38.【SIDE: 勇者】勇者、名声が地に落ちてクエストの受注すら出来ず苦悩する!

「くそう!」


 忌々しい城での断罪劇。

 ほんとうに勇者の資格を剥奪され、犯罪者の紋を刻まれた俺――アランは、そう毒づいた。



 冒険者ギルドは来るもの拒まず。

 ノービッシュで、一応は冒険者として再登録することはできた。

 しかし――


「はあ!? 元・勇者の俺様がクエストを受注してやるって言ってんだよ! それなのにどういうことだよ――!?」

「ですから犯罪歴のある人には、おまかせできないと言ってるんです!」



 そもそもクエストを受注させて貰えなかったのだ。

 Eランクのクエストなんて受けたくもないのに、仕方なく受けようとしたらこの扱い。

 おまけに――



「あれがイシュア様を追放したっていう愚かな元・勇者?」

「仲間にも全員逃げられたんだって。ほら、最近リリアンちゃんに合流した2人」

「勇者のくせにエルフの里を滅ぼそうとしたんでしょ? あ〜、やだやだ」


 ヒソヒソ、ヒソヒソ。

 街中の人が、俺の方を見てこそこそと話す。



「Eランクのクエストなんざ、こっちからお断りだ!」

「そうですか、ではお引き取りを」


 受付嬢の視線は冷たい。

 すげなく断られたが、それは困る。


 今まで貰えていた勇者の支援金が、無くなったダメージは大きい。



(くそっ。なんで俺が、受付嬢なんかを相手に頭を下げないと行けないんだ!!)


 そう思っても、背に腹は変えられない。


「俺にも受けられるクエストを斡旋してくれ。今夜の宿代が必要なんだ……」

「あれほど豪遊していたのに、今は泊まるところに困る程なんですね……」


 勇者の資格を取り上げられた直後。

 毎日のように、やけ酒をした記憶がよみがえる。

 クエストの受注すらままならず、

 


「余計なお世話だ! 良いからクエストを寄越せ!」

「あの一角にあるクエストは、いつでも引き受け手を待っていますよ」


 すげなく受付嬢が指差したのは、



「ふざけんな!! ハズレ依頼なんて受けろって言うのか!?」

「紹介しろと言われましたので」


「あんなもん受けるのは、よほどの腰抜けかまともなクエストを受けるだけの実力がないクズだけだろう! まともなクエストを寄越せ!」


「イシュアさんのことをクズだと!?」

「クエストを受ける奴を馬鹿にする発言、断じて許すわけにはいかねえ!」

「勇者の資格を剥奪されるようなあんぽんたんには、分からねえだろうな!!」


 俺の言葉に、怒った冒険者たちが怒鳴りつけてきた。

 アランの言葉は、ハズレ依頼を受ける冒険者全体を敵に回す発言――総スカンをくらうのも当たり前だった。



 ここで大人しく受付嬢の言うことを聞いていれば、まだ違う未来だってあったのかもしれない。

 しかし、プライドが邪魔をしたのだ。



「そんなクエストを受けてくれる人だからこそ、イシュアさんは街中で人気者なんですよ」


 受付嬢は深々とため息をついた。


「イシュアの野郎が?」

「イシュアさんを見て、クエストの報酬より人の役に立ちたいからという理由で、クエストを選ぶ人も増えてきてるんです」


 受付嬢は楽しそうにそう言った。



 またイシュアだ。

 どこに行っても、あいつの話題が聞こえてくる。

 その事実が俺の神経を逆撫でする。


「くそっ……」


 今となっては、あいつが魔力支援をしていたというのを認めない訳にはいかない。

 それでも自分の過ちを突きつけられているようで、苛立ちがまさるのだ。




「クエストを受ける気がないなら、お引き取りを」

「元・勇者の俺を追い返したこと、いつか後悔するからな……!!」


 捨て台詞とともに俺は冒険者ギルドを飛び出した。




◆◇◆◇◆


「モンスターを狩る。それで素材を売りさばいて、無理矢理でも生計を立てる!」


 次の行動指針は、あっさり決まった。

 超一流の冒険者ならば、討伐したモンスターの素材を売りさばくだけでも生計を立てれるらしい。



「幸いにして聖剣は使える!」


 勇者というのはジョブである。

 国王陛下に勇者のライセンスこそ取り上げられたものの、スキルで生成する聖剣・エクスカリバーは問題なく振るえたのだ。



「喰らええええええ!」


 俺は出会ったモンスターに、必殺の一撃を浴びせた。

 もともとノービッシュ周辺に出てくるモンスターは、さほど強くない。


 ゼリー状のスライムモンスターは、その一撃を受け――跡形もなく消滅した。



「ふっはっは! 弱い、弱すぎるぞ!」


(……素材も残らんでないはないか!!)



 一流の冒険者ならば、素材を傷めないように倒し方に工夫をしたりするのだが、アランはそのことを知らなかったのだ。

 イシュアやアリアが何度もアドバイスしていたのだが、勇者の支援金があるからと無視していたのだ。


 俺は何度もエクスカリバーを振るい、同じ回数だけモンスターを消滅させた。

 しかし、肝心の素材が手に入ることはなかった。


 ――やがて、


「くそっ。もう魔力切れか」



 脳を締め付けるような鈍い痛み。

 何の戦果も上げられぬまま、俺はノービッシュに戻るしかなかった。

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