《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】
17.マナポーター、小動物のような少女にじーっと見つめられる
17.マナポーター、小動物のような少女にじーっと見つめられる
「ねえさん、それは横暴です! イシュアさんには、俺たちも目をつけてたのに……」
「言うな! ……私たちには、どうしてもイシュアさんが必要なのだ!」
勧誘合戦を鎮めてくれると思った剣聖・ディアナは、勇者パーティの一員。
キリッとした顔で宣言する彼女を見て、僕は死んだ目になった。
(あれ……?)
(あの子、ずっとこっちを見てるような?)
そうして気がつく。
こちらをめちゃくちゃガン見してくる、小さな少女の存在に。
ショートボブで、小動物のような少女だった。ギルドの扉の影から、こちらをじーっと覗いているのだが――丸見えだった。
(なんだろう……?)
気になる。
気になるけど、今は目の前にいる剣聖だ。
「ごめんなさい。申し訳ないけど、しばらくはアリアとふたりで活動するつもりなんです。どこのパーティでも、スカウトを受けるつもりはありません」
「そ、そうか……」
(大げさに落ち込む人だな!?)
この世の終わりのような顔で、肩を落とすディアナ。
さきほど見つけた少女も、同じように肩を落としていた。
シンクロする動きが、どこか微笑ましい。
別にディアナに悪い印象はない。
しばらくは気ごころの知れた者同士でパーティを組みたい、というだけの話だったが……
「すまないリリアン。私はイシュア様の勧誘という大任を、果たすことが出来そうにない……」
(ここまで落ち込まれると、いたたまれなくなるな……!)
ずーんという効果音の付きそうな様子で落ち込むディアナを見て、僕は思わずフォローの言葉を口にしていた。
「ディアナさんのことは信頼できると思ってる。だけど……勇者って言葉には、ろくな思い出がなくて――」
「はぅうっ!」
じーっとこちらを見つめる少女が、何故か涙目になって悲鳴を上げた。
それから慌てて口を抑えて、サッと扉の裏に隠れてしまう。
(な、なんだ!?)
(……偶然だよな?)
「リーダーである勇者に黙ってスカウトですか? 先輩は前パーティで、理解のないリーダーに苦労したんです」
「うちのリリアンはそんなことしない!」
アリアの言葉を力強く否定するディアナ。
なぜかこちらを覗き込む少女も、コクコクと頷いた。
「だいたい今回の勧誘だって――」
「勧誘だって……?」
「こほん。何でもないぞ……?」
ディアナは、リリアン(彼女のパーティのリーダーである勇者?)のことを信じ切っているのだろう。
互いを信じ合うパーティは貴重だ。
その信頼関係を、僕は少しだけ羨ましく思った。
「とにかく、そういうことなのでディアナさんの勧誘は受けられません。……ごめんなさい」
「こちらこそ……急な話で申し訳なかった」
ディアナさんには何の不満もない。
そのリーダーのことは知らないが、彼女が信じるのなら、リリアンという人は立派な勇者なのだろう。
ただ少しだけ、タイミングが噛み合わなかった――それだけのことだ。
「ごちそうさまでした。また騒ぎを起こしてしまって、すいませんでした」
謝る先は、こちらを般若のごとき表情で見る受付嬢。
決闘騒ぎに続いて大きな騒ぎを起こし、申し訳ないばかりだ。
「え? どうしてイシュアさんが謝るんですか?」
「いや、迷惑かけてますし……」
「イシュアさんは何も悪くありません。うちの冒険者たちが何度も迷惑をかけて、ほんとうに何とお詫びすれば」
「いえいえ。冒険者のノリに、うまく対応できなかった僕も悪いですから……」
「そう言って貰えると助かります。それに引き換えうちの連中は毎日飽きもせずにバカ騒ぎを繰り広げて――イシュアさんの爪の垢を煎じて飲んで欲しいぐらいです!」
「ほ、ほどほどにね……」
(受付嬢って大変な仕事だよね)
(……怒らせないように気をつけよう)
笑いながらも目だけはマジな受付嬢を見て、僕は密かに決心するのだった。
◆◇◆◇◆
一方、残された冒険者ギルドでは――
「うわ〜ん、どうしようディアナ〜!」
そんな泣き声が響き渡る。
声の主はギルドの入り口で様子を見守っていた少女、名はリリアン。
ディアナは、どうどうとリーダーのリリアンを宥めていた。
リリアンは勇者である。
それも魔王直属の四天王・イフリータを、ギリギリのところまで追い詰めた最上位の力を持つ勇者のひとりなのだ。
そんな世界の命運を背負って立つ少女は――
「嫌われちゃった〜。私、イシュアさんに嫌われちゃったよ〜!」
わんわんと大粒の涙を流していた。
「はあ……。リリアン、だから自分でスカウトに行けば良いと言ったのに」
「は、恥ずかしいよ。そんなこと、出来る訳ないじゃん!」
何故か生まれてすぐに勇者のジョブを取得してしまったリリアンは、故郷では「勇者」に相応しい完璧な生き様を見せて、期待を一心に旅立った。
旅立ったのだが……
「イシュアさんを前にしたら、恥ずかしくてしゃべれないよ〜!」
まるで別人みたいだよ! とディアナは驚きを隠せない。
ぴやーと慌ただしく叫ぶリリアンは、まさしく恋する少女そのものだ。
そこに勇者の威厳は――もはやない。
(た、たしかにイシュアさんは好青年だったけどさ)
連れていた少女を守るため、決闘も辞さない勇気。
それでいて気遣いも出来る――非の付けどころのない人間だった。
「やっぱり勧誘なら、リーダーが出向くのが筋ってもんだよ。そうじゃないと、本気度が伝わらないからね」
「わ、分かってるけど〜」
もじもじとうつむくリリアン。
「リリアン、おまえは可愛い。もっと自信を持て」
「ほんと? イシュアさんに並び立てる?」
「ああ。だから自信を持って……玉砕してこい?」
「うわ〜ん! やっぱり玉砕するんじゃ〜ん!」
(リリアンが、こんなにポンコツになってしまうなんて……分からないもんだなあ)
(故郷ではあれだけモテて告白されても、顔色ひとつ変えずにバッサリ切り捨ててたのに……)
使命のために、脇目も振らずに訓練に明け暮れた幼い日々。
あまりにストイックな姿に、心配もしたものだ。
そんな私にとって彼女の変化は、好ましいものに見えた。
「うう……私、どうすれば良い?」
「そうだな。イシュアさんが危険な目に遭わないために。彼がクエストを受けて向かう先に、こっそり付いて行くっていうのはどうだい?」
「さすがディアナ! そうするの〜!」
パーッと笑顔になるリリアン。
(やれやれ)
(出来ればこれが、リリアンにとって良い出合いになりますように)
ディアナはひそかに、リリアンの未来が幸福なものであることを祈るのだった。
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