二章 《魔力無限》のマナポーター、エルフの里に降り立つ

20.マナポーター、エルフの里の偵察依頼を受ける

 僕たちがこの街にやって来て1週間ほどが経った頃だろうか。


 僕とアリアは、今日も元気に冒険者として活動していた。

 すっかり定位置となってしまったハズレ依頼置き場。

 いつものようにクエストを探し始め――珍しい依頼を見つけて、思わず顔を見合わせた。



「この依頼、どう思う?」

「エルフの里の偵察依頼ですか。……いかにもヤバそうな依頼ですね?」


 タイトルは『エルフの里の偵察依頼』。

 依頼主は不明で、詳細情報も一文のみ。



「『実際にエルフの里を訪れて、何か異変があったら知らせて欲しい』て書いてあるけど……。何だろうね、この依頼?」

「達成条件が曖昧すぎますよね」


 アリアも不思議そうに首を傾げる。

 その癖――報酬は金貨30枚。


 明らかに相場より高価だ。

 旅費を考えても破格と言ってよい。

 その癖、目的も依頼主も秘匿されている。


(ここにあるのは、誰も受ける人が居ないクエストなんだよね)

(妙な依頼を受ける訳にはいかない。アリアを危険なことには巻き込めないし……)


 ――これこそ"いわくつき"のクエストなのだろう。

 僕はそっとその依頼を置いた。




「え、イシュアさん!? そのクエスト受けないんですか?」


 慌てた様子でやってきたのは、受付嬢のアーニャさん。


「ごめんなさい。ちょっと僕の手には負えないクエストかもしれないので」

「え? ただエルフの里に行って『異常なし』て報告するだけのクエストですよね?」


(ええ……?)

(受付嬢の認識、それで良いの!?)



「依頼人から目的まで、すべてが秘匿されてる依頼です。冒険者たち全員が危険視したから、ハズレ依頼なんて扱いを受けてるんじゃないですか?」


 アーニャさんは、僕の質問にアチャーと頭を抑えた。



「イシュアさん……ここだけの話ですよ?」


 アーニャさんは周囲に人がいないのを確認すると、声をひそめて話し始めた。


「その依頼、ギルマスからなんです」

「ど、どういうことですか?」


「処理に困ったハズレ依頼を処理しているイシュアさんには、随分と助けられていますから。ギルマスもひどく感動して、ぜひとも特別恩賞を渡したいなんて話が出たんですよ」

「と、特別恩賞だなんてとんでもないです! そんな気を遣って頂かなくても、僕もアリアも今の仕事に満足してますよ?」


 慌てて否定する。

 特別恩賞と言えば、ギルドに特別な貢献をした者に贈られる品物だ。

 いくら何でも身の丈に合わない。



「――予想通りの返事でした。そこがイシュアさんの良いところなんですけどね」

「さっきの話と依頼は、どんな関係があるんですか?」


「特別恩賞は渡せない、となったらギルマスが言い出したんですよ。めちゃくちゃ美味しい依頼を"ハズレ依頼"として置いておいたらどうかって」


 ギルドマスターが、特別恩賞の代わりに美味しいクエストを用意した。

 そして、それを僕が受けるであろうハズレ依頼に潜ばせた。

 ――アーニャさんの話をまとめると、そういうことらしい。



「ほんとうに見てくるだけで構いませんから。ギルマスの顔を立てると思って! ちょっとした観光だと思って、エルフの里への旅を楽しんで来て下さい」


 そう言って手を合わせて頼み込むアーニャさん。



「先輩! ここ最近は、ずっとクエスト漬けでした。たまには羽を伸ばしましょうよ!」


 思えばクエストが楽しすぎて、ついつい依頼を受けすぎていた。

 僕だけならともかく、アリアまで付き合わせている――こういう機会に思いっ切り羽を伸ばすのも良いかもしれない。



「事情は分かりました。そういうことなら……是非とも受けさせてください」


 僕がそう答えると、アリアはヨシッ! とガッツポーズ。



「先輩、先輩! 私、世界樹が見てみたいです。エルフの里にあるんですよね?」

「こら、アリア。あくまでクエストで行くんだぞ?」


「はーい! あ、先輩先輩! ユニコーンも見てみたいです!」


 ニコニコと上機嫌なアリアを見て、僕までつられて笑顔になる。

 そうして僕たちはエルフの里に向かうことになった。




◆◇◆◇◆


「危険なクエストを受けてしまったイシュアさんをお助けして、信頼を勝ち取ろう大作戦。今日もスタートなの~!」


 イシュアたちを、こ-っそりと見守る者たちがいた。

 勇者・リリアンと剣聖・ディアナの2名である。



「な、なあリリアン? あの2人が危ない目に遭う場面が、ちっとも想像できないんだけど……」

「――今日もスタートなの~!!」


「やっぱり勇気を出して、ちゃんとイシュアさんにお願いするべきだよ」

「そ、そ、そ、そんなこと出来る訳がないじゃん!」


 この一週間でリリアンは……隠れるスキルだけが上達していた。

 イシュアの視線に入りそうになったら、それを第六感で察知。

 神速で物陰に隠れられるのだ――誰得スキルである。



「という訳で、エルフの里の周りにいる賞金首クエスト取ってくるね」


 とてとてと走り出したリリアンがとってきたのは、


「『Aランク賞金首・オーガキング・変異種の討伐』ね。相手に取って不足無し――良いんじゃないか?」

「うん、私たちなら楽勝だよ~」


 リリアンが何の気負いもなく受注したそれは、ギルドに貼られた多数あるクエストの中でも最高難易度の1つだった。

 アーニャさんが何の躊躇いもなくリリアンに任せたことからも、ギルドの彼女たち勇者パーティへの信頼の高さが伺える。

 否、それだけでなく――



(めっちゃ微笑ましいものを見るような目で見られてる……)


 鼻歌まじりにスキップするリリアンを、ディアナはため息まじりに見る。

 このまま放っておいたら、永遠にステルス能力だけを磨くことになりかねない。


(――そろそろ背中を押してやらないとな?)

 

 内心で呟くディアナだった。

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