36. 元・パーティメンバー、ついにイシュアと合流する!

 時は少しだけ遡る。


 勇者アランと別れた魔導剣士の少女(ミーティア)と大賢者(リディル)は、イシュアを追いかけてノービッシュに向かっていた。

 しかし向かう途中で、いかにも立派な馬車が、盗賊の集団に襲われているのを見つけてしまう。


「ここで見捨てたら、ウチたちはイシュア様に顔向け出来ないッスよ」

「わたしもそう思う。イシュア様なら間違いなく助ける」


 ふたりが思い浮かべたのは、尊敬してやまないマナポーターの顔。

 到底、放っておくことなど出来なかった。



「相手は素人みたいなもんッスね。新たな戦法を試す相手には、ちょうど良いッス」

「うん。魔力もばっちり回復したし、暴れたい気分!」


 ふたりは、とってもイライラしていたのだ。

 元・パーティリーダーであるアランの、あまりに好き勝手な振る舞いへの怒り。


 ふたりはそのストレスを発散するように暴れまわった。

 それこそ鬼神のごとき強さを発揮し――盗賊団は絶望して逃げ帰ったと言う。




◆◇◆◇◆


「解せぬ……」


 ぽつりと呟くリディル。


 一日後。

 ふたりは、装飾品のついたやたらと豪華な椅子に座り、ため息を付いていた。

 目の前には豪華すぎる食事が並べられている。


「お気に召しませんでしたか?」

「いえ……。とっても美味しいのですが――」


「それは良かったです。あなたたちは娘の命の恩人です。どうかゆっくりしていってください!」


 2人が助けた馬車に乗っていたのは、隣の領から来ていた人間。

 病気で苦しむ領主の娘を助けるために、薬を運搬中だったらしい。


 ついつい護衛を引き受けてしまった2人は、領主からお礼がしたいと熱い要望を受けて、領主の住む館に招待されたのだった。



「どうしてこうなるッスか!?」

「みー。あの勢いで頼まれたら、断れない……」


「ウチらは早く、ノービッシュに向かわないとなのに!」


 なまじ100%の好意からの申し出なだけに断りづらい。



「いっそ住み込みで我が領地で働かないかい? 腕利きの護衛が欲しいと思っていたんだ」

「ずっと傍で見ていて、君たちのことは信用できると確信した。月に3枚金貨を渡しても良い」


 貴族の護衛団として、住み込みでの仕事。

 ただの冒険者にとっては、考えられないほどの大抜擢だろう。

 

「みー、ありがたい申し出ですが」

「ウチらはしがない冒険者ッスよ。貴族に雇われるのは性に合わないッス」


 それでも、2人はイシュアを追いかけることを選ぶ。

 

「それは残念です――気が向いたら、いつでも我が領に遊びに来てください。いつでも歓迎します!」


 総出で見送られるミーティアとリディル。

 こうした偶然から生まれる縁も、また冒険者の醍醐味の1つなのだ。


 領主の館に一週間近く滞在した2人は、ノービッシュに向けて出発した。




◆◇◆◇◆


「……解せぬ」

「どうしたッスか、リディル?」


 ふたりがようやく、ノービッシュにたどり到着したとき。

 既にイシュアはノービッシュに居なかった。



「みー。さすがはイシュア様!」

「すごすぎるッス! 横柄に振る舞う冒険者を決闘で返り討ち。受けるクエストは、引き受け手が居ない放置されたものを――報酬よりも人の役に立つことを選んでるッスね。ほんとうに冒険者のお手本みたいッス!」


 街中でイシュアの活躍が聞こえてくる。

 そのどれもがイシュアを称えるものばかり。

 この町にイシュアがつい最近まで居たことは、間違い無さそうだ。


 どうも入れ違いで、エルフの里へと旅立ってしまったようなのだ。

 ならばすぐにでも追いかけようと意気込んだ2人なのだが――



「うみゅう。国王のお触れで立ち入り禁止……?」

「え、イシュア様。大丈夫ッスか?」


 エルフの里の周辺で異常事態が発生。

 一般人の立ち入りが、禁止されてしまったのだ。



「これじゃあ、イシュア様を追いかけることも出来ないッス……?」


 ミーティアはショックを受けていたが、



「それなら――イシュア様に並び立てるによう、今のうちに冒険者ランクを上げるッスよ!」


 すぐに立ち直りそう宣言。

 「おー!」と、リディルも一瞬で乗り気になる。



「難しいクエストをいっぱい受ける。少しでもイシュア様と並び立てるように!」

「ハズレ依頼を優先的に受けるッス! イシュア様の示してくれた道を追いかけるッスよ!」


「みー、賛成! そうと決まれば早速、クエスト受けてくる」


 元気よく飛び出すリディル。

 ハズレ依頼のスペシャリストが、もう一組生まれた瞬間であった。

 



 モンスターの討伐・素材採集、成長の糧になりそうなことは何でもやった。

 イシュアに相応しい冒険者になりたい一心で、どんな難クエストをも瞬殺していった。


 ――だからそれは、ちょっとした事故

 ――ふたりはちょっとだけ、熱心になり過ぎたのだ




◆◇◆◇◆


「解せぬ……」

「リディル、どうしたッスか?」


 呟いたリディルに、ミーティアはきょとんと尋ねる。


「みー。当初の目的を忘れたの……?」

「当初の目的……あ!! イシュア様はどこッスか!?」


「ミーティア遅い。イシュア様は、もうノービッシュに帰ってる」


 ふたりはノービッシュから遠く離れた辺境の地に来ていた。



「すぐに会いに戻るッス。――この採集クエストが終わったら」

「あと……155個? みー、何日かかるのこれ? 凛月草もいるんだよね」 


「さすがの外れクエストっぷりッス……」


 危険なモンスターも現れる地での採集クエスト。

 報酬は別として、確実に冒険者としての経験は積める代物であった。



「これでおわりッス!」

「みー、ようやく。久々にイシュア様から魔力を貰う。楽しみ!」 


 ふたりはワクワクと、ノービッシュに戻るのだった。




◆◇◆◇◆


 ――そうして


「「イシュア様!!」」


 ミーティアとリディルは、ついにイシュアを発見する。


 彼が居たのは、ノービッシュの中でも有名な大衆食堂。

 いつの間に合流したのだろう。

 聖女のアリアも一緒だった。



「ど、どうしてアリアが一緒に?」

「なんですか〜♪ あ、お久しぶりです、ミーティアさんとリディルさん!!」


「あの……アリア、さん?」

「はい〜♪」


 ミーティアもリディルも、目を丸くした。

 パーティでは誰よりも冷静沈着で、頼れる聖女だったアリア。

 そんな彼女が上機嫌に鼻歌を歌いながら、ジュースでも飲むように果実酒を一気飲みしていた。



「アリア……酔ってる?」

「なに言ってるんですか〜? アルコールなんてヒーリングで一発ですよ。聖女は無敵なんですよ〜♪」


「アリア〜! 久々に会ったパーティメンバーに、面倒くさい絡みしないで〜!?」

「打ち上げで硬いことは言いっこなしです! ミーティアもリディルも、混ざりたいって顔してますよ♪?」


 ふるふると2人は首を降った。

 正直、出直したい。



「うわ~ん! マナー本のせいでイシュアさんに嫌われた~。あんな本の、二度と信じないの~!」

「でもリリアン良かったな~! こうしてイシュアさんとパーティを組める日が来て!! ず~っと追いかけたもんな! ほんとうに良かったな!!」


「うわ~ん、ディアナのばか~! それは内緒だってずっと言ってたのに~!?」


 イシュアの正面には、酔っ払いが1組いた。

 杖を持った愛らしい少女と、凛とした女性なのだが――2人とも完全に出来上がっていた。

 冒険者同士の打ち上げでは、珍しい光景でもないのだが、ちょっと近寄りたくない感じだ。



「ミーティア、リディル! 元・パーティメンバーを助けると思って! どうかこの惨状を打開するために、力を貸して――!!」


 正直、出直したい。

 とっても出直したい。


 それでも敬愛するイシュアにここまで頼まれたのだ。

 2人は否と答えることは出来なかった。

 

 ――実にどたばたとした再会の一幕だった

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