25.【勇者SIDE】勇者、国王から成果の報告を求められて焦りまくる

 時は少しだけさかのぼる。

 パーティメンバー全員に逃げられた俺は、何故か国王からの呼び出しを受けていた。


「ま、まずいぞ……?」


 勇者というのは、世界の希望を背負って立つものだ。

 国民を安心させるための材料が欲しい。

 そんな理由から、定期的な成果の報告を求められるのだ。


 世界各地の勇者の中には、目覚ましい戦果を挙げている者もいる。

 最近ではリリアン――魔王直属の四天王の1人に深手を与えて追い払った英雄だ、が特に有名だろうか。

 城を上げての大々的なパーティは、記憶に新しい。



(俺だってメンバーが優秀なら、もっと大きな成果を上げて見せる)

(この短時間で何をしろと言うんだ……)


 少しだけレベルは上がったが、言ってみればそれだけだ。

 有名な賞金首モンスターを討伐した訳ではない。

 それどころか、目標にしていたAランクダンジョンの攻略は大失敗だ。



(パーティメンバー全員に逃げられた、とバレたら一巻の終わりだぞ!)


 リーダーとして不適格、勇者の資格を剝奪はくだつされかねない。



 本来であれば、俺は勇者として華々しい活躍をするはずだったのだ。

 今さら1からスタートなど認められるものか。



 そうして俺は、呼び出しに従い謁見の間を訪れた。



◆◇◆◇◆


「顔を上げよ、勇者アラン」


 厳めしい顔をした初老のおじさんが、ひざまずく俺に声をかけた。

 衰えぬ眼光を持つこの男こそ、一国を背負って立つ国王であった。


「さっそく戦果を報告してくれたまえ」

「そ、それが……。少しばかりAランクダンジョンの攻略に手こずっておりまして。次回こそは良い報告を……!」


「その言葉は聞き飽きたわ。何度、同じ言葉を繰り返すつもりだ! 来週にはSランクダンジョンも攻略してくると、最初はそう言っていたではないか!」

「も、申し訳ございません」


 ギリリ、と歯嚙みしながら跪く。

 攻略が遅れたのは、メンバーに臆病者が居たせいだ。


(だいたい今回の失敗も俺のせいではない)

(俺の聖剣は、モンスターを一撃で倒していたんだ!!)


「もう良い、イシュアはどこだ? 彼の方がよほど信頼できる。いつになったら攻略が可能か、本当の見通しが聞きたい」

「その――イシュアの奴は体調を崩しておりまして」


(クソがっ!)

(何故、そこで名前が出てくるのがイシュアの野郎なんだ!)


「な、何だと!? 大丈夫なのか……?」

「アリアが付いています。大事を取って休んでいるだけです。大きな問題はありません」


 大慌てで立ち上がった国王。

 俺はさらなるウソを重ねるしかなかった。




 このまま誤魔化し切れば良い。

 そう考えていた俺の意表を突くように、国王はこんなことを言い始めた。


「勇者、アラン。貴様に1つ依頼がある」

「何なりとお申し付け下さい、陛下」


 こちらを探る話題が終わり、俺はホッとした。

 しかし国王の話を聞くにつれ、事態の深刻さに思わず表情が曇っていく。


「原因不明の異常事態!? エルフの里の周辺から、やたらと強力なモンスターが流れ込んで来ている……?」

「シッ! 声が大きいぞ!」

 

 国王は声を潜めて状況を説明した。


 エルフの里の周辺で、モンスターが狂暴化しているらしい。

 ランク以上の強さを持つ「昇格」したモンスターも多数見つかり、周辺では既に膨大な被害が出始めているらしい。

 

「お、大事おおごとではありませんか。冒険者ギルドにお触れは出さないのですか!?」

「許可のない者は近づかないように、すぐにでも書状を出すつもりだ。原因も分からず頭を抱えているよ」


 そう言いながら、国王は真っ白になったヒゲを弄った。



「偶然にも勇者リリアンが、その地のクエストを受注して向かってしまってな。さすがのリリアン嬢でも、何も知らずに向かっては危険極まりない。信頼出来る者をサポートとして送り込みたいのだが……」


(――チャンスだな!)


 俺は内心でほくそ笑む。



(新進気鋭のリリアンですら、どうにも出来ないエルフの里の問題!)

(そこに俺が颯爽と駆けつけて、あっという間に解決したならば!)


 パーティメンバー全員に逃げられた、という失態も帳消しにできるほどの戦果となるだろう。


 それどころではない。

 あっという間に、国で一番有名な勇者の仲間入りもあり得る。


(くっくっく。運が向いてきやがったぜ!)



「その一件、どうか勇者アランにおまかせ下さい。すぐにでも解決してみせましょう」

「……この件は、イシュア殿とよく相談して方針を決めてくれ。くれぐれも先走るでないぞ?」


 心配そうな国王の言葉を、俺は話半分に聞き流す。



「分かっております。すべて私にお任せください」


 そうして俺は、エルフの里に向かうことになった。

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