第14話 復活 三大悪妖怪・大嶽丸

 5月1日——。

 この日、平成は終わりを迎え、約1300年振りに女性天皇が誕生した。翔仁かけひと様の第一子である真子まこ様が即位した。そして元号は令和へと改められた。

 世間が新元号で賑わう中、昭仁あきひとたちは貴船に来ていた。貴船は水神を祀っており、川が綺麗であり五月であってもちょっぴり冷んやりとした気温で肌寒く感じる。そして何より川床で食べる飯が美味いのだ。


 5月2日——。

 今日が京都観光の最終日。短い期間だったが、大学生らしいことができて俺は満足している。最終日は怒涛の世界遺産巡りをする。午前中は、金閣と銀閣を巡る。


 これは一般常識であるが、金閣寺や銀閣寺は別称であり正式名称ではない。余りにも金閣や銀閣が有名になったことから一般的に金閣寺や銀閣寺と呼ばれるようになった。

 金閣の正式名称は『鹿苑寺』。相国寺の塔頭寺院の一つである。金閣は幾度となく燃えていて、現在のは昭和に復元されたものである。

 銀閣の正式名称は『慈照寺』。同じ宗派である金閣と比較されたことで銀閣と呼ばれるようになった。

 そして最後にやって来たのは清水寺だ。

 

【音羽山清水寺】

 開創は778年になる。

 境内には、国宝と重要文化財を含む三十以上の伽藍がらんや碑が建ち並んでいる。

 創建以来、十度を超える大火災に遭い、その度に堂塔は焼失してきたが、人々の篤い信仰心によって何度も再建されてきた。

 現在の伽藍は1633年に再建されたもの。

 1994年に古都京都の文化財として世界遺産に登録された。

 有名なのが本堂から張り出した舞台である。この本堂は崖の上に建設され、懸造かけづくりと呼ばれる日本古来の伝統工法である。

 最大の特徴は、釘を一本も使用していないという。


「いやースゲー高いな!」


「十二メートルもあるからな。ビルの四階相当みたいだぜ」


「見て! 京都市内が一望出来るわ。夕陽が綺麗ー!」


「次は秋だな。紅葉の時期には夜の特別拝覧やってるからなぁ。ライトアップされた紅葉見るのはきっと最高だろ」


「おっ! そう言えば、まだ一回も御神籤おみくじ引いてないよな。最後に引いて帰ろうぜ!」


 和真の提案で御神籤おみくじを購入する。

 

(このドキドキ感はいつになっても楽しめる。どうしても『大吉来い!』なんて思ったりもしてしまうんだよな)


「よし、せーので! 開くぞ」


「せーの!」


 三人は引いた御神籤おみくじを一斉に開いた。和真かずまはガッツポーズをして自慢げに御神籤おみくじを見せてきた。


「へへーん! 大吉だ」


「私も大吉ー!」


昭仁あきひとは?」


「凶だったよ。今年はとことんツイてないみたいだよ」


 和真かずま佳純かすみ御神籤おみくじを見せる。


「マジかよ。ツイてないなぁ。俺か佳純かすみの運を少しだけ分けてあげたいよ」


「でも待ち人の欄はありって書いてあるわよ」


 御神籤おみくじに書かれてある【待ち人】とは、自分の人生を良い方向に導いてくれる人のことをいう。恋人がいない人は、運命の人が現れると解釈することが多い。

 ただそれも間違いではない。


「凶なのに…待ち人ありねぇ…。変なものじゃなきゃいいけど」


 昭仁あきひとは特にあやかしのことを考えていた。

 

(でもあやかしが良い方向に導いてくれることはあり得ないから考えすぎか)


「厄落としでもしていけば?」


「いや、持っとくよ。今年は凶ってことを忘れないように大事にな」


「凶の御神籤おみくじを持って帰るなんて聞いた事ねぇよ」


「アハハ。おっ…そろそろ時間だな。リニアの時間もあるし、一旦荷物を取りに帰ろうか」


「もうそんな時間かー」


 昭仁たちの京都観光は終わった。

 和真と佳純は昭仁の家に戻り、帰宅の支度をしてから駅へと向かった。



 京都駅に向かう道中——。


「いやー四日間もありがとうな」


昭仁あきひとがいるから宿泊代も浮くから、色んな場所に行けて良かったわ」


「夏休みも来るよ。保津川でラフティングしような!」


 楽しい時間は短く感じる。

 凄く楽しい時間で充実した休日だった。昭仁は、明日からまた頑張れるそんな気がしていた。

 しかし、不幸は突如訪れる。辺りが急に暗くなり、人気ひとけが無くなると妖気が立ち込める。

 それに気付いた昭仁あきひとだが、その目の前には既に大鬼が立っていた。

 大鬼の名前は、大嶽丸おおたけまる

 伝承によれば日本三大悪妖怪に数えられ、暴風雨や雷鳴、火の雨などの神通力を使う鬼神である。700年後期から800年初期の時代に伊勢国鈴鹿山に住み、民を襲い、都に降りては貢物を略奪していた。

 身体のデカさは三メートル近くはあるだろうか。真っ赤な身体は筋骨隆々で、顔から伸びた長い角。そして圧倒的な強面の顔は、誰でも震えてしまいそうである。

 大嶽丸おおたけまるは、三貴子さんきしであった桓武天皇が倒せなかった鬼神で、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまの中に封印されているはずが、昭仁あきひとの目の前に立ちはだかる。

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