《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
32. マナポーターと勇者リリアン、それぞれが願いし報酬は――?
32. マナポーターと勇者リリアン、それぞれが願いし報酬は――?
「イシュア殿。我が国には、そなたに返しきれぬ恩義があるようだな……」
アランが連れていかれて、謁見の間には静寂が返ってくる。
国王は頭を深々と頭を下げて、しみじみとそんなことを言った。
「国王陛下。僕がエルフの里に行ったのは偶然ですし、冒険者として当然のことをしたまでです。どうか頭を上げて下さい」
エルフの王女様に、今度は国王陛下。
偉い人に頭を下げられると、どうにも落ち着かない。
「イシュア殿には、アランのことでも迷惑をかけてしまった。望みがあれば、何なりと口にしてくれ!」
「そう言われても……。既にギルドから報酬も受け取っていますし」
頭の中で、チャリーンと金貨が30枚きらめいた。
さらには特別恩賞を渡したい、なんてことを受付嬢が言っていたのだ――これ以上、何を望めと言うのか。
「イシュア殿。そなたは貴族になる気はないだろうか?」
「き、貴族ですか!?」
国王からの提案は予想外のもの。
「望むのなら領地も与えよう。金銀財宝を望むなら、それも良い。イシュア殿、そなたの活躍は、爵位を与えるに十分すぎるほどの偉業なのだよ」
きっと誰もが喜ぶ提案なのだろう。
冒険者として名を上げて、いずれは貴族の爵位を授かること。
(もちろん貴族には貴族なりの苦労があるだろうけど……)
(安定した生活が夢だ! って口にする冒険者は大勢いるもんね)
僕は、そんな未来を想像して――
「心だけ受け取らせて下さい。僕とアリアには、まだまだ夢があります。これからも冒険者として、上を目指したいんです」
気づけばそう答えていた。
貴族としての地位も、金貨の山も興味がないと言えば嘘になる。
でも、それだけでは面白くないのだ。
冒険者として心躍る体験がしたい。
何より、アリアが夢を叶えるための手伝いをしたい――そう思ったのだ。
(国王陛下からの提案を断るなんて、失礼な奴と思われるかもしれない)
「ごめんなさい。こんなワガママを言って……」
「気にするでない。私は別にイシュア殿を困らせたい訳ではないのだ。――そなたは、生粋の冒険者なのだな」
国王は感服したようにうなずくのだった。
「わ、私も国王陛下にお願いがあるの!」
「リ、リリアン!?」
突然、口を開いたリリアン。
慌てても止めようとするディアナだったが、リリアンはやけに真剣な表情で国王に視線を送っていた。
「良い。四天王を退けておきながら、何も望まなかったリリアン嬢からのお願いか。私に叶えられることなら、何でも協力しよう」
国王がリリアンを見る目は、まるで孫でも見るように優しいものだった。
「い、イシュアさんには聞かせたくないの……」
「そ、そうですか……」
小声で、ちらちらっと僕を見るリリアン。
(人前では話しづらい情報をやり取りするのかな?)
(勇者だもん。僕みたいな一般人には聞かせられない秘密も知ってるよね)
ちょっぴり寂しくなりながら、僕とアリアは謁見の間を後にした。
◆◇◆◇◆
王宮の用意した馬車の中。
国の英雄に見送りも無しなんて、とんでもない! と、丁寧に送ってもらえることになったのだ。
「良かったんですか?」
「ん、何が?」
馬車にゆったりと揺られながら、アリアはこちらを覗き込み尋ねる。
「報酬ですよ、報酬! 貴族の爵位なんて、願っても手に入らない方も多いじゃないですか?」
「……そうは言うけどさ。僕が貴族って、なんか似合わなくない?」
貴族になれば、社交界に参加することを余儀なくされるのだろう。
小うるさいマナーを、今さら習得するのも面倒だった。
貴族として振る舞う自分の姿が、まるで想像出来なかったのだ。
「そうですか。私に気を遣ってのことなら――」
「それこそ余計な心配だよ。アリアとの旅ほど楽しいことなんて、他にないもん!」
本心からの言葉だ。
その言葉を聞いて、アリアはホッとしたように微笑んだ。
(アリアは優しいな)
(自分のせいで、僕が冒険者を続けることになったのか――なんて気にしてるのかもしれないね)
気持ちは良く分かる。
僕だって、勇者に追放された時にアリアが追いかけてきて、巻き込んでしまったかと申し訳なく思ったものだ。
「改めて! これからもよろしくお願いしますね、先輩!」
「うん、こちらこそよろしくね!」
何度目かのやり取り。
それでもアリアは、ニコニコと上機嫌な笑みを浮かべていた。
そう――僕たちは、まだまだ新米の冒険者だ。
これからも旅は続いていく。
◆◇◆◇◆
「国王陛下――! どうかイシュアさんを私に下さい!」
一方、そのころ。
謁見の間では、リリアンがソワソワとそんなことを言い出した。
「そ、それはどういうことだね……?」
「イシュアさんが欲しいんです!!」
新進気鋭の勇者・リリアンの望んだ物――それは1人の少年だった。
さっきまで一緒に居たのに、何を言っているのだろう? と国王は首を傾げる。
「ええっと……? リリアン嬢とイシュア殿は、パーティを組んでいる訳ではないのかい?」
「イシュアさんとは、たまたま同じ地域のクエストを受けただけ。その場だけのパーティだったの。次こそは正式なパーティを組みたいの!」
グッと手を握って力説するリリアン。
あれだけのチャンスがあったのに、リリアンはついぞ「パーティを組みたい!」と口にすることは出来なかったのだ。
リリアンは深~く後悔して――思い立ったのだ!
国王陛下に"お願い"をすれば良いと!
「リリアン?」
しかしディアナは、それを良しとはしなかった。
たしかに国王の命令があれば、リリアンの願いは叶えられるだろう。
しかし、イシュアからどう思われることかか――あまり良くない未来を招く気がした。
「国王陛下じゃなくて、本人にお願いしよう。な?」
ディアナが
「う……でも~」
「たしかに国王陛下から命じられたら、イシュアさんは勇者パーティに入ってくれるだろうさ。でも――本当にそれで良いのか?」
「な、何が言いたいの?」
「パーティなんて、強制的に組まされるもんじゃないだろう? アリアとイシュアさんの信頼関係――傍から見てても分かっただろう?」
リリアンはこくこくと頷く。
アリアの魔法陣を使って魔法を発動する際、イシュアはアイコンタクトだけで発動させたりしていた。
まるで長年連れ添ったパートナーのような、独特の空気を
「国王陛下の言葉で強制的にパーティを組まされたとして。アランと同じように思われててしまうかもな?」
「それは……嫌なの」
アランが始めて役に立った瞬間である。
強烈な反面教師として。
別にイシュアは嫌な顔もせず、力を貸してくれるだろう。
それでもディアナは、そっとリリアンの背中を押した。
「せっかく同じクエストを通じて、仲良くなったんだ」
「ほんとうに? 私、イシュアさんと仲良くなれてる!?」
「うん。だからどうするべきか――分かるよな?」
「……うん。ちゃんと自分で、イシュアさんを誘うの!」
そうして、リリアンは決意した。
国王陛下に頼らずとも、その願いはようやく叶えられようとしていた。
「あの、リリアン嬢さんや? ほかに、私にお願いしたい事は無いのかい――?」
「うん。何もないの!」
……国王は泣いて良い。
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