16. 大人気のマナポーター、勧誘合戦に巻き込まれて揉みくちゃにされる

 決闘を終えた僕は、アリアと合流して冒険者ギルドに戻った。

 せっかくなので、ギルドと繋がっている食堂で昼食を食べることにする。


「さすが先輩です。カッコよかったです!」

「ありがとう。ちゃんと先輩としての威厳を保てて良かったよ」


「魔力濃度をコントロールして、相手を昏倒させるなんて――考えもしませんでした」

「アリアには通用しないよね。あくまでマナに慣れてない人にしか効かない小技だもん」


 通用しないというか、アリアにとってはマナの回復速度を高めるバフとして機能するはずだ。



「……すごくドキドキしました。先輩に何かあったらどうしようって。あまり無茶はしないで下さいね?」

「アリアは心配しすぎだよ」


(心配かけるのは不本意だけど、あのまま引き下がるわけにはいかなかったからね)


 やられっぱなしの冒険者は舐められる。

 冒険者は実力主義、育成機関で習うまでもなく常識だ。



「災難だったな、イシュアさんも。あれだけ大勢の前で完膚なきまでにやられたんだ。ダミアンの野郎も、おまえには手が出せないだろうさ」


「ダミアンの野郎は、ここ最近はことあるごとに威張りちらしてたからね。スカッとしたよ」


「マナポーターがあれだけ闘えるなんて。驚いたよ!」


 そんなことを話していると、周囲のテーブルに座る人たちが、次々と話しかけてきた。

 決闘騒ぎを見ていた人たちだろう。



「ありがとうございます。騒ぎを起こして申し訳ありません」

「いやいや、イシュアさんは何も悪くないよ。ダミアンのやつが突っかかっていったのが悪いってのは、ここにいる皆が知ってるさ」


 誰かがそう言うと、その場にいた冒険者たちは大きくうなずいた。



「登録時のやり取りも見てたよ。魔力量SSSランクなんだってな?」

「私、SSSなんて初めて初めて見ました!。是非とも私たちのパーティに……!」

「あ、こら! 抜け駆けはずるいよ!」


 和やかに話していたのもつかの間。

 いつの間にか僕たちのテーブルの周りには、人だかりが出来ていた。

 その誰もが、自らのパーティの良さを熱く語っている。



(え……え? なにごと!?)


「せ、先輩〜!」


 大勢の冒険者に囲まれ、アリアは涙目になっていた。


(今は物珍しさで人が集まってるだけだよね!? 評価してくれてるのは有り難いけど……)


 僕としては、しばらくはアリアとふたりで活動するつもりだった。

 どう断ろうかと考えていると、



「コラ! そんなに一斉に押しかけたら、イシュアさんも迷惑だろう。散った散った!」


 対応に困っているところに、割って入る者がいた。


「ウゲッ、ねえさん」

「ウゲッとは何だい。失礼な奴だね……」


 歩いてきたのは、剣を腰に刺した凛々しい女性だ。

 ひと目見て分かる。

 かなりの実力者だ。


 集まっていた人たちが、道を開けるように脇によけていった。


「私はディアナ。Sランクの冒険者でジョブは剣聖だ」

「剣聖……!?」


 剣聖といえば、聖女に並ぶレアリティの物理アタッカーだ。

 珍しいジョブに思わず、僕はまじまじとディアナを見てしまった。


「イシュアです、マナポーターです」

「私はアリアです。聖女です」


 ぺこりと頭を下げた僕達に、ディアナは深々と頭を下げた。



「ギルドの者が申し訳ない。いきなり集団で押しかけて勧誘だなんて、非常識にも程があるよな」

「そ、そんな。気にしてませんから。どうか頭を上げてください」


 Sランク冒険者といえば大先輩だ。

 責任感の強い人なのだろう。


「ディアナさんは何も悪くありません。それに驚いただけで、別に迷惑だなんて思ってませんから……」

「迷惑ではない、か。そう言って貰えると助かるよ……」


 なおも何か言いたげなディアナ。

 生真面目な性格のようで、冒険者としてやっていくには悩みも多そうだ。

 そんなことを思ったが――



「実は私は、勇者パーティに所属していてな。是非とも君をスカウトしたいと――」

「え、ええ……!?」


(非常識て自分で言ってたのに!!)

(迷惑じゃないって言葉を、そこまで素直に受け取るの〜!?)



 Sランク剣聖、まさかのスカウト合戦参戦の知らせ。

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