《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
15. マナポーター、チンピラ冒険者に絡まれ返り討ちにする
15. マナポーター、チンピラ冒険者に絡まれ返り討ちにする
「おい! ちょっと待てよ!」
冒険者登録を終えた僕たちに、ちょっと待ったと声がかけられる。
視線を向けると目つきの悪い筋骨隆々のおっさんが、底意地の悪い笑みでこちらを見ていた。
「うわあ。ダミアンさんだ」
受付嬢が、思いっきり嫌そうな顔で呟いた。
「……冒険者ですよね?」
「はい、Cランクの斧使いです。腕はたしかなんですけど、素行が悪くて……。クエストでトラブルを起こすことも多くて、困ってるんです」
受付嬢がひそひそと僕に話しかける。
ダミアンは手にした武器を脅すように見せびらかしながら、言葉を続けた。
「マナポーターごときが、俺様とおなじCランクだと? いつからこのギルドは、冒険者ランクが機能しなくなったんだ!?」
「な!? 何も知らずに、先輩のことを悪く言わないで下さい!」
アリアが果敢にも言い返すが、ダミアンはまるで堪えた様子もない。
「聖女の嬢ちゃんも可愛そうに。こんな弱っちい奴と一緒じゃ、いつまで経っても昇格は望めないぜ?」
ゲスな笑みを浮かべるダミアンたち。
アリアは気丈にもにらみ返したが、その手は小さく震えていた。
無理もない。
(飛んできた火の粉ぐらいは払わないとね)
「ダミアンさん。要するに僕が実力を示せば良いんですよね?」
「ああ、そうだが……俺は戦いもしないマナポーターてジョブが大嫌いでね。やっぱり男なら、腕っぷしで力を示して貰わないとなあ?」
出来ないだろうと、言わんばかりのダミアン。
マナポーターの役割は魔力ジョブへのマナ支援である。
腕っぷしは何も関係なく、言いがかりに等しいのだが、
「良いでしょう。決闘でもしますか?」
「ガキが! 舐めてんのか!」
冒険者同士では、それが手っ取り早い。
「イシュアさん、ダミアンはあんなんでも腕は一流です。無謀ですよ!」
「受付嬢の言うとおりだ。Cランク冒険者をあまり舐めないことだ。泣いて謝るなら、今なら許してやるぜ?」
「大丈夫です。見れば相手の実力はだいたいわかりますから」
「何だと……!」
僕は少しだけ好戦的になっていた。
可愛い後輩のアリアを怯えさせたこと――その報いはしっかり受けて貰おう。
◆◇◆◇◆
冒険者ギルドの裏にある闘技場で、僕とダミアンは睨み合っていた。
決闘騒ぎを聞きつけて、冒険者たちもこぞって観戦に来ている。
「超期待の新人なんだって。でもマナポーターなんだろう?」
「なんだって決闘騒ぎに? ダミアンの裏方嫌いは有名だけど、あまりにこれは……」
ひそひそと交わされる会話。
こちらを気の毒そうに見る視線も多い。
「武器は何をお使いになりますか?」
「いらないです。僕の武器は――この魔力ですから」
「てめえ! 舐めんのも大概にしろよ!」
バカにされたと思い激昂するダミアン。
(別に舐めてる訳じゃないんだけどね)
(付け焼き刃で武器を振るっても、勝てるはずがないし)
そうして戦いが始まった。
「一瞬で終わらせてやるよ!」
自信満々に言ってただけあって、ダミアンは巨大な斧を抱えたままかなりのスピードで突進してくる。
(だけど……遅い!)
僕は体内の魔力を解き放った。
「な、なんだあれ……!?」
「濃すぎる魔力が――可視化されてるのか!?」
解き放った魔力をコントロールして、一定の密度となるよう周囲に展開。
僕の周りに半径20メートルほどの薄青い空間が生み出される。
「てめえ! なにしやがった!」
「マナリンク・フィールド。高濃度のマナを展開して、魔力回復力を高める技なんだけど……慣れないとキツイよね?」
アリアですら、慣れるまでは吐き気に襲われると言っていた。
物理特化ジョブのダミアンにとっては、その比ではないだろう。
「汚えぞ、こんな真似!」
「これが僕なりの戦い方です」
ダミアンは、苦しそうに頭を抑えて座り込んでしまった。
慣れていない者が高濃度のマナを浴びると、激しい魔力酔いを引き起こす。
頭がぐわんぐわんと揺れ、地獄のような苦しみに襲われていることだろう。
「どうする? まだ続ける?」
「舐めんな!」
どうにか気合で起き上がり、よろよろと武器を構えるダミアン。
(意識を奪わないとだめか)
(それなら――!)
「マナ・オーバーフロー!」
僕はダミアンに勢いよくマナを注ぎ込む。
マナの過剰供給により、さらに強烈な魔力酔いを引き起こし、一気に意識を刈り取るのだ。
バタリ
すでに高濃度のマナフィールドで消耗していたダミアンは、耐えきれずアッサリと倒れ込んだ。
「し、勝者イシュア!」
呆然とした様子の審判の声。
おそるおそると言った様子で、勝者を宣告した。
「すげえ! あのダミアンが手も足も出ずに倒されたぞ!!」
「周囲の魔力濃度を高めて攻撃って、あり得ないだろう!」
「あんな戦い方見たことねえぞ!?」
やがて静まり返っていたのが嘘のように、一瞬遅れて大歓声が響き渡るのだった。
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