37. 新生・勇者パーティ誕生!
どうして、こんなことになったのだろう。
目の前の惨状を前に、僕は頭を抱えていた。
同じテーブルには――酔っぱらいが3人。
(店員さん!?)
(いくら打ち上げだからって、気を遣ってお酒なんて持ってこなくて良かったんだよ!?)
店員さんは「今日はうちのおごりだよ!」と、とても良い笑顔を浮かべていた。
そして気がついた時には、手遅れだった。
リリアンとアリアは笑顔で、ごくごくと届いた飲み物を飲み干し――
「先輩、先輩! このジュース美味しいですよ?」
「アリア、それお酒〜!」
「うわ〜ん! またやらかしたの〜……」
「リリアン〜!? 誰だ、ウーロンハイなんて持ってきたの!?」
一瞬で出来上がってしまった。
それだけではない。
「良かったなあ、リリアン! ほんとうに、ほんとうに……どうなることかと――!!」
ディアナが、ひどく上機嫌にリリアンの背中をバシバシ叩く。
頼みの綱のディアナまでもがお酒を口にしてしまい(まさかディアナまで酒に弱いと思わず、僕は特に止めなかったのだ)――テーブルに、さらなる混沌が訪れた。
(ど、どうすんのこれ!?)
収拾が付かない。
――そんなときだった。
「「イシュア様!!」」
元・パーティーメンバーが、偶然にも食堂を訪れたのは。
まるで救世主のように感じられた。
(情けないにも程があるけど、あとで必ずお礼はするから……!)
「ミーティア、リディル! 元・パーティメンバーを助けると思って! どうかこの惨状を打開するために、力を貸して――!!」
困惑に目を丸くするふたり。
それでも嫌な顔せず引き受けてくれたので、2人はまさしく天使のような心を持っているのだろう。
「すぴぃ、すぴぃ」
「うっぷ、気持ち悪い……」
「えへへ、先輩がふたり居ます~♪」
彼女らの力を借りて、僕たちはどうにか無事に宿に戻るのだった。
◆◇◆◇◆
「「是非とも私達を、イシュア様のパーティーに入れて下さい!!」」
宿に戻り、酔っぱらいを寝かしつける。
ようやく落ち着いた頃、僕はミーティアとリディルに、そんなことを頼まれていた。
「魔導剣士に賢者だよ? ふたりなら、どんなパーティからでもお呼びがかかるよ。それなのに、どうして僕と?」
「イシュア様は、元・勇者パーティーの実質的なリーダーッス。確信したッスよ、イシュア様は、やがて歴史に名を残す人になるって」
自信満々に言い切るミーティア。
「うみゅう。イシュア様のマナは、ぽかぽかして気持ちいい」
リディルはそう言って、ふにゃりと表情を緩める。
(リリアンに続いて、このふたりも……)
(最近、どうにも僕のことを、過大評価する人が多いような気がするね?)
「そう言われても、このパーティのリーダーは僕じゃない。ついさっき結成したんだけど、リーダーはリリアンだからね」
「え? リリアンって、イフリータを倒した勇者・リリアン!?」
「うん、勇者のリリアンさん。エルフの里の異変を解決――ユグドラシルを蘇生したときに、ちょっとした縁があってさ」
当然、ふたりはリリアンのことを知っていた。
四天王を一度退けたリリアンは、勇者の中でも有名なのだ。
「ユグドラシルを蘇生!?」
「アカン、イシュア様がどんどん先に行ってしまう……」
ふたりは口をあんぐりと開けた。
「ウチらでは、実力不足ッスね……」
「そんなこと無いよ。あのパーティーでは、何度助けられたことが」
寂しそうに言うふたりに、僕は慌てて声をかける。
アランの無茶にどうにか対応できたのは、ふたりの協力も大きかった。
「ふたりが居るなら心強いよ。リリアンさんが起きたら、是非ともって頼んでみるよ」
新たに結成された勇者パーティ。
この2人は、間違いなく心強い味方になるはずだ。
「ふたりともクエスト終わったばかりなんだよね? こんな時間までごめんね」
「他ならぬイシュア様のためッス。駆けつけられて良かったッス!」
「みー、気にしない。……でもアリアには、きちんと釘を指しとく」
そんなありがたいことを言うふたり。
アリアを介抱したリディルは、恨めしそうにそんなことを口にした。
(ふたりとも冒険者として元気にやってるみたい)
(ほんとうに良かったよ!)
変わらぬ様子に安心した。
ふたりが別室に向かうのを見送り、僕もそのまま眠りに落ちるのだった。
◆◇◆◇◆
「ふえ? このふたりをパーティメンバーに?」
「うん。元いたパーティのメンバーなんだ。実力は僕が――」
「イシュアさんが言うなら間違いない。是非ともお願いするの!」
(そんなアッサリ決めて良いの!?)
説得するための材料を、一晩かけて考えたのは何だったのか。
そう思うほどアッサリと、リリアンはふたりのパーティ入りを認めるのだった。
「良かった! ミーティアもリディルも、改めてよろしく。リリアンさんの判断に感謝――」
「う〜」
そこで、もじもじと何かを言いたそうなリリアン。
(なんだろう)
(やっぱり不満はあるのかな……?)
「リリアンさん、パーティは最初が肝心だよ。言いたいことは、はっきりと言うべきだよ」
「なら――!」
リリアンは意を決したようにこちらを向き、
「呼び捨てにして欲しいの。ミーティアとリディルにアリアも。みんなずるいの――!」
恥ずかしそうに、そんなことを小声で言った。
「よ、良いの?」
「もちろん! 是非是非、私のことも呼び捨てでお願いします!」
そんなにワクワクした顔でお願いされたら、断るなんて選択肢は存在しなかった。
「改めてよろしく、リリアン! ……僕のことも、呼び捨てで良いよ?」
「ひゃいっ! イシュアさん! ……イシュアさん。――――イシュア?」
上目遣いでリリアン。
(そ、そんな恥ずかしそうに、何度も呼ばないで?)
(なんか僕まで、恥ずかしくなってきちゃうじゃん……)
「イシュアさん、もし良かったら後で新しい武器を一緒に――」
(しかも「さん」付けに戻った〜!?)
そんなやり取りをしていると、
「先輩先輩! さっそく今日の依頼を受けに行きましょう?」
どうしたのだろう。
何故かアリアが、僕の腕をむんずと掴んだ。
そうして、スタスタと歩き出すではないか。
「ま、待つの〜! 今日はイシュアさんと、買い物に行く予定なの〜!」
「え、初耳だよ……?」
「そんな抜けがけ、許しません! ……じゃなくて、パーティ組んだばかりですし、連携を取る練習をするのも大切です!」
そんなやり取りとともに。
僕たちは、クエストを受けに冒険者ギルドに向かうのだった。
***
36話・37話 ミーティアの口調を、過去エピソードに合わせて修正しました... m(_ _)m
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