三章 《魔力無限》のマナポータ、アメディア領に向かう

34.マナポーター、果たし状……のようなものを受け取ってしまう!

 エルフの里にまつわる依頼を達成した僕とアリアは、以前と変わらぬ日々を送っていた。

 変わったことと言えば――



「イシュア様! どうかサインを下さい!!」


 街を歩いているときに、そんなお願いをされるようになったことだろうか。


「ええ!? 僕なんかの?」

「はい! 冒険者の先輩として、すっごく尊敬しています。一生の宝物にします!!」


 国王のお触れのキッカケとなった異変を、アッサリと解決した超人。

 街の人からは、どうもそのような評価を受けているらしい。



「先輩。大人気ですね?」

「そうなのかな? サインなんて生まれてこの方、書いたこともなかったよ。アリアは聖女として、こういうのは慣れてるんだよね?」


「そうですね。教会の象徴となるための教育も受けましたから――私は断固拒否しましたけど」


 基本的には引っ込み思案なアリアである。 

 見知らぬ人の前に積極的に出る必要がある仕事なんて冗談ではない、と引きつった笑みを浮かべてたっけ。


「う~ん。サインのコツとかある?」

「それこそクエストでデザインを依頼するとか? だと、希望者が殺到しそうですね……」


「アリアはときどき面白い冗談を言うよね?」


 誰も好き好んで、新米冒険者のサインなんてデザインしたがらないだろう。



 喋りながらも、僕たちはテキパキと依頼をこなしていた。

 今の僕たちは、ハズレ依頼のスペシャリストと言っても良い。

 

「このクエストも終わりですね。なんでしょうね? せっかくBランクになったのに、やってることは前と変わりませんね」

「平和が一番だよ。無理に難しいクエストを受ける必要はないよ」


 僕たちはBランクに昇格していた。

 これは新人冒険者の昇格速度としては異例のことである。

 ユグドラシルを蘇生したことを称えて、ほんとうにギルドから特別恩賞が贈られてきたのだ。



「それもそうですね。失敗したら里が滅びるなんてプレッシャー、二度とごめんです」

「違いない」


 そう言って、お互いに苦笑する。

 今となっては良い思い出だった。



「一度、リリアンさんたちも呼んで、打ち上げとかしたいね?」

「良いですね! パーっと飲みましょう!!」


「アリアはお酒禁止ね、リリアンさんも」


 思い出すのはエルフの里のお祭りの惨状。

 あの悲劇は繰り返してはならない。




 そんなことを話しながらのギルドへの帰り道。

 見知らぬ冒険者が、いきなり僕たちに話し掛けてきた。


「イシュアさん、お届けものです。中身は見るなとお達しなので、自分の居ない場所で確認して貰えれば――」

「分かりました。ありがとうございます」


 僕は差し出された封筒を受け取り、しげしげと眺めてしまう。

 女の子が好みそうな可愛らしい装飾の付いた封筒。


「先輩先輩! 何ですかそれ!?」

「さあ……」


 なぜだろう、アリアの視線がとっても怖い。

 やがて冒険者が立ち去ったのを確認し、僕は封を切って中身を確認する。



「先輩! なんて書いてありましたか?」

「ええっと……


『イシュア殿。明日夜、二十二の刻にカクリコの湖にて待つ。武器を持参して参られよ――』


…………う〜ん?」


「こ、これは――果たし状ですか?」


 封筒のデザインに見合わぬ物騒な中身。

 カクリコの湖は、ここから歩いて一時間もかからない冒険者同士の集合場所にもよく使われる場所だ。




(う~ん。果し状――? 文面的にはそうなんだけど)

(この可愛らしい封筒――なんか違和感あるんだよね?)



 新人がサクサクBランクに上り詰めたことを、快く思わない者は少なくないだろう。

 警戒するに越したことは無い。


「行くんですか?」

「闇討ちされるよりはマシだしね」


 相手が分からなければ、対処のしようもないのだ。

 そうして僕たちは、謎の手紙に呼び出され、カクリコの湖に向かうのだった。




◆◇◆◇◆


「ふんふんふ~ん♪」

「上機嫌だな、リリアン」


 一方、そのころ。

 リリアンはものすごく上機嫌に鼻歌を歌っていた。



「明日はイシュアさんと待ち合わせ~。ついにパーティ結成なの!」

「イシュアさんは、いつも食堂で食べてるだろう? そこで誘えば良いのに……」


「パーティを申し込むなら誠意が大切! やっぱりまずは書状で予約を取るの~」

「そ、それは貴族のお茶会を参考にしてるのか?」


 上機嫌に鼻歌を歌うリリアン。

 そこはかとなく嫌な予感がしたディアナは、そっとリリアンに確認を取る。



 リリアンは、そわそわそわそわとカクリコの湖で待っていた。

 手紙を冒険者ギルドに預けるなり、気合を入れて出発したのだ。


「ところで、その手紙には何を書いたんだ……?」

「『明日夜、二十二の刻にカクリコの湖にて待つ。武器を持参して参られよ――』完璧なパーティ申請のお誘いなの!」


「リリアン。それじゃあまるで、決闘の申し込みだよ」


 脱力するディアナ。

 ディアナは「う~む……」と悩み――


(ま、イシュアさんなら察してくれるだろう!)


 ――イシュアに放り投げてしまった!

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