40.マナポーター、クエストで奇病が蔓延しているらしき隣領に向かう

 そうして僕たちは、再び冒険者ギルドを訪れていた。


「良かったな~、リリアンちゃん!」

「ついにイシュアさんと、パーティを組めたんだな~!」


 ギルド内に居た冒険者からは、そんな暖かな声がかけられる。

 この世の幸せをすべて詰め込んだような笑みで、リリアンはお礼を言った。



(リリアンなら、どんなパーティからも引っ張りだこだと思うんだけどな?)

(足を引っ張らないようにしないと!)


 祝われるリリアンを見て、僕は気合を入れ直す。



「リリアン、どのクエストを受ける?」

「イシュアさんにお任せするの!」


 リリアンは、にこやかな笑みでそう答えた。


(うっ、いきなり試されてるね)

(リーダーの期待に応えられるように頑張らないと――!)


 まるで何も考えていないように吞気な笑みを浮かべているリリアン。

 しかし相手は、いまをときめく勇者の1人だ。

 選ぶクエスト1つからも、何かを試されているのだろう。


「イシュアさんと同じなら、どんなクエストでも良い。そうだよな、リリアン?」

「う~、ディアナ~!?」


 リリアンは顔を真っ赤にして、ポカポカとディアナの胸を叩いた。

 実に平和な光景である。



 僕はいつもの通り、ハズレ依頼が置かれた一角に足を向けた。


「どうしよう? パーティの連携を取るなら、やっぱり討伐依頼が良いかな……?」

「そうですね。最初ですし、あんまり難しくないクエストにしておきましょう」


 ひょこひょこっと後ろから顔を覗かせるアリアに聞くと、そんな答えが返ってくる。



「まあイシュア様が居れば、滅多なことは起こらないと思うッスけどね」

「みー。わたしたち元・勇者パーティ組が意識するべきは、リリアンさんたちとの連携。互いが出来ることを知っていくべき」


 そんなことを話しながら、クエストを物色していると――



「イシュアさん、リリアンさん――!」


 聞きなれた声が僕たちを呼ぶ。

 目を向けると、受付嬢がこちらに走ってくるところだった。




◆◇◆◇◆


「すいません、来ていただいて……」


 受付嬢に連れられ、僕たちは個室に通されていた。

 申し訳なさそうに言う受付嬢だったが、僕は本題に入るように促す。



「先方がとにかく信用できる冒険者に依頼したいということで、是非ともイシュアさんたちに受けて欲しいと思ったんです」


「なるほど――リリアンさんは、町で一番信用できる勇者ですしね。納得です!」

「パーティを組んでもらったことを後悔させないように頑張るの!」


 ぐっと気合を入れ直すリリアン。 


(ギルドから使命依頼を貰えるようになっても、向上心を忘れないなんて――!)

(僕も負けないように頑張らないと!)



「ええっと……?」


 どこか噛み合ったようで、まったく嚙み合っていない僕たちを不思議そうに見る受付嬢。

 それから気を取り直したように、今回のクエストの説明を始めるのだった。




「『白露の霊薬』の運送依頼ですか?」

「はい。隣領から大量の納品依頼があるんです」


「白露の霊薬? なんだってそんな物が?」


 白露の霊薬は、体内のマナを整える高価な回復薬だ。

 冒険者にとっても特効薬であるほか、病気になった人に飲ませることで疫病の治療も出来るという。



「……他言無用なんですけど――どうも隣にあるアメディア領で奇病が流行ってるらしくて、大量の薬が必要らしいんです」

「アメディア領ッスか!?」


 受付嬢の言葉に、ミーティアが驚いたように声を上げる。



「ミーティア、何か知ってるの?」 


「ノービッシュに来る途中に、アメディア領に向かう商人を助けたことがあるッスよ。領主の家に招かれたッス」

「みー、病気の領主の娘を助けるために、薬を運送中だったらしい。――まさか領全体に広がる奇病だったなんて……」


 リディルは、何かを考え込むように呟いた。



「わたしたちが少し前に受けたクエスト。何に使うのかとと思ってたら、白露の霊薬の材料だったんだ」

「あのクエストは厄介だったッスね……」


 リディルの言葉に、ミーティアが遠い目になった。

 

「イシュアさんに続くハズレ依頼ハンター。おふたりにもいつも助けられています」

「イシュア様を目指す冒険者として当然の行動ッス!」


(は、ハズレ依頼ハンター……!?)


 なんだか不本意なあだ名を付けられてしまった。

 受付嬢がペコリと、ミーティアとリディルに頭を下げる。



「どうしよう、リリアン?」

「隣領に広がれる奇病……気になるの。是非とも引き受けたいの!」


「良かった。ミーティアたちが知ってる領地だしね……僕も気になる。アーニャさん、是非ともそのクエストを受注させて下さい」


 そうして僕たちは、そのクエストを受注しアメディア領へと向かうのだった。

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