22.マナポーターは偵察依頼を進め、追っかけ勇者のリリアンはひっそりと迷子になる

 何時間か歩いた頃。

 僕たちは、瘴気が濃くなっていることに気が付く。


「せ、先輩? 肉眼で確認できるほどの瘴気って……まずくないですか?」

「まずいなんてもんじゃないよ。このレベルの濃度だと、吸い込むだけで肺をやられかねない。到底、人が住めない環境だよ」


 早い段階から、僕はマナリンク・フィールドを張っていた。

 この技は、魔力の回復を高めるだけでなく範囲内の空気をろ過できる。

 そのため目視できるほどに異変が出るまで、濃くなっていく瘴気に気付けなかったのだ。



「アリア、世界樹は瘴気を浄化するんだよね? この辺には、世界樹の効果が及ばないの?」

「世界樹の力は絶大です。少し離れたぐらいじゃ、効力は弱まらないはずですが」


 自信なさそうなアリア。

 たしかに現実として、目の前には瘴気が広がっている。



「凶悪なモンスターが増えてる理由はこれかな?」

「……うう、ただの観光のはずだったのに。これじゃあ、アーニャさんには『異常無し』って報告出来ないですね」


「もう少し調査しようか?」

「はい、先輩の判断に任せます!」


 情報を持ち帰ることを最優先にするべきか。

 それとも詳しく調査を進めるべきか。

 悩ましいところだった。



 今後の行動に悩んでいる時、僕は気が付く。

 空間が歪められたような不気味な感覚。

 明らかに人為的な時空の乱れを感じ取り――



「ど、どうしたんですか!? 先輩!!」

「アリア、僕の傍を離れないでね」


 僕はその歪みに向かって走り始める。


 距離はそれほど遠くない。 

 アリアの支援魔法の効果もあって、数分もせずたどり着いた。



「歪みは――ここだね!」


 そうして僕は、時空の歪みをこじ開けた。




◆◇◆◇◆


 一方、その頃。

 イシュアを追いかけていた勇者リリアンたちは――迷子になっていた。

 例によってイシュアを追いかけていたのだが、モンスターと戦っている間に見失ってしまったのだ。


「う~。まさか私が、イシュアさんを見逃すなんて~」

「モンスター相手に手こずった私のせいだな。すまない、リリアン」


 イシュアとアリアは2人パーティだ。

 凶悪さの増したモンスターを相手にして大丈夫なのかとハラハラしていたが、彼らは見事なコンビネーションで敵を瞬殺していった。



「く、少しばかりきついな。まさかエルフの里の周辺が、こんな事になっているとは……」


 むしろ苦戦しているのは自分たち。

 顔色の悪いディアナを、リリアンは心配そうに覗き込んだ。


 リリアンは勇者として、簡単な瘴気の浄化スキル程度なら持っていた。

 しかしパーティメンバーを守れるほどの上級スキルではなく、ディアナの体は着実に瘴気にむしばまれていた。


『ハイヒーリング!』

「ありがとう、リリアン。だいふ楽になった」


 瘴気の毒は、専門の施設に行かないと治せない。

 回復魔法も、所詮は気休めだった。



「ハアアアアアァ!」


 ときおり現れるモンスターは、難なくディアナが切り払う。

 しかし油断はできない。


「気をつけろ、リリアン。瘴気をたんまり吸い込んで、だいたいのモンスターが昇格してる」

「この瘴気の濃さだもんね。ほんとうに異常事態だよ~」


 「昇格」とはランク付けされたモンスターが、何らかの理由で成長してしまい、ひとつ上のランクの強さを持ってしまうことだ。

 EランクならDランクに、DランクならCランクという具合に。


「早くイシュアさんを見つけないと」

「そうだな、私たちですら苦戦しているんだ。イシュアさんのことだ、形だけの偵察依頼でも真面目にこなそうとしているのだろう。……無茶をしていないと良いが」



 2人は焦っていた。

 やみくもに歩き回り――同じような場所をぐるぐると回っていた。


 ……完全に迷子だった。

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