第9.5話 陽の日常(おまけ劇場)

 ここは安倍家。

 和室はピンクを中心にコーディネートされ、ぬいぐるみ、女性雑誌、フリフリした服が多く、ザ・女の子という部屋に彼女はいる。

 鏡の前で制服に着替えて、いそいそと髪を整えていた。黒く長い髪をヘアゴムで束ねてサイドポニーを作り、鞄を持って玄関へ向かう。


「いってきまーす」


 ひなの名前は【安倍あべひなた】。

 洛陽高校に通う、可憐な女子高生。

 そして今日、四月一日から二年生になるの。

 午前中は五日にある入学式の準備で学校は終わり。午後からは部活があるの。

 部活?

 新体操部に所属しているわ。

 可憐で運動神経がいいひなにとって、相性抜群の競技だと思わない?

 それに競技成績も全国レベル。自他共に認める、完璧少女よ!


「おはようさん、ひなた!」


「よう、ひなた! 今日も可愛いく決めとるやないか」


 私に話しかけて来たのは…。って今は紹介する必要はないわね。だって今日の主人公はひなだもの。この二人の紹介は改めてするわ。

 この二人とは別の学校なの。ひなの通う高校は『東の洛陽』って呼ばれていて、二人の通う学校は『西の長安』って呼ばれる長安高校に通ってるの。通学路でたまに出会うから、少し話しをしてから学校に行くのが定番ね。 

 学校が終わって部活も終わって家に到着する時間は大体十八時くらいかな?

 で、私の一日の中で最も楽しみである時間が家での時間!


 ひなたは玄関の前に立って、深呼吸をして引き戸を開く。

 ガラガラ——。


 帰って来て最初にするのは、お父さんに挨拶。偉いでしょ!


「お父さん、ただいま!」


「お帰り。学校は楽しかったかい?」


「もちろん! 今日から二年生だしねー。後輩が出来るから楽しみ!」


 その後は台所で料理の支度をしているお母さんの下へ行く。


「お母さん、ただいまー!」


「はい、お帰りなさい。今支度をしてるから先に着替えてらっしゃいね」


「はーい」


 お母さんは【安倍あべつむぎ】って言うの。お母さんは一般人だから怪異師じゃないの。でもお父さんのことや怪異師のことは知ってる。口にすることはないんだけどね。


 そして最後に挨拶をするのが…

 ひな」の大好きな涼月《りょうきお兄ちゃん!


「お兄ちゃん、ただいまー!」


 ひなたが元気よくふすまを開けた先に涼月りょうきはいなかった。この日、涼月りょうき昭仁あきひとと一緒に大学の歓迎会に参加していた。


「そういえば、遅くなるって言ってたわ。夕食も要らないって。あー早く帰ってこないかなぁ…お兄ちゃん」


 それから私は三人で夕食をいただいて、お風呂に入ってからテレビを見たり、話しをしたりしてゆっくり時間を過ごす。


 —八時二十分—


 遅い!

 遅すぎる!

 お兄ちゃんに何かあったんじゃないの?

 もう帰って来てもいいはず。


「お父さん、お兄ちゃんは?」


涼月りょうきかい? ちょっと面白い子を見つけてね。みやびちゃんのところに行くように頼んでおいたから、しばらく帰って来ないよ」


『しばらく帰って来ないよ』

 この言葉を聞いて陽の頭の中に雷が落ちた。暗い渦中に引きり込まれる思いをした。


 みやびちゃんの場所…。

 そ、そんな。

 ひなのお兄ちゃんに変な色目を使って、我がものにしようとしてる女の下に行ってるですって⁉︎


ひなたは本当にお兄ちゃんの事が好きね。でも程々にしておきませんとブラコンと呼ばれてしまいますわよ」


「お、お母さん! 変なこと言わないでよ」


「だって…お兄ちゃん、お兄ちゃんばかり言うものですから…。それに好きな男の子も出来ないんじゃないかと心配もしておりますのよ」

 

 母の言うことには一理ある。


ひな、今からみやびちゃんのところに行って、お兄ちゃんを迎えに行ってくるわ!」


 ひなたが家から飛び出そうとする、ガッと腕を掴んで静止に入ったのは母のつむぎであった。


「あらあら、ひと様のご迷惑になりますわ。お子様はお家でジッとしていましょうか?」


 ニコッと笑顔を見せたが、瞳の奥は笑っていないのだろう。ひなたはシュンとした表情を見せて、吐息が零れるような小さな声で返事をした。


 —八時:四十分—

 家でソワソワしていたひなたは何か感じ取った。

 この反応は…。怪異師として妖気を察知したのだろうか?


「どうかしたのかい?」


「悪寒がするわ!」


 この時、ひなたが感じた悪寒とはみやび涼月りょうきの頬にキスをしているときだった。

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