21.マナポーター、エルフの里の周囲に居るモンスターの多さに疑問を持つ

 ギルドマスターが用意してくれた偵察依頼を受けて、僕たちは早速エルフの里に向かっていた。



「楽しみですね、世界樹・ユグドラシル!」

「2000年もの間、エルフの里を守ってきた大樹でしたよね。そういえばアリアさんは、昔から世界樹が見たいと言ってましたね?」


「はい! 世界樹のおとぎ話、好きなんです」


 アリアは少しだけ恥ずかしそうに笑った。

 


(世界樹のおとぎ話か――)


 僕はその内容を思い出す。



 今、エルフの里がある場所。

 そこは昔、モンスターの支配する土地だったのだ。


 人間の祈りを受けて、天使が種を撒く。

 魔を払う力を持つ種だ。

 その種は大きな大樹に成長し、やがて世界樹・ユグドラシルに育った。


 世界樹は、モンスターの生み出す"瘴気"を浄化する力を持っていた。

 モンスターのどんな攻撃も、世界樹を傷けることはなかった。

 世界樹はその地の瘴気を浄化し、やがて人が住めるようになった。


 ――それを守る形でエルフの里が形成された。

 たしかそんな話だ。



「世界樹が瘴気を浄化したおかげで、今のエルフの里がある。そんなおとぎ話を信じるなんて、子供っぽいと思いますか?」

「ううん、そんなことないよ。むしろ世界中に希望を届けるジョブ――聖女らしくて良いと思うよ」


 だいたいエルフの里の起源はともかく、世界樹・ユグドラシルがモンスターの瘴気を浄化する力を持っているのは事実なのだ。



「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです!」


 初めての馬車旅にテンション高めのアリア。

 エルフの里までの3日は、あっという間に過ぎ去っていった。




◆◇◆◇◆


 そうして到着したエルフの里。


「初めまして、冒険者のイシュアと申します」

「見ない顔だな。人間が何の用だ?」


 僕たちを迎えたのは、お世辞にも友好的とは言えない態度の2人のエルフだった。

 門番でもある彼らは、槍を構えたまま警戒心をむき出しにする。


(め、めちゃくちゃ敵意を持たれてるね!)

(エルフと人間の仲が悪いなんて話は、聞いたことがないけど……)


「ここの近くの依頼を受けてきたんです。怪しいものじゃないですよ?」

「……許可のない者を、里に入れる訳にはいかない」


 門番の態度はかたくなだった。

 何を言っても、その一点張り。

 冒険者ライセンスを見せたものの、やはり反応は悪かった。



「私は聖女のアリアです。世界樹・ユグドラシルの見学に来ました!」

「ユグドラシルの――!? 絶対にダメだ。帰れ!」



 世界樹の名を出した途端、門番2人の警戒心が跳ね上がる。

 ギロリと鋭い眼差しに見据えられ、アリアはぴゅーんと僕の背中の後ろに逃げ帰った。



「アリア、無理そうだね。出直そう?」

「うう、せっかくここまで来たのに。世界樹を見られないなんて」


(エルフの里の偵察依頼、か)

(ギルドマスターの遊び心とは言え、クエストには違いない)

(少しだけ調査が必要そうだね)


 う~、と不満そうなアリアを連れて。

 僕たちは、そのままエルフの里を後にするのだった。




◆◇◆◇◆


「うう、先輩。世界樹、楽しみにしてたのに」

「残念だったね……」


 エルフの里で門前払いを喰らった僕たちは、せっかく来たのでということで里の周辺をぶらつくことにした。

 偵察という名の観光だった。


「何であんなに警戒されてたんでしょう? あ、『デュアルスペル・ホーリージャッジメント!』 ……私たちは、いたって善良な冒険者なのに」

「僕たちだからってより、外の人間がエルフの里に入ることを嫌がってるみたいだったよね」


(流れ作業のように、とんでもない魔法を使うね……!?)


 現れるモンスターを、ストレス発散のために蹴散らすアリア。

 せっせとアリアに魔力を注ぐ僕。


「うう…。楽しみにしてたのになあ。あ、『ホーリー・ノヴァ!』『ホーリー・ノヴァ!』『ホーリー・ノヴァ!』 ……先輩、こうなったら! せめてユニコーンだけは絶対に見たいです!!」

「せめて、で言う難易度じゃないよね!?」


 最後の目撃情報が100年前とか言ってたっけ。


 アリアの放つ聖魔法は、無慈悲にモンスターを浄化し続けた。

 せっせとアリアに魔力を注ぐ僕。




(アリアが片手間で倒してるから気にならなかったけど……)

(なんだろう。やけにモンスターに襲われる気がするね?)


 それもスライムやゴブリンのような、下位モンスターではない。

 ゾンビナイトやトロルなど、Bランクのモンスターとも平気でエンカウントする。

 人里離れた秘境ならまだしも、すぐ傍にエルフの里もある安全地帯でだ。



「先輩、ここら辺のモンスター多すぎませんか?」

「アリアもそう思うよね? もう少しだけ調査する必要がありそうだね」


 僕たちは足を止めて、少しエルフの里の周辺を調べることに決めるのだった。


 僕たちは更に歩みを進める。

 どうもモンスターたちは、同じ方向から向かってきているようだった。



『デュアルスペル・ジャッジメント!』


 モンスターを視界に入れるなり、アリアが最大火力で殲滅せんめつする。

 無限にある魔力と、天才聖女の力をフル活用したゴリ押しだった。



「出てくるモンスターが、もはや魔界みたいだね。アンデッドキングにグール、リッチなんかも居たよね?」

「え、リッチって"不死の王"ですよね? 私、そんなの倒してましたか?」


(うそお……無意識だったの?)


 一応Sランクモンスターの筈なのに。

 どうしよう、後輩の成長が止まらない。

 頼もしすぎる。


「魔力を気にせずに魔法を撃ち続けられるおかげです。先輩が居なかったら、私はとっくにお陀仏ですね」

「僕もアリアと一緒で良かったよ」


 そんなやり取りをしながら、僕たちは更に歩みを進めるのだった。

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