11.【勇者SIDE】ギスギス勇者パーティ、無茶を咎められて仕方なくアクシスの村に向かう

「単純な剣術だけでも意外と戦えるッスね」

「魔導剣士なら半分は剣士。当たり前」


「耳が痛いッスね。今までは魔剣でゴリ押してただけ。魔法・剣術の両方が必要な魔導剣士の大変さが良く分かったッス」


(情けない。あんなのが魔導剣士と賢者の戦い方だとは……)



 俺は内心で吐き捨てる。

 ミーティアとリディルの戦い方は、魔力を使わない地道なもの。

 そんな無様をさらしておいて、2人とも楽しそうなのは何故なのか。



『聖剣よ、我が求めに従って――ぐああああぁぁぁ……』


 何度か聖剣を使おうとしたが、決まって鋭い頭痛に苛まれた。


 

「クソっ。どうなってるんだ……」

「だから魔力切れッスよ。後は地道に戦うしかないッス」


「ふざけるな、今まではもっと戦えただろう! 今さら魔力切れに襲われるなど、あってたまるか!!」

「今まではイシュア様の魔力供給のおかげッス」


「黙れ! その名を二度と口にするな!!」

「……もういいッス。邪魔せず黙ってれば何も言わないッスよ」


(その言い方はなんだ。俺は勇者に選ばれた男だぞ!)

(何故、そんな目で見られないといけない!?)



 帰ったら新たなメンバーを募集しよう。

 小生意気な奴ではなく、きちんと実力も伴った素直な人が良い。



「……なんッスか?」

「どうせ、何かろくでもないこと考えてる」


(といっても、こいつらを捨てるのも勿体ないか。見た目だけは好みだし)

(……どうしてもと頼むなら、置いておいてやるか)


 もはや現実逃避にも等しい思考。


 やがて待ちに待ったダンジョンの出口が見えてくる。

 俺たちは、命からがらAランクダンジョンから逃げ帰るのだった。




◆◇◆◇◆

 Aランクダンジョン攻略に失敗した俺は、ダンジョンから出るなり反省会を開いた。



(道中の敵は、ほとんど俺が倒した)

(となればレベルは間違いなく足りている――原因はパーティメンバーだ!) 


「今日のダンジョン攻略の失敗は貴様たちのせいだ。これ以上、足を引っ張ることは許さんぞ!」

「はあ!? 戦う必要もない敵に突っ込んで行って、真っ先に魔力切れで倒れたのはアランじゃないッスか!」


 生意気にも言い返してくる魔導剣士のミーティア。


「黙れ! ……あれは、魔力切れではない。ちょっとタイミング悪く頭痛に襲われただけだ!」


 あれはちょっとした偶然だ。

 あの落ちこぼれの言うことが、真実であるはずがない。



「パーティを全滅させかけて、まだ分からないッスか!?」

「やめよ、ミーティア。こんな奴、相手にするだけ無駄」


「待て! 貴様らには、言いたいことが山ほど――!」

「……後にして。わたしもミーティアも疲れてる」

 

 リディルは、ミーティアを連れてテントに向かう。

 俺のことなど眼中にないと言わんばかり。


(クソッ。なんだって言うんだよ)

(優秀な仲間が加入したら、真っ先にクビにしてやるからな!)


 こんなところで足踏みしていられない。

 明日には必ずAランクダンジョンを攻略してみせる――そんな決意とともに、俺も遅れて眠りにつくのだった。




◆◇◆◇◆ 


「今日こそダンジョン攻略を成功させるぞ!」

「自殺志願者なの? 2日連続でダンジョンとか、さすがに無理」


 翌日の朝。

 勢いよく宣言した俺に冷や水を浴びせたのは、昨日から機嫌が悪いリディルだった。



「黙れ! 勇者パーティの立場を失いたいのか?」


 カッとなって叫んでしまい、凍り付いた空気に気付く。

 眠そうなリディルは、みるみるうちに無表情になった。



「まだ言う? わたし、イシュア様の居ないこのパーティに未練ないよ」

「――なんだと!?」


「命がけで助けたミーティアにお礼の1つも無し。何様のつもりなの?」



 溜まっていた不満が噴出したのだろう。

 ミーティアの怒りが炎だとすれば、この少女の怒りは冷たい氷。



「ふん。杖を振り回す賢者など、こっちから願い下げだ! そんなに言うなら――」

「あなたに付いていったら、いずれは命を落とす。あなたは勇者に相応しくない」


 リディルの目は、本気も本気。

 あからさまなパーティ崩壊の始まりであった。



(いずれ切り捨てるつもりだったが……今はまずい。まずいぞ!)


 もともとは5人も居た勇者パーティだ。

 ここでリディルが抜けてしまえば残りは2人。

 まるで大きなトラブルがあったようではないか。 




「はいはい! どっちも冷静になるッス。ウチもしっかり休んで体制を整えるのに賛成ッスね」

「……まったく。ミーティアは優し過ぎる」


 幸いにしてミーティアがあいだに入ることで事なきを得た。


 しかしダンジョンに再挑戦はせず、近くの村で休憩を取る方向に話が進んでいる。

 その判断を覆すだけの信頼を、俺は勝ち取っていないのだ。



「仕方ない。ここから近くの村と言えば――アクシスの村か」

「ヒューガ・ナッツが特産品らしいッスね。楽しみッス!」


「ふむ、勇者パーティが立ち寄るとなれば、きっと様々なものが献上される。ど田舎であまり期待できんがな」

「……はあ。そうッスね」


 やる気のない相槌。

 リディルは、興味なさそうにぽけーっと雲を眺めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る