8.マナポーター、一瞬で機材にマナをチャージして村の救世主となる

 目の前に並べられているのは、見るからにボロボロの農業用の機材たち。


「酷いもんでしょう? 整備士を雇うお金もなく、どうにか長年騙し騙しやって来ましたが――」


 そう説明するのは、この機材を使っていた村の農家のおじさんだった。

 我が子を慈しむような眼差しは、古くなった機材への思い入れを感じさせた。



(それほど状態も悪くないし、マナを注いでやるだけでも大丈夫なんじゃないかな?)

 


『フル・チャージ!』


 体内の魔力をモノに注ぐのも、僕にとっては慣れた行為だ。


 勇者パーティでは、魔導戦士の魔剣のメンテナンスも請け負っていた。

 体から湧き出してくる無限にも等しい魔力を、適した形でそれぞれの機材に流し込む。汚れは反発する魔力をぶつけて浄化する。



「どうでしょうか? メンテナンス不足で錆びついていたので、ちょっと強引に魔力で洗い流してみました」


 ピカーンと発光し、次の瞬間にはピカピカに磨き上げられた機材が目の前に現れた。

 一瞬のことに村人たちは呆然と目をまたたく。



「な――! 動力源がいかれて諦めてたやつも復活してないか!?」

「通す魔力の属性バランス次第では、まだまだ現役ですよ」


 僕は集まった人々に説明する。


「痛んでた魔法陣に手を入れたので、当分は持ちます。応急手当なので、もちろん専門の技師に見てもらうに越したことはないと思いますが……」


 ひとしごと終え、充実感に汗をぬぐう。

 経験のない仕事だったが、マナポーターの能力はこんな場面でも使えるのか。


 集まった村人たちは、感動したような目でこちらを見つめていた。



「ど、どうしたんですか。僕はただ魔力を注いだだけですよ」

「劣化した術式の復元なんて、一流技師の仕事だろう!? それだけでなく、これほどの機材を魔力で満たすなんて……。勇者様ともなるとやっぱり違うんだな!」


「そうです! これが勇者様の力ですっ!」


 アリアがドヤッと呟いた。

 しかし村人からの視線が集まると、再びぴゅーんと僕の後ろに隠れてしまう。


「いやだから勇者なんかじゃ――」


(この誤解、絶対にろくなことにならないよね!?)



 村人たちのアリアへの眼差しはとても柔らかい。

 そして……何故か僕は、アリアを守る頼もしい勇者と認識されてしまった。

 ただのマナポーターなのに。



 ひとりの老人が僕たちの方に歩いてくると、深々と頭を下げた。


「これほどの技を見せつけられては、勇者と認めざるを得ません! マナ不足と農業機材の老朽化。一瞬で村を救っていただいて感謝しかありません!」


 この村の村長だと名乗った老人は、感動のままの熱く語る。


「勇者だとかたって甘い汁を吸おうという輩は山ほど見てきましたした。やはり本物の勇者様ともなると、心の清らかさが違いますね!」

「ちょっと、おじいちゃん。偽物だと疑ったみたいな発言、勇者様に失礼でしょう!?」


「そうですね。あなた様は本物の勇者です」


(違うってさっきから言ってるのに!)

(アリア~!?)


 この騒動の発端となったアリアを見ると、彼女はとても満足げな笑みと共に親指を立てていた。

 ……グーじゃないんだよ、グーじゃ。




◆◇◆◇◆


 その日はそのまま、勇者を歓迎するためのパーティが開かれた。

 魔力を供給した機材を使って精製されたヒューガ・ナッツに、特産品の新鮮な野菜たちが振る舞われる。


「先輩先輩! これも美味しいですよ!」

「アリア、それお酒〜!」


「大丈夫ですよう、先輩〜? 酔いなんてヒーリングで一撃ですから〜♪」


 果実酒はジュースだ。

 ごくごく飲めて――気がついたら酔いが回っている危険物なのだ。


「もう、本人が酔ってたらヒーリングもなにもないよ……」


(学院の後輩と、こうしてふたりで旅をすることになるとはね……)


 ジト目の僕を見て、アリアは楽しそうに笑った。

 元・勇者パーティの不思議な縁。

 ひとりっきりでの1からのスタートも覚悟したけれど

 


「なんだか不思議な縁ですね。学園だけでなくパーティ配属も同じ。追放されても、こうして一緒に旅をしてる。アリアと会えて良かったです」

「なっ、先輩!?」


 アリアは驚いて目をパチクリとしたが、



「えへへ、私もです」

 

 すぐに幸せそうに微笑むのだった。




◆◇◆◇◆


「またいつでも来てくださいね」

「アクシスの村は、いつでも勇者・イシュア様の訪問を待っています!」


 そして翌日の朝。

 そんな名残惜しそうな声に見送られて、僕たちはアクシスの村を後にした。

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