9.【勇者SIDE】傲慢勇者はパーティの険悪な空気をものともせずAランクダンジョンの攻略に乗り出す

 俺は頭を痛めていた。


 聖女としてパーティを支えたアリアは、いくら待っても戻ってこなかった。

 イシュアのような落ちこぼれはともかく、聖女を欠いたのは戦力としては大問題。



(しかし……ここでAランクダンジョン攻略を諦めると士気が下がりすぎるよな)


 勇者は民衆の期待を背負っている。

 いつまでも同じところに留まっている訳には行かなかった。



 勇者パーティの空気は険悪だった。

 イシュアが居ないことを知るや、賢者――リディルはやる気なさそうに二度寝を決め込んだ。


 そして俺は今、魔導剣士の少女――ミーティアに問い詰められている。


「ちょっと、聞いてるッスか?」

「なんだよ、文句ばかり言いやがって」


「ウチは無駄死にはごめんッス。イシュア様を欠いた状態でAランクダンジョンは無理ッスよ」

「それを判断するのは貴様ではない。リーダーの俺だ」


 ミーティアが、魔剣の手入れをしながら俺に言う。


「みー、わたしもそう思う。アリアも居ないから、回復も不安……」

「そこは賢者である貴様がどうにかしろ!」


 否定的な意見ばかりが帰ってきて苛立ちが募る。

 イシュアの言葉なら二つ返事でうなずくのに。



「どうしても行くなら、せめて魔力ポーションを買いだめるべきッス」

「そんな無駄な金を使えるか!!」


「イシュア様が居ない今、魔力ポーションは命綱ッス。有り金すべて使ってでも個数を揃えるべきッスよ」

「黙れ! 不要だと言ったら不要だ! リーダーの言うことは絶対だ。勇者パーティの地位を失いたいのか!」


 カッと頭に血が上っていた。



「アラン、どうしたッスか。そんな横暴を口にするほど愚かではなかったはずッス」

「うみゅう。勇者様、すごく横暴……」


「黙れ!! 言い訳は許さん。5分で準備しろ」


 上手く行かない現実への怒りをメンバーに叩きつける。


 思わぬトラブルで足を取られたが、こんなところで留まってはいられない。

 俺は大陸の英雄として、世界に名をはせる男なのだ。




◆◇◆◇◆


「さすがはAランクダンジョンだ。経験値の入りも段違いだな!」


 俺は聖剣を振るいながら、喝采を上げていた。

 出てくるモンスターは、聖剣を使えば跡形もなく消し飛んだ。

 これまでと何ら変わらないのに、経験値効率はこれまでとは段違いなのだ。

 笑いが止まらなかった。



「アラン、そろそろ限界ッス。これ以上は、帰りの魔力が持たないッスよ」


 そんなハイテンションに水を指すものが居た。

 ミーティアは何故か魔剣をしまい、短剣を手に戦っていた。


「うみゅう、わたしもガス欠。やっぱりイシュア様が居ないと到底もたない」


 リディルも杖を手にして、訴えかけるように俺に言う。

 これまで起きたこともない魔力切れを恐れるなど、あまりにも勇者パーティとして情けない。



「貴様ら、たるんでるぞ! 勇者パーティの資格を剝奪されたいのか?」


 そう恫喝すると、彼女たちは渋々と武器を手に取った。

 その目には隠し切れない不満が覗く。



(クソっ)


 邪魔者を追放して、これからはバラ色の未来が来ると思っていたのに。

 どうしてこんな葬式のような空気になるのか。


「不安がる必要など、何もないだろう? 見よ、このあふれんばかりの聖剣の輝きを!」

「はいはい、さすがは勇者様ッス。でもそれは魔力あってこそッスよ」


(このダンジョンで、また1つレベルが上がって魔力上限も上がっている)

(魔力不足など、そうそう起きる筈がないではないか)


 賢者の放つ魔法は、敵を一撃で倒している。

 魔導剣士も魔剣を使って、サクサクと敵を斬り捨てていた。

 何も変わらない。攻略は順調そのものだ。



(怪我すらしない。これなら聖女すら、もはや不要!)


 そんな傲慢なことを考えながら突き進み――



 ダンジョンの探索を始めて1時間。

 ついに異変が訪れた。

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