第一章【第三部 怪異師への決意】

第19話 五摂家筆頭・小野江家

 東京都。

 現在の日本の首都。

 超高速ビルに色鮮やかなネオンが光る街でありながら、古き時代を感じられる寺院も数多くある、古き歴史と未来を融合したような場所である。


『東京都千代田区千代田1—1』

 ここは皇居。天皇の住まいがある。

 幕府軍は明治新政府軍との戦いに敗れ、江戸城を無血開城し、京都御所に住んでいた明治天皇が東京に移る際に皇居と治定した。

 それは明治元年(1868年)の出来事であり、その日から『東京』と『皇居』が誕生した。


 時継ときつぐなみとの通話を切ると不安そうな表情をしていた。自分の子どもたちが、大嶽丸おおたけまると対峙して命があっただけでもよかったが、万が一間違えば死んでいたかもしれない。

 一方の春晶はるあきは、昭仁あきひとの心配をしていた。


「いやー。これは大変ですね」


 物陰から一人の中年男性が姿を現す。

 その身体はスーツ姿からでもわかるぐらいに引き締まった大きな肉体をしている。春晶はるあきは呆れた表情をしながら、皮肉な発言をした。


「相変わらずの地獄耳だね。小野江このえ学史さとし議員」


小野江このえ学史さとし

 小野江このえ家の現当主にして国会議員であり、次期総理大臣の最有力候補である。彼は研ぎ澄まされた霊力を持ち、霊力によって身体能力や動体視力が異常な発達を遂げ、化物染みた存在である。故に霊力無しでも強い。

 

 小野江このえ家は五摂家筆頭であり、安倍家の右腕として活躍した怪異師の一族である。その実力は安倍家と同等、もしくはそれ以上の力を持っていると噂されている。

 相伝術式では心理千眼術と呼ばれる術式を持っており、相手の心を読みことでき、どんな攻撃にも事前に対応ができる。その優れた能力から天皇の護衛を代々務めている。


「地獄耳だなんて酷いこと言いますね。声が大きいんですよ。私の耳に何でも入ってきてしまうのはご存知のはずよ。それにその呼び名はやめてください。我々の師匠なのですから、春晶はるあき先生」


 嫌みに聞こえるように、互いの名前を呼び合う。年齢でいうと学史さとしの方が約一回り上であるが、師弟関係から敬語を使っている。

 実は言うと小野江このえ家は、他の怪異師とは少し違う。独自に行動することが許されており、安倍家やその他の五摂家と連携することはない。また近衛師団このえしだんと呼ばれる怪異師集団を持ち合わせている。これらは全て天皇から許可を得てのものである。故に春晶はるあきですら手に負えない状態なのである。


「なら話す必要はないね。それとも何か用事でもあるのかい?」


「厳しいねぇ。私を除け者扱いにして。同じ怪異師というのに」


「何を言うとんねん! 勝手なことばっかりしよてからに。上手いこと出来てへんのはわかっとるやろ!」


「まぁまぁ、そんなに怒らなくても。我々も天皇陛下を御守りする責務。時継ときつぐもその辺は理解してもらわないと。今回は大嶽丸おおたけまるが相手なら息子を派遣しますよ」


賢人けんと君を? 何を考えてる?」


「何を考えていませんよ。大嶽丸おおたけまるが相手なら戦力は一人でも多い方が宜しいでしょう。丁度、奈良に滞在してますから直ぐに京都まで行けますよ。私の方から内容は説明しておきますよ」


「待て。それと別の話もある」


「大丈夫ですよ。大嶽丸おおたけまるのことは口が裂けても陛下には言えない内容です。先ずは、春晶はるあき先生の中でどうにかしたいということなら内緒にしておきますよ」


 学史さとしはそう言って姿を消した。

 

春晶はるあきさん、宜しいですか? 賢人けんと言うても小野江このえ家やし」


「大丈夫だろう。賢人けんと君は、我々と仲良くしたいと思っている。それに彼の力は頼りになる。ここは素直に受け入れよう」


春晶あるはきさんが言うなら従うまでのこと」


「とにかく、大嶽丸おおたけまるを祓うことが最優先される。鬼神ではあるが、祓えるとしたら一番可能性がありそうだな」


 春晶はるあきは自信ありげな発言をして笑みを溢していた。


大嶽丸おおたけまるの相手は私がするよ。その他のバックアップを頼みたいね」


一尉いちじょう家や二城にじょう家、鷹士たかつかさ家に連絡はしておきます」


一尉いちじょう家は、みやびちゃんがいるから話しておくよ。時継ときつぐ二城にじょう家と鷹士たかつかさ家に連絡しておいてくれ」


 遂に復活した大嶽丸おおたけまるに挑む準備を進めていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る