12.【勇者SIDE】アクシスの村で偽勇者と罵られて追い出される

「ようこそ旅の方。アクシスの村にようこそ」


 アクシスの村に到着した。

 俺たちを出迎えたのは、恰幅の良いおばちゃんだった。



「俺はアラン、勇者をやっている。ダンジョン攻略に苦戦していてな。宿を探しているところだ」

「あれまあ。また勇者様かい?」


 おばちゃんが、驚きの表情を浮かべた。



「またってことは、ここを訪れた勇者が他にいるのか?」

「ああ。あんたも知ってるのかい? 勇者・イシュア様――礼儀正しくて謙虚で、本当に素晴らしいお方だったよ」


(イシュア……だと!?)


 思わず耳を疑った。



「はあ!? イシュアの野郎が勇者とか、なんの冗談だ」

「む、なんだいその言い方は。あのお方は、見ず知らずの行商人を無償で助けて、村が抱える長年の問題もあっさり解決した――まさしく英雄のような方だよ」


 あの落ちこぼれに、そんな芸当は不可能だろう。

 名前だけ一致している別人か?



「一緒に連れていた聖女――アリアちゃんも、すごい可愛らしい女の子でさ。お似合いだったよ。聖女様の祈祷まで授かって、一生分の奇跡を目の当たりにしたよ!」


(アリアにイシュア。間違いねえ!)

(追放した無能じゃねえか!)


 何がお似合いだ。

 お似合いと言うなら、勇者である俺の方だろう。



「イシュアの野郎が勇者だなんて、そんなの間違いだ。あいつは俺のパーティでも落ちこぼれの能無しで――」

「おい、あんた! 私たちの村の英雄を悪く言おうっていうのかい?」


 俺が思わず否定すると、村人は目を尖らせてこちらを睨んできた。

 何故、そんな目をされないといけないのか。

 俺の言うことは、なにも間違っていないのに。



「イシュアは悪質な詐欺師だ。魔力を供給しているとホラばかり吹き――俺に追放された能無しだ!!」

「なっ、アラン! あんた、まさかイシュア様を……!?」


 しまったと思った時には、手遅れだった。

 カッとなって口に出してしまった真実を、今さら隠すことは出来ない。



「もう良い。あんたを相手にしても仕方ないからな。一番良い宿屋に案内してくれ」

「そこの道を真っすぐ進みな。一晩泊まったら、すぐに出ていくこったね」


「こんな寂れた村に用はない。そうさせて貰おう」


 これ以上は話すこともない、そう言わんばかりにおばちゃんは立ち去ろうとした。


「ついでに道具屋の魔力ポーションを、いくつか融通してもらいたい。ダンジョン攻略に必要だ」

「見たところ、あまり金持ちには見えないけど払えるのかい?」


「金を取るつもりか? 勇者である俺に村人が協力するのは当然だろう?」

「アラン、なに馬鹿言ってるッスか!!」


 ミーティアが、我慢できないとばかりに口を挟んできた。



「黙れ、勇者パーティの権利だろう。行使して何の問題がある?」

「特別事態ならそうッスけど今は……! ああもう、どうしてアランはいつも!」


「勇者様、人が集まってくる」


 リディルが、辺りを警戒するように言った。

 彼女の言うとおり、武装した村人がこちらに向かって集まってきていた。



「ボロを出したね。ほんものの勇者さまが、そんな強引な手を取るはずがない! あんたは勇者を騙って物品を巻き上げる偽勇者だね!」

「ふざけるな! 俺たちは正真正銘の勇者パーティ。偽物はイシュアの野郎だ!」


「おだまり! たとえ本物だとしても、あんたの事は信じられないね!」

「そうだそうだ! イシュア様は、魔力供給の代金すらいらないと言って下さった。あんたのような、ハナからこちらを見下してる奴とは違うんだよ!」


 村人たちの怒りは凄まじかった。



「偽物は出ていけ!」

「魔力ポーションを無償で寄こせとか、ふざけんじゃねえ!」

「イシュア様を悪く言う奴は許さねえ!」


 村人が総出で出てきて、口々にこちらを罵った。

 更には何かを投げつけてくる――たまご、ウシのフン、さらには拳大の石まで。



「アラン、ここまで怒らせちゃったら泊まるのも無理ッス。……イシュア様のことは、ウチたちも話を聞かせて欲しいッス」

「自業自得」


(くそおおお!)


 こうして俺たちは、アクシスの村を追い出された。

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