第21話 小野江賢人

 —午前10:30—

 市内を三時間走り回り、昭仁あきひとを捜し続けるなみ。もちろん、警察署にも行って聞いてみたが情報を得ることはなかった。捜索願を提出して、なみは再び走り出した。


 プルルルル…。

 なみの携帯に着信音が鳴る。母の風浪ふなみからである。電話に出ると、昭仁あきひとが見つかったという報告であった。

 

「えっ⁉︎ おったって!」


「それが、賢人けんとさんが運んできてくれたやんや」


賢人けんとさんが? わかった。ウチも戻るから」


 なみは急いで帰宅すると、昭仁あきひと賢人けんとがいる部屋へと向かった。


 ガラッ—!

 部屋の中で、賢人けんとは茶を飲んでくつろいでいた。横では昭仁あきひとが静かに眠っていた。


「やぁ! なみ、久しぶりだね!」


「ご、ご無沙汰しとります」


 なみは少々怯えるように挨拶を返した。


「あはは。相変わらず嫌われてるなぁ!」


小野江このえ賢人けんと

 学史さとしの息子で、医学者である。

 年齢は27歳で、怪異師としての腕は折り紙付きである。さとしとは違い、怪異師同士の揉め事には関わりたくはなく、他家の怪異師に協力的である。


「別に嫌ってるワケやないけど。小野江このえ家とは距離を置けって…言われとーから…どないしたらええんかわからんだけです」


「いいよ。いいよ。変に気を遣わなくても。父の態度も良いもんじゃないからね。仕方ないと思ってるよ」


「あの…それで…見つけてくれはった人は?」


「あぁ、彼の事かい? 道で倒れているのを見つけてね。意識を失っているだけで、命に別状はなかったよ」


 その言葉を聞いて、なみは胸を撫で下ろすように安堵した。

 

「で…でも、何でここへ連れてきはたん?」


「何でって? 彼は怪異師なんだろ? 知り合いじゃなかったの?」


「えっ? この人怪異師なん? そんなんウチ知らんで?」


「あれ、知らない人? ただ彼からは特別な力が見えるから怪異師かと。ただ僕も見たいことない子だから、安倍家へ連れて行こうと思ったけど、僕たち嫌われてるだろ。一尉いちじょう家は不在だったし、九條くじょう家しか残ってないからね」


「そうなんや」


「それで、何にも知らないなみが彼を捜していた理由は?」


 なみは、今までにあったことを話して昭仁あきひとの面倒を見ることになった経緯を説明した。


「なるほどね。大嶽丸おおたけまるは本当に復活してたのか。その現場にいたのが彼で春晶はるあきさんの知り合いというわけね」


 賢人けんと昭仁あきひとの顔をジッと見つめていた。賢人けんとの目には何か見えていた。昭仁あきひとが一般人でないことに確信を持っていた。


「あと…なんで賢人けんとさんが、大嶽丸おおたけまるのこと知ってはんの?」


「何にも聞いてないんだね。父さんから事情は聞いてるからね。手伝いに行けって言われて。僕もたまたま奈良に出張してたのもあるし、これは大問題でもあるから、是非手伝わせてもらうよ」

 

「全然聞かされてへん。言うてくれても良かったのに」


「とにかく大嶽丸おおたけまるの事は春晶はるあきおじさんたちが帰って来てからで。今日はゆっくりさせてもらうよ」


「う…うん。わかったわ」


「あっ! なぎの様子も見たけど、大丈夫そうだよ。かなりのダメージを受けたみたいだけど、風浪ふなみおばさんの術式はさすがと言ったところだよ」


 なみは無言で頭を下げて部屋を出た。


賢人けんとさん、すごくええ人。なのに小野江このえ家と関わったらアカンって何でねんやろ?」


 疑問に思いながら、なみは自分の部屋へと戻ろうとした時に、チャイムが鳴る。

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