13.【勇者SIDE】勇者パーティ崩壊、メンバー全員が勇者を見限る

「アラン、イシュア様を追放したってどういうことッスか!」


 村を出るなり、ミーティアが怒鳴りつけた。

 俺の正面には、怒りを隠そうともしない少女がふたり。



「役立たずの無能を置いておいても、仕方あるまい。勇者パーティには相応しくないクズを追放しただけだ」

「呆れたッス。ウチたちにはイシュアは逃げ出したって嘘を付いたッスね」


「良かった。わたしたちは、イシュア様に見捨てられた訳じゃない」

「普通に考えれば、愛想付かされてるッスよ……」


 ミーティアが言うと、リディルは力なくうなだれた。



「アラン、これからどうするッスか? このままAランクダンジョンにリトライしても結果は見えてるッスよ」

「うるさいな。それを今から考えるんだろう!」


 思わず怒鳴りつけると、ミーティアは鼻白んだように黙り込んだ。



(余計な口出しをしないで、黙って俺の言うことを聞けば良いんだ。少しばかり可愛いからって、調子に乗るのなよ?)


 それに引き換え、アリアは良かった。

 聖女に相応しい微笑は、遠くから眺めているだけでも心が洗われた。

 結局、あの笑みはイシュア以外に向けられることは無かったが、いつか俺こそが隣にふさわしいと分かる日が来るだろう。



「勇者様、素直に謝ってイシュア様に戻って――」

「ふざけるな!! なぜ俺があんな野郎に謝らないといけないんだ!」


 控えめなリディルの言葉は、俺の神経を逆撫でした。


「ミーティア、リディル。どんな手段を使っても構わん。明日までに魔力回復ポーションを集めて――」



「ここまでッスね」

「そうだね」


 俺の言葉を遮るようにして。

 ふたりの少女は、パーティ証をポケットから取り出した。

 勇者パーティの一員という特権階級であることを示す、誰もが羨むライセンス。


「……? 何のつもりだ?」


「お返しするッス」

「勇者、あなたにはついて行けない」


 ミーティアとリディルは、カードをあっさりと突っ返した。

 勇者パーティの地位も俺のことも、まるで興味ないと言わんばかりに。



「ま、待て。勇者パーティの一員だぞ? 絶対に後悔するぞ!」


「ウチは別に、死ぬのは怖くないッス。それでも――命を捧げる対象ぐらいは、自分で決めるッスよ」

「あなたはリーダーに相応しくない」


 キッパリと言い切られた。



「すべての負担をイシュア様に押し付けた。イシュア様なしでは戦えないパーティなんて、元々の構造からして歪んでたんだよ」

「それなのに何も知らなかったなんて。あろうことかリーダーのアランが、そんな愚かな行為に踏み切ってたなんて――本当に失望したッスよ」


 そう言い残し、ミーティアとリディルは去っていった。

 二度と振り返ることはなかった。



(ふざけるな、俺は勇者だぞ……! 勇者パーティだぞ!?)

(なんでこんなことになったんだ!!)


 残された俺は、地団駄を踏みながらも引き止める術を持たなかった。

 イシュアへの憎しみが心に広がるが――


「待てよ?」


 思いつく。

 たしかにイシュアのことは追放した。

 もう一度だけ、パーティに迎え入れてやると言うのはどうだろうか。

 そうすれば、アリアや出ていったメンバーたちも戻ってくるだろう。



(落ちこぼれを、再び勇者パーティで雇ってやるんだ)

(泣いて喜ぶに違いない!)


 そもそもイシュアは落ちこぼれではない。

 イシュアの方は既に勇者パーティにまったく未練も無ければ、そもそも興味すらないのだが――そんなことをアランは知らなかったのだ。



「勇者スキル『パーティ・ディスカバリ』。居場所は――新人の街・ノービッシュか」


 アリアの居場所を突き止める。

 傍にはイシュアも居るはずだ。



「俺はこんなところでは終われない!」


 そうして勇者は、イシュアを追って新人の街・ノービッシュへと向かうのだった。




* * *


 一方、そのころ。


「今からでもイシュア様と合流する。たまたま取得してた探知スキルと、たまたま持ってた髪の毛を使って」

「奇遇ッスね! ウチも探知スキルと――偶然にも! イシュア様のハンカチがここに!」


「みー。偶然……?」

「偶然ッスよ」


「そ、そう」


 ミーティアとリディルも探知スキルを使っていた。

 そうして行き先を探り――



「行き先は、新人の街・ノービッシュみたいッスね!」


 イシュア、あっさりと捕捉される!



 そうして少女2人もノービッシュに向かう。

 尊敬してやまないイシュアと合流するために。


「イシュア様の魔力が恋しい。またいっぱいなでなでして欲しい……」

「抜け駆けはNGッス!」


「うみゅう、いつもミーティアばっかり。ずるい」

「う、ウチは魔剣のメンテをしてもらってるだけッス! 何もやましいところはないッス!」


 そんな軽口を叩き合いながら。

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