6.マナポーター、勇者だと勘違いされてめちゃくちゃ感謝される

 行商人がやってきて、こちらに向かってペコペコと頭を下げた。


「本当にありがとうございます! 一環の終わりだと思っていました」

「気にしないで下さい。困ったときはお互い様ですから」


 聖女にふさわしい慈悲深い笑みを浮かべる。


(すっかり頼もしくなっちゃって。学院にいた時が嘘みたいだよ……)


 後輩の成長は素直に嬉しい。

 聖女というジョブは、聖属性魔法・回復魔法を得意とする最高レアリティのものだ。取得条件には誰かを安心させる包容力? ――聖女らしさなんて曖昧なものまで求められたらしい。


 極端に人見知りだったアリアが、一番苦戦した部分だ。

 親しい人相手にはとことん甘えるが、初対面の人が相手だと緊張で強張ってしまう。初対面の年上の行商人を相手に堂々と向き合えるだけでも、かなり成長しているのだ。



「規格外の高位魔法でした。相当無茶したんじゃないですか?」

「大丈夫です。魔力はすべて先輩に負担して貰いましたから」


「いやいや、冗談きついよ。魔力譲渡であの規模の魔法とか不可能だろう?」

「先輩の手にかかれば、それぐらい朝飯前です!」


 まるで我が事のようにアリアは自慢げだ。


「なあ本当なのか? 魔力譲渡による魔法発動なんて、初級魔法が限界だろう?」

「う~ん。魔導隊の魔力を丸ごと賄うとかだと、恥ずかしながら初級魔法が限界かもしれません。複雑な魔法を同時に理解するには限界ありますし」


「はああ!? 魔導隊を丸ごとって――この兄ちゃんは、大真面目な顔で何の冗談を言ってるんだ?」


 目を丸くする行商人。

 何をそんなに驚いているのだろう?



「先ほどの見事な魔法。お嬢さんの方も、もしかしてご高名な魔法使いなのか?」

「申し遅れました、私はアリアと申します。これでも聖女をやっています」


 アリアは優雅にお辞儀をした。

 貴族顔負けの美しい所作。


「ま、まさか聖女様だったなんて。どうしてこのようなところに?」

「これでも勇者パーティの一員ですから」


「ということは、こちらのお方は勇者様ですか!?」

「いいえ、違いますよ。僕はただのマナポーターで――」


(……ってアリアは、何で当たり前のような顔で頷いてるの!?)


 僕が勇者は、どう考えても無理があるだろうに。


「いえいえ、謙遜はいりません。聖女様と勇者様――実にお似合いです! 私は今日、奇跡を目にしました!」

「いや……だから――」


「私と先輩がお似合い! えへへ」


 アリアはなぜか照れたようにガッツポーズ。


(ちゃんと否定して!?)


「命まで助けていただき、あれほどの奇跡を見せていただきました。少ないですが今回の謝礼を――」

「ええ? そ、そんなに受け取れませんよ! たまたま通りかかっただけです」


 行商人は金貨を渡そうとしてくる。

 僕は慌てて固辞した。

 

「そ、それならせめて魔力回復ポーションのお代だけでも」

「魔力ポーションなんて使ったこともないです。本当に、気持ちだけで十分ですから……」


「先輩――勇者様は、無限の魔力を持ってるんです。私は聖女としてはヘッポコですから、いつも助けられているんです」

「はあ……。勇者様っていうのは、すごいんだなあ……」


(アリアがへっぽこ聖女なら、世の中の聖女はみんなポンコツだよ!)

(ああああ、行商人がすっかり僕を勇者だと信じちゃってる……。そんなに尊敬の眼差しで見られても、罪悪感しかないよ!?)



「いや、だから僕は勇者なんかじゃ――」

「謙遜はいらない。聖女様の言う無限の魔力――とびっきりの能力じゃないか! 勇者様は固有のユニークスキルを持っているらしいけど、あなたの能力は中でも飛びっきりのものだ」

「ええっと……」


 これはいけない。

 完全に僕たちが勇者パーティだという前提で話が進んでいる。



「これからアクシスの村に帰るところなんだ。是非ともそこで、お礼をさせて欲しい」


「先輩、どうしますか?」

「当てのない旅だからね。お世話になりましょう」


(道中で誤解を解かなければならない!)


 行商人の熱意に押される形で、僕たちは近くの村に向かうことになった。

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