41.マナポーター、原因を調査するためハーベストの村に向かう

 ほどなくしてアメディア領に到着した僕たちは、ミーティアとリディルに連れられて領主の家を訪れていた。



「お久しぶりッス、領主さん!」

「おお! ミーティアにリディルさん、また来てくれるとは……! 大した歓迎も出来ないが、どうかゆっくりして行ってくれ」


「みー、今日は遊びに来た訳じゃない」

「ウチらが来たのは、クエストで依頼された品を届けるためっスよ」


 そう言って一歩引いたミーティアに変わり、リリアンが一歩前に出て口を開いた。



「白露の霊薬の納品依頼で来たの! こっちの馬車にたくさん用意してあるの!」

「ありがとう。本当にたすかるよ」


 荷台に詰め込んだ薬を見せると、領主は感動したように涙ぐんだ。



「クエストを受けるときに、ある程度の状況は聞きました。領内に広がる奇病――やっぱり良くないんですか?」

「お恥ずかしながら。原因も分からず、ほとほと困り果てています……」


 原因不明の病が、領内で猛威を奮っている状態。

 人の良さそうな領主は、自領が抱える問題に頭を痛めているようだった。



「私の娘は、白露の霊薬のおかげで助かったんです。効果があるのは間違いない――だとしても、あまりにも個数が足りないんです」

「白露の霊薬は、素材から貴重ッスからね。この個数が限界みたいでしたッス」


 申し訳なさそうにミーティア。

 冒険者ギルドとて、薬の在庫を常に抱えている訳ではない。


(僕に出来ることは、定期的に薬をここに届けにくるぐらいかな……?)


 そう思った矢先、


「ここでだけ流行ってる奇病。私たちに出来ることが、まだあるかもしれないの! 少しだけ見せてほしいの」


 いつになく真剣な表情で、リリアンがそう頼み込むのだった。




◆◇◆◇◆


 領主との話が終わり、僕たちは待合室で領主の迎えが来るのを待っていた。

 白露の霊薬を届けに行くついでに、近くの村に案内してもらえることになったのだ。


「どうしたの、リリアン?」

「ごめんなさい、イシュアさん。勝手に決めてしまって……」


 申し訳なさそうに、リリアンがこちらを覗き込む。



「え、どうして謝るの? リリアンがリーダーだから当然だよ。リリアンが気になった理由は、知りたいけどね?」

「イフリータを倒した時に、あいつは言ったの。『覚えてやがれ! ウンディネの奴が陰湿な方法で、おまえたちを討つ!』って。……気になったことは調べておきたいの」


(それはなんというか……随分と親切な四天王だね)

(――魔王が関与している可能性か。やっぱりリリアンさんは、勇者なんだね)


 指摘されるまで考えもしなかった可能性。

 勇者パーティに入るというのは、本来そういうことなのだ。

 僕は改めて、気合を入れ直した。


 ちなみにウンディネ主導の作戦(ユグドラシルを枯らして人間界に攻め入ろうという作戦)は、すでに無意識のうちに完膚なきまでに退けてしまったのだが、そんなことは想像もしていないふたりであった。




◆◇◆◇◆


 その後、領主お抱えの護衛とともに、僕たちは『ハーベスト』という村に向かっていた。


「本当に良いのかい? 今回のクエストでの契約は、白露の霊薬の納品だけだろう。そこまでする義理はないだろうに……」

「気にしない下さい。この事態を放っておけない――僕たちのリーダーは、そんなお人好しなんですよ」


 問いかけてきた領主に、僕は心の底からの言葉を返す。

 リリアンは本当に尊敬できる勇者だ。


(……お酒さえ渡さなければ!)



「不満はないのかい。冒険者としては、今の状態が続く方が美味しいだろう?」

「え? それはどういう意味ですか?」


「安定して白露の霊薬を納品する先が生まれるだろう? 条件をもっと吹っかけても良い。解決策が見つかるまで、私たちはどんな要求でも呑むしかないからね」


 領主が口にしたのは、思いもよらないこと。

 そんな方法で報酬を手にしたとしても、冒険者としての信頼を失うだけだろう。


「そんなこと……考えもしませんでした」

「――このクエストを受けてくれたのがあなたたちで、ほんとうに良かったよ。ミーティアにリディルが尊敬すると言っていたのも頷ける」


 領主は、感動したように頷くのだった。



* * *


 一方のリリアン。

 彼女もまたイシュアの少し後ろで、護衛と何やら話しているようだった。


「勇者様、どうしてわざわざ直接村の様子を見ようなんて思ったんですか?」

「最近、ようやく憧れの人とパーティを組めたの! イシュアさんがリーダーだったらと考えると、恥ずかしい判断は絶対に出来ないの!」


 実に熱の入った様子で熱弁するリリアン。



「リリアンは、ほんとうにイシュアさんが好きだからね」

「ちょっと、ディアナ!?」


「でも、すごく分かります! 先輩の顔に泥を塗るようなことは出来ない――自然と気合が入りますよね!」

「そうなの! イシュアさんなら、このまま帰るなんて絶対に有り得ないと思ったの――力になれることを探して協力するはずだって!」


「みー、いつまでもおんぶ抱っこではいけない」

「いつかあの背中に追いついてみせるッスよ!」



 そんなやり取りは、すべて僕の耳にも入ってきていた。

 こっ恥ずかしい。


(たしかに力になれそうなことがあれば、できる限りの事はするけど……!)

(今回のことは流石に手に負えないよ!?)


 思わず振り返る。

 しかしパーティメンバー全員が、納得したように頷き合っていた。


 何故だ……。



(う、リリアンの無邪気な笑みが心に痛い……!)

(いや、力になれることを探して協力――冒険者としては当然のことか)


 その場にいる人たちに、気持ちよく魔法を使ってもらうこと。

 考えてみれば、僕のマナポーターとしての初心にも繋がる心構えだ。



 僕はこの状況で出来ることを考え、


「アリアの治癒魔法があれば、かなり症状を緩和させることは出来そうだよね?」

「はい! まさに聖女の出番ですね!」


「魔力供給は任せてね! どんな極大回復魔法でも、僕が合わせてみせるから!」

「心強いです、分かりました! 最近の特訓の成果を全て出し切ります!」



 見出した結論は、まさかの他力本願――――!

 アリアにせっせと魔力を注ぐ、という唯一無二の役割を見出すのだった。



 そうこうするうちに、僕たちは目的の村に到着した。

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