれば」

「イシュア様、ウチは何をすれば?」


「ええっと…。ふたりは……そこで応援していて下さい」


(あれ? 前もこんなことがあったような……)

(マナの調整は、マナポーターである僕にしかできないからね)


 ディアナとミーティアは顔を見合わせ、


「「何か出来ることがないか聞いてきます(ッス)!」」


 と外に駆け出していった。



(ふたりとも――戦闘が専門なのに、こんな状況でも出来ることを探してるんだ)

(僕も頑張ろう!)


 気合を入れ直し、僕は診療所内の患者を治療して回る。

 



 それから数時間。

 僕はすべての病室を周り、片っ端から治療していった。


(特定属性のマナが足りずに倒れた人が、こんなに居るの……?)

(異常事態だよ、これは……)


 原因は、全員がそろって闇のマナ不足。

 普通では考えられない事態ではあるが、対処自体は僕にとってそれほど難しくなかった。



「まさか全員が完治するなんて……!」

「苦しむ患者を前に、打つ手がなく歯がゆい思いをしていました――夢みたいです!」


「お力になれたようで、良かったです」


 感動する医術師たちに見送られ、僕は診療所を後にした。




◆◇◆◇◆


「アリア、おつかれさま。回復魔法、ほんとうに助かったよ。アリアのおかげで、みんな回復も早くてさ」

「それは良かったです! 久しぶりに、魔力切れ寸前まで回復魔法を使いました――」


 診療所の外で、魔力切れで座り込むアリアに魔力を注ぐ。


 村の中央近くの広場では、リディルをはじめとして白露の霊薬の精製が行われていた。


「イシュア様! もしかして診療所での治療、終わったの?」

「うん、みんな闇のマナ不足だった。ひととおりマナの調整はしてきたから、もう大丈夫だと思う」


 僕の言葉に、



「うおおおおー!」

「世界樹を救ったイシュアさんが、またやってくれたぞ〜!」

「もしかして俺たちは、あらたな歴史の目撃者になったんじゃ!?」


(あまりにも大げさだよ〜!?)


 村人がドッと湧いた。

 地を揺るがさんばかりの歓声が響き渡る。


 なんの前触れもなく症状が現れる病。

 原因も治療法も何もかもが不明――そんな不安しかなかった状況が、とつぜん終わりを迎えたのだ。

 村人の中には、感極まったように泣き出す者も居た。

 


 そんな中、リリアンが帰ってきた。

 輝くような笑顔で、リリアンは僕のそばにとてとてと走りよると、


「イシュアさん! 分かったの!」

「リリアン!? いったいなにが――」


「アメディア領で蔓延してる奇病の原因!」


 一瞬、広間は静まり返り――



「やっぱり勇者パーティすごい!」

「ありがたや、ありがたや……」

「英雄イシュアは半日で村を救い、勇者リリアンは一瞬で原因を突き止める。聖女アリアの治癒術もまさに奇跡の具現化で――これは詞になるな!」


 割れんばかりの歓声が響く。

 中には何かを拝むように祈りのポーズを取るものすら居た――というか祈りの先は僕だった。何故だ……。



 リリアンは、村の様子を戸惑ったように見つめ――


「これまで大変だったと思うの。それでもアメディア領の危機は――必ず勇者・リリアンの名のもとに解決してみせるの!」


 堂々たる宣言。


(リリアンは、すごいな――!)


 困難に直面した者に希望を与える――これこそが勇者だ。




 完全に傍観者として感動しながら見ていた僕だったが、


「私と――イシュアさんが居れば、向かうところに敵はなし、なの!」


(ん……?)


 リリアンはパッとこちらを振り返る。

 そしておずおずと、僕の手を取るではないか。


「え、ちょっとリリアン?」


(せっかくのリリアンが空気を掴んでたのに――!)

(僕なんかが隣に並んだら、逆効果じゃない!?)


「うおおおおー! イシュア様! リリアン様!」 

「やっぱり俺たちは歴史の目撃者だ! うんと自慢してやる!」

「リリアンちゃん可愛いし、イシュア様はかっこよすぎる――ほんとうにお似合いのふたり!!」


(んんんんん……?)



 盛り下がるどころか、広場はヒートアップするばかり。


 どう収拾を付けるのか、ここも勇者の腕の見せ所!

 チラッとリリアンを見ると、


「イシュアさんとお似合い――!」


 頼れる勇者様は、すごい幸せそうににこにこしていた!



 僕は――諦めて流れに身を任せることにした。

 

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