31. 国王陛下への報告。勇者の資格を剝奪されそうだと焦っても、もう詰んでます……

 国王陛下が直々に用意した馬車に連れられて、僕たちは城に到着した。

 そのまま「待ってました」とばかりに、謁見の間に通される。



「イシュア殿。急に来てもらって申し訳ない」


 謁見の間でひざまずく僕たちに、国王陛下はそう声をかけた。


「楽にしてくれて構わない。此度こたびのこと――本当によくやってくれた!」

「ありがたきお言葉です」


 エルフの里で何が起きていたのかを、僕は報告した。

 国王はふむふむと興味深そうに聞いていたが、ヒゲを弄りながら疑問を口にする。



「ところでアランは何をしておったのだ? エルフの里の問題を見事に解決したのは、ほとんどイシュア殿とリリアン嬢の功績のように見えるが……」

「僕はアランに追放されましたから。アランはずっと単独行動で――」


「い、今……何と言った!? イシュア殿を――追放だと?」

「ご、誤解だ! おい、イシュア。いい加減なことを――」


「許可なく口を開くな! 今はイシュア殿から話を聞いておるのだ」


 慌てて言い訳しようとするアランだが、国王が一喝すると怯えたように口を閉ざす。



「すべて事実です。『魔力支援しか出来ない奴はいらない』と言われて、僕は勇者パーティを追い出されました」

「イシュア殿を何のために付けたと思っているのか。アラン、貴様がそこまで愚かだとは思わなかったぞ……」


 国王は呆れを隠そうともしない。


「私からもよろしいでしょうか?」

「発言を許可しよう、聖女・アリア」


 アリアが口にしたのは、僕が追放された後の勇者の振る舞いだった。


 僕が自分から出ていったと嘘を付き、パーティメンバーを騙そうとしたこと。

 無謀にもAランクダンジョン攻略を、強硬しようとしたこと。


 ――アランの行動が、次々と白日のもとにさらされる。



「……アラン、おまえにはエルフの里の調査を依頼したときに、イシュア殿と相談して向かうようにと命じたはずだが?」

「……おっしゃるとおりです」


「しかし、その時にはアリア譲もイシュア殿もパーティに居なかったはずだ。よもや嘘を付いたのか?」

「その点に付いては申し訳ありません――しかし!」


「バカ者! イシュア殿が居ないなら、これほど重要な依頼を、新人勇者に任せるものか!!」


 ビリビリっと窓を震わせるほどの勢いで、国王が怒鳴る。 



(国王陛下の怒りも、ごもっともだよ……)


 僕は粛々と、エルフの里で起きたことを説明していく。


「エルフの里でエクスカリバーを振るって、世界樹・ユグドラシルを攻撃した!?」

「はい。僕が駆けつけたときには、かなり危うい状態でした」


 国王は怒りを通り越して、真っ青になっていた。

 あのまま世界樹が枯れていれば、多額の賠償金を求められてもおかしくないし。

 それどころか、下手すると戦争の火種にもなりかねない。



「幸いアリアやリリアンさんのお陰で、事なきを得ましたが……」

「私たちはイシュアさんの言葉に従っただけなの。イシュアさんは、エルフの里の救世主なの!」


 リリアンが、ここぞとばかりに目を輝かせて力説した。



「それほど危機的状況を作り出していたとは。アランを勇者に任命したのは、早まったかもしれないな……」

「そ、そんな――まさか!?」


「アラン、貴様から勇者の資格を剥奪する!!」


 国王陛下が重々しく宣言した。



「待ってください!! 俺は勇者として、きちんとやっていけます!」


 きちんとやっていけないことは、これまでの行動が証明していた。

 今さら慌てても、とっくに詰んでいる。



「そうだ、イシュア! ……いや、イシュアさんとアリアさん。どうか俺のパーティに戻って来て、イチからやり直しては貰えないだろうか?」


 なりふり構わぬアランは、ひと目も気にせず僕とアリアに縋りついた。



「お断りします」

「大丈夫です。あなたが勇者に相応しい人間なら、冒険者としてもすぐ成り上がれますよ!」


 そんなことを今さら言うのは、あまりに都合が良すぎるだろう。

 往生際の悪いアランを、アリアは実に良い笑顔で切り捨てた。



「そ、そんな……。今さらゼロから冒険者としてなど冗談では――!」

「何を勘違いしている?」


 勇者資格の剥奪――残念ながら、それだけで済むほどアランのやらかしは軽くない。



「勇者アラン、おまえは決して超えてはいけない一線を超えた。『犯罪者の紋』を刻む。――己の行動をとくと反省するが良い」


 国王の宣言。

 それは決して覆らない決定事項だ。

 アランは、絶望に顔を青くした。


 犯罪者の紋とは、麻薬の密輸など、冒険者として許されない重大な犯罪を侵したものに刻まれる魔法による刻印のことだ。

 一生、後ろ指を指されて生きることになるだろう。



「そんな、陛下! どうかご慈悲を――!」

「連れていけ」


 衛兵がやってきて、アランを取り押さえる。

 アランは尚もあきらめ悪く何事かを叫んでいたが、もはやその言葉に耳を貸す者は誰もいなかった。

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