35.マナポーター、ついにリリアンのパーティに加わる!

 翌日。

 僕とアリアは、指定された待ち合わせの場所に向かっていた。


「先輩に喧嘩を売ろうなんて。いったい誰なんでしょうね?」

「僕、そんな恨まれるようなことしたかな?」


 僕は首をかしげる。


「考えても分からないことは、気にしないのが一番だね。行けば分かることだよ」

「先輩なら何が起きても、とうにかしてしまいますもんね」



 アリアが苦笑する。

 そうして僕たちは歩き続け、



「着いたね」

「気をつけてくださいね、先輩」


 夜も遅くあたりは真っ暗。

 そうして僕たちは、待ち合わせ場所に到着した。




◆◇◆◇◆


 そうしてカクリコの湖で僕たちを迎えたのは、


「イシュアさん!」


 パァッと笑顔になり、こちらに駆け寄って来るのはリリアンだった。



「どうしてここにリリアンさんが!? リリアンさんも、手紙で呼び出されてここに来たんですか?」


 僕の中で、警戒心が跳ね上がった。

 リリアンと僕を、同時に相手に出来る自信があるのだろうか?



「え、違うよ? だって私が手紙を――」

「手紙の差出人の狙いは何だろうね? 僕とリリアンを相手に、決闘の申込みか。相当、腕に覚えがあるんだろうね……」


「て、手紙の差出人の狙い――決闘の申込み……?」


 ガーンとショックを受けた様子で、リリアンは目を見開いた。

 よしよし、とディアナ。



「ごめんなさい! 手紙を送ったのは……私なんです」

「え? リリアンが決闘状を!?」


「決闘状じゃありません……誤解です~」


 先ほどまでの満面の笑みがウソのよう。

 リリアンは「迷惑をかけてしまった」としょんぼりする。



「ほらな、リリアン。あの文面じゃ、誰でも決闘を申し込まれたと思うよ。申し訳ない、イシュアさん。リリアンに悪気は無かったんだよ」

「うう……。あのマナー本、帰ったら焼き払ってやるの〜」



 貴族のマナー本を参考に、僕たちを集合場所に呼ぶための手紙を送った。

 ――例の、決闘の申込書のようなものを。



「リリアンさん、どうしてそんな手のこんだことを?」


「――イシュアさんにお願いがあります!」

「は、はい」


 リリアンはキッと気合を入れ直し、僕を見据えた。



「イシュアさん、アリアさん! 是非、私のパーティに入ってください!!」


 深々と頭を下げるリリアン。

 顔を真っ赤にして、おそるおそる口にした。

 まるで、一世一代の告白のようだった。


「リリアンさんほど優秀な勇者なら、優秀なメンバーを選びたい放題じゃないの? ……それなのに、僕で良いの?」

「ひゃいっ! どうか私と、パーティを組んでくだしゃ――」



 噛んだ。

 リリアンはもはや涙目で、ううううっと唸っていた。


「アリア、どう思う?」

「リリアンさんは、とても立派な勇者です。私は賛成です」


 リリアンが立派な勇者であることは、もはや疑いようがない。

 僕としても否定する理由は無かった。

 


「なら、決まりだね。リリアンさん、僕たちで良ければ是非ともお願いします!」


 僕は手を差し出した。

 リリアンはまじまじとその手を見ていた。

 それからパァっと笑顔になると、しっかりとその手を握り返した。



「ふつつかものですが、よろしくお願いしますっ!」


 固い握手は互いを尊重する証明。

 ついに、新たな勇者パーティが結成された瞬間であった。


(アランが相手の時は、こんなやり取りもなかったな――)

(開口一番「足を引っ張るなよ!」って宣戦布告されたっけ……)


 そんな過去も、もはや笑い話だ。




◆◇◆◇◆


「良かったな、リリアン。ようやく――ようやくだな!」

「うん! 夢でも見てるみたいなの〜」


 うなずき合うリリアンとディアナ。



(そう言えば、ひとつだけ聞いてみたいことがあったな――)

 

 僕はふと思い出す。


「リリアン。そう言えば、国王陛下には何をお願いしたの?」

「ええっと。それは――ナイショなの」


 恥ずかしそうにうつむくリリアン。


(――重要なことだから、詮索するなってことかな?)

(同じ勇者パーティだからって、何でも明かせるって訳じゃない。当然だよね)


 少しだけ寂しく思いつつ、僕は納得する。

 僕を見たディアナは、何を思ったのかこんなことを言い出した。



「なんとリリアンの願いは、イシュアさんとパーティを組むことだったんよ! でも最終的には、こうして自分で――」

「ちょっ、ディ〜ア〜ナ〜!?」


 リリアンは涙目で、ディアナに何事か訴えかけた。

 ほんとうに表情がコロコロ変わる小動物のように可愛らしい少女だ。



(国王陛下に直接頼みを伝えるチャンスを、そんなことに使う訳が無いじゃないか)

(ディアナさんも面白い冗談を言う人だな〜)


 じゃれ合うリリアンとディアナを、僕は優しく見守った。




 これからはもっと楽しい日々が始まる。

 そんな漠然とした予感。


「早速だけどさ。エルフの里の異変の打ち上げとか、今からどうかな?」

「イシュアさんのお誘い!! もちろん行くの〜!」


 にこにことリリアンが駆け寄ってくる。



 ――そうして、僕たちは勇者リリアンのパーティに加わった。

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