第18話 死闘の後

 大嶽丸おおたけまるの戦いを何とか切り抜けたひなた九條くじょう兄妹。

 ひなたなみ昭仁あきひとなぎ九條くじょう家まで運んだ。


「お母さん! なぎが…」


 家の中で帰りを待っていたのは、母である【九條くじょう風浪ふなみ】であった。


「また無理してんな! なぎはお母さんが見るさかい、アンタは向こうで休んどき!」


 風浪ふなみは平成神宮寺の娘であり、一般人よりほんの少しだけ霊力を持っている。結婚してから怪異師となった人物だ。固有術式は【寛解かんかい術式】。完治させることは出来ないが一時的に癒すことが可能なヒーラー的存在。


 なぎを預けたあと、昭仁あきひとを椅子に座らせてなみひなたは一息をついた。

 -時刻は20時45分-

 プルルルル…プルルルル…。

 なみの携帯電話に着信音が鳴る。

 画面を見ると【九條くじょう時継ときつぐ】と書かれた文字が浮かんでいた。


「お父さんからやわ」


「もしもし、お父さん⁉︎」


「どないしてんな? ワシが忙しいの知っとるやろ?」


「それどころやない! 大嶽丸おおたけまるが復活してもた!」


 時継ときつぐの携帯からなみの大きな声が漏れ出てしまっていた。その声は近くにいた、春晶はるあきの耳にも届いていた。


なみ、ちょっと落ち着かんか。状況がよーわからへんさかい、一から説明してもらわんと困る。それに少し声のトーンを落としてな。ホンマなら聞かれたらアカンことや」


「ご、ごめんなさい。堪忍して」


「それとちょっと待って。春晶はるあきさんにも聞いてもらうさかいに」


 時継ときつぐ春晶はるあきを手招きして呼びつけた。


「やぁ、なみちゃん、元気かい? 今の話は本当かい?」


「ホンマです! 急に妖気が解き離れて…それでなぎが見に行ったら、扉が開いてもてて」


春晶はるあきさん、昨日の今日ですよ。封印が解かれることなんてあるんですか?」


「いや、それはあり得ない話だね。それより八尺瓊勾玉やさかにのまがたまはどこに?」


「それならなぎがちゃんと持ってます。お母さんに預けてます」


「無事か。それは良かった。可能性としてだか思い当たる節が一つだけある。だがそれは口外することは出来ない。時がくれば話すよ。とりあえず、時継ときつぐと現場は見に行くよ」


「そんでなみは無事なんか?」


「ウチは無事やけど、なぎは怪我をしてもてる…。今はお母さんが見てくれてる。それにひなたも助けに来てくれたから」


大嶽丸おおたけまるはどないしたんや?」


大嶽丸おおたけまるはどっかに逃げてもたで」


「そうか…。被害は?」


「被害は出た後やった。一般人が襲われた跡があって、でも一人だけ助けてんけどなぁ」


 そう言って…昭仁あきひとひなたを画面に映し出した。それを見て春晶はるあきは驚いた表情を見せ、大声を上げてしまった。時継ときつぐはその声にビクッとした反応を見せた。


なみちゃん! 彼は大丈夫なのかい⁉︎」


「え、えっ? 命に別状はないんやけど全然反応せーへんねんかぁ。お人形さんみたいになってもてる」


昭仁あきひと君…。君はやっぱりそうなのか?)

大嶽丸おおたけまるは何か言って無かったかい?」


「いや、何にも。でもウチら怪異師のこと知らんへんかったで」


「あぁ。それは怪異師が誕生する前に封印されたあやかしだからだよ。ごめんなんだけど彼をよく見ててくれないか。私の知り合いでね」


「うん。わかったわ。あとお父さんも春晶はるあきさんも直ぐに帰って来れへんの? ウチ…不安や」


「京都に残るのは九條くじょう兄妹とひなただけか。みやびちゃんはお父さんの代理で来てるから、ここを離れるワケにはいかない。となると涼月りょうきを京都に向かわせるか」


涼月りょうきさんだけ?」


「ごめんだけど、早くても五日の夕方になるね。涼月りょうきは明日の昼には着くようにするから」


なみ涼月りょうき君でも十分やで。それに直ぐに大嶽丸おおたけまるが襲ってくるとは思われへんから安心してええんちゃんかな」


「……わかった」


「じゃあ、切るよ。まだ忙しいから」


 ピッ!

 携帯電話から、春晶はるあき時継ときつぐの姿が消えるとなみは直ぐに不安になってソワソワしてしまう。


「してどのようや解答を?」


「帰って来れるのは明後日の夕方やって。でも涼月りょうきさんは明日の昼には着くんやて」


「え? お兄ちゃんは帰って来るの⁉︎ やったー!」


 ひなた涼月りょうきが帰ってくるだけで嬉しくて仕方なかった。


ひなたはホンマ気楽やな。それでこの人やけど、春晶はるあきさんが面倒見てくれって。ひなたはこの人知ってんの?」


「この人は闇の住人。光の世界に生きるひなとは住む世界が違うわ。それに魂の波長に乱れもある。ダメかもしれないわね」


「知らないってことね。ほな、このまま家に居てもらおか。この様子やと何にも出来へんやろし」


 なみひなたは、リビングに布団を敷いて眠りに着いた。この後、昭仁あきひとの姿を見た者はいない。

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