30.マナポーター、冒険者ギルドに報告すると『特別恩賞』を受け取って欲しいとせがまれる

「この、大人しくしろ!」

「黙れ! 俺を誰だと思ってやがる、勇者アランだぞ――!」


「勇者とはリリアン様や、救世主・イシュア様のような方を言うんだ!」

「里を滅ぼそうとした悪魔め!!」


 翌日、僕たちはアランを連れて王国に戻ろうとしていた。

 警備の者たちに引きずられるように、アランがやって来る。


 牢に囚われた後も、往生際悪く逃げ出そうとしたらしい。

 もっとも「次、逃げようとしたら足を折る」と見張りに脅され、今はすっかり大人しくなっているけど。



「おい、イシュア。貴様からも何とか言え! 勇者に対する非道な扱い。国際問題に発展する可能性もあるだろう!?」


 一晩経っても、アランに反省の色は見えなかった。

 何故、大問題を起こした勇者のために、王国がエルフの里に抗議をすると思ったのだろう?



(国際問題って言うなら、万が一にもアランを取り逃がす方がヤバそうだよ)

(アランは、エルフの里を滅ぼしかけた犯罪者だ。意図的に逃がしたと疑われかねないのん)


「……申し訳ないけどアラン、念のため聖剣が使えないようにマナを抜いとくね?」

「ああん? いったい何を訳の分からないことを――!」


 僕は念のため、アランを縛った上で魔力を奪い取っておく。


 純粋な剣の腕なら、剣聖のディアナさんには遠く及ばない。

 アランが道中で逃げ出そうとしても、大した抵抗は出来ないだろう。

 


「イシュア殿。我らは貴公らの訪問を待っておるぞ――!」

「こちらこそお祭り、とても楽しかったです! 近くに来ることがあれば、是非とも寄らせて下さい!」


 名残惜しそうにエルフの王女に見送れ。

 僕たちは、馬車に乗り王国に旅立つのだった。




◆◇◆◇◆


 旅は順調に進み、僕たちは初心者の町『ノービッシュ』に帰り着く。

 僕たちは、まず冒険者ギルドに報告に行くことにした。



「ただいま戻りました」


「い、イシュアさん。よくぞご無事で! エルフの里の周辺が大変なことになっていたようで、ほんとうに何とお詫びをすれば良いか……」

「このとおり無事です。早速、クエストの報告をしたいのですが――」


 僕を迎えた受付嬢は、やけに慌てふためいていた。


 なんでもモンスターの昇格という異常事態を受けて、エルフの里の周辺は立ち入り禁止になっていたらしい。

 とんでもない場所の偵察依頼に行かせてしまったと、ギルドマスターと深く後悔していたそうだ。



「リリアンさんたちも、ご無事で良かったです!」

「イシュア様に助けてもらったの! と~っても格好良かったの!」


 リリアンは満面の笑みでそう答える。



「合流出来て良かったですね! ……じゃなくて、いったい何が!?」


 困惑する受付嬢。

 エルフの里の周辺で何が起きていたのか、僕は事の顛末てんまつを説明した。



「しょ、瘴気が濃くなってモンスターが狂暴化していた!? その原因は、世界樹の機能低下で、エルフの里に着いた時には枯れかけていた――!?」

「はい。でも、もう大丈夫だと思います。エルフの里の王女様――チェルシーさんも世界樹に生命力が戻ってきたと、仰っていましたから」


 受付嬢は、あんぐりと口を開いた。



「リリアンさんですら手に負えなかったモンスターを討伐。さらには世界樹の蘇生ですって!? ……イシュアさん、あなたはいったい何者なんですか?」

「何者と言われても――マナポーターですよ。魔力がちょっぴり多いだけの」


 何故だろう? リリアンがぶんぶんと首を横に振っていた。

 受付嬢も呆れた声で「マナポーターというジョブの定義を見直す必要がありますね」と真顔でつぶやく。



「ひ、日頃のお礼のつもりの簡単なクエストのはずだったのに。ほんとうにイシュアさんには、何と謝れば良いのか……」

「気にしないで下さい、成り行きですから。クエストは達成! と考えても大丈夫ですか?」


「もちろんですよ!」


 勢いよく受付嬢はうなずく。


「というか、それほどの成果を上げておいて偵察依頼として報告するんですね……イシュアさん、本当にどれだけ欲が無いんですか!?」


 そんなことを言いながら、クエストに「済」のスタンプを押す受付嬢。


(これだけで金貨30枚!)

(ギルドマスターの用意した依頼だけあって美味しすぎる! 良いのかな、僕だけこんな美味しい思いをしても――!)



「も・ち・ろ・ん! 今回の件は、追加で報酬は用意します。今度こそ『特別恩賞』も受け取ってもらいますからね!!」

「え、ええ? そんなに良くしてもらっても、僕に返せる物は何もないですよ!?」



 どうしよう、ギルドの気前が良すぎて怖い。

 金貨30枚だけでも震えそうなのに。


「何で驚くんですか……。これほどの功績を上げた方に何も報いないのでは、ギルドの威信に関わりますから!」

 

 呆れたように、受付嬢が笑っていた。

 そういうものなのだろうか?



「……ところで。そちらに居るのは勇者……アランさんでしたっけ?」


 話に一区切りつき、受付嬢が縛られているアランに目を向けた。

 逃げられないように、今もディアナが警戒している。



「そうだ。俺はアラン、勇者だ! 国王陛下直々の依頼で、エルフの里の調査に向かって――」

「エクスカリバーで、世界樹にとどめを刺そうとしたんですよね?」


 意気揚々と話し始めたアラン。

 その声を遮るように、アリアが冷たい視線をむけた。


「む、イシュアとアリアは我が勇者パーティのメンバーなのだ。当然、その功績は俺のものだ!!」

「先輩を勝手に追放しておいて! あなたには、恥って感情が無いんですか!」


 アランの言うことは、滅茶苦茶だった。



「世界樹にとどめを刺しかけた!?」

「それで勇者? エルフの里と戦争でも起こしたいってのか?」

「その癖、イシュアさんたちの手柄を横取りしようってのかい!!」


 アランのあまりにも身勝手な発言に、冒険者ギルドの中がざわめく。

 しかし顔を真っ赤にしたアランには、そんな喧騒けんそうも耳に入らないようだった。


「ええっと。イシュアさんもアリアさんも、既に勇者パーティとしてのライセンスはギルドに返却しているようですが……」

「そ、そんな馬鹿な話があるか!!」


 紛れもない事実である。

 しかしアランは認められるかとばかりに地団駄を踏む。


 ――収集が付かなくなってきた頃。




「た、大変だ~!」


 突然、1人の冒険者が冒険者ギルドに飛び込んできた。

 そのまま一直線に受付嬢の方に飛んできて、僕の方に向き直る。


「そんなに慌ててどうしたんですか?」

「はい。今回の件について、国王陛下が報告を聞きたいと仰られており――迎えの馬車が、すぐそこまで来ているのです!」


「え、ええええ……?」


(う、うそおおお!?)

(どうしてそんな急に……!?)


 そういえばアランとパーティを組んでくれと頼まれた時も突然だったな、と僕は遠い目になった。

 そうして僕たちは、急きょ国王陛下の元に向かうこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る