23.マナポーター、ついにリリアンと合流する!

「クエストの討伐対象。オーガキング・亜種――見つけたの~!」

「よし、これでクエストは達成だな。サクッと倒して、イシュアさんたちと合流しよう!」


「そ、それはちょっと……」

「リリアン! この非常事態だ。恥ずかしいとか言ってられる状態じゃないって!」


 ディアナは光り輝く剣を抜き、オーガキングに向かって一閃。

 しかし……



 ぶよん


「え……?」


 あっさりと分厚い肉に阻まれ弾かれた。


 オーガキングの変異種も当然のことながらランクアップしており、その強さは今やSランク――災厄級とも並ぶレベルになってる。

 いかに力ある剣聖でも、一太刀で切り伏せられる相手ではなかったのだ。


 出し惜しみして、勝てる相手ではない。


「リリアン、一瞬で良い。固有結界『幻想世界』を展開してくれ。一瞬で仕留める」

「……分かった」


 こくりと頷くリリアン。


 彼女の持つユニークスキルは『幻想世界』。

 膨大な魔力と引き換えに、仮想世界を生み出す大技である。

 自パーティと敵を、生み出した世界に転移させることで、絶対的に優位な環境で戦うことができる。

 リリアンを勇者たらしめているチートスキルである。




「『幻想世界!』」


 リリアンは声を張り上げる。

 それは自分だけの小さな世界を生み出す儀式。

 術者のどんな願いでも叶えられる――リリアンにとっての理想郷。


 不可侵領域であり発動者が解除するまでは、誰にも干渉することは出来ない。



「ディアナ、お願い」

「任せときな!」


 幻想の世界で、リリアンは想像しうる最強の剣をディアナに贈った。

 光り輝く幻想の剣は、万物を切り裂く祈りが込められている。


 リリアンの生み出した剣を、最強の剣聖が振るう。

 すべての敵を一撃で切り伏せる――リリアンとディアナの切り札だった。




「これで終わり!!」


 幻想の世界で、ディアナは剣を振るう。

 オーガキングは身動きすら取れない。

 勝利を確信した彼女だったが――



 ぶよよ~ん


「え?」

「……うそ」


 昇格したオーガキングの肉体はどうなっているのか。

 その一撃が弾かれたのを見て、ディアナは顔がこわばるのを抑えられなかった。



「ど、どうしようリリアン。あいつ、めっちゃ硬いんだけど?」

「ウソ? 魔法抵抗値が、幻想世界を上回ってるの? 四天王すら貫いた一撃なのに……」


 一撃で倒しきれない。

 そうなると、一転してピンチになるのはリリアンたちだ。



「ごめんなさいディアナ、魔力が心もとないの。この空間を維持できるのは、あと5分ってところかも――」


 なんせ勇者のユニークスキルは、強力だが魔力消費も桁外れに大きい。

 ただでさえ瘴気に対応するために、魔力消費の大きい回復魔法を連打している状態だったのだ。

 あっという間に魔力切れが訪れる。



「デリャアアアアァ!」


ぶよよ〜ん


 ディアナは果敢に斬りかかる。

 しかし昇格したオーガキングの肉体に傷を付けることは叶わない。


「なんで!? 私たちはこんなところで死ねないのに!」

「落ち着けリリアン!!」


 リリアンは半泣きだった。


 攻撃は通らない。

 この固有空間の維持のためにすごい勢いで魔力を消費しており、枯渇したら万に一つの勝機も無くなる。

 まさしく絶体絶命だった。




 そんなときだった――

 その声が聞こえたのは。


「歪みは――ここだね?」

「待ってください! 先輩、いきなりどうしたんですか!?」


 そんな素っ頓狂な声。

 決闘をひとめ見た時から憧れていた少年の声。


「な、なにここ?」

「待ってくださ――先輩! って、なんですかここ!?」


 空間の壁を割くようにして現れたのは、2人の冒険者。

 ふたりはキョロキョロと辺りを見渡す。




「私、夢を見てるの? それとも走馬灯?」

「落ち着けリリアン、現実だ」


 ぽかーんと口を開けるリリアン。

 目の前の光景が、信じられなかった。


 誰にも干渉できない不可侵の領域――どうやって入ってきたというのか。


「い、い、イシュア、さん? ど、どうやってここに?」

「君はあの時の――!」


 イシュアさんがこちらを認識していた――!

 それだけで、リリアンは頬がにやけるのを抑えられなかった。



「どうしてと言われると――時空の歪みを調査してたら、辿り着いたって感じかな?」


 う~ん、とイシュアは首を傾げた。



 リリアンは、あらためて感動していた。

 偶然とはいえ、絶体絶命のピンチに駆けつけてくれたのだ。


 会いたくて仕方がなかった人だ。

 話しかけたくて、仲間に誘いたくて――どうしても勇気が出せず、ずーっとこっそり後を追いかけていた相手だ。

 そんな相手を前にして――



ふえ〜ん


 緊張の糸が切れてしまい、リリアンは思わず泣き出してしまった。


「えっ? ご、ごめんなさい。僕、なにか気に触ることを言っちゃったかな? ――助けて、アリア!?」

「もう。何してるんですか、先輩……」


 勇者というのは人類の希望である。

 常に先頭に立って、苦しむ人々の希望にならなければいけない。

 座り込んで助けを求めるなんて許されない。



 それなのに、リリアンは思ってしまったのだ。

 「助かった」と、イシュアが来てくれて心強いと。

 涙がこぼれるのを抑えきれなかった。

 ――そんなことでは、勇者失格だ。



「ええっと、迷惑じゃなければ魔力を渡そうか? すっからかんだよね」

「は、はいい~。お、お、お、お願いします~!」


 突如として目の前に現れたイシュアは、当たり前のようにそう提案した。

 リリアンは、緊張から目を閉じてしまい――



「ほえ? こ、こんなすぐ!?」


 みるみる回復する魔力に目を見張る。

 底を付いていた魔力が、文字通り一瞬で全回復したのだ。



「ごめんなさい、この空間を生み出すための魔力も肩代わりできれば良いんだけど、僕のレベルだと術式が理解できなくて……」

「ひゃ、ひゃい! 十分すぎます!!」


 ぴゃーと悲鳴を上げるリリアン。

 そんな様子を見て、イシュアは不思議そうに首をかしげるのだった。

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