第4話 怪異師と天皇

 俺は何故かの前にいる。

 京都で有名な神社といえば、八坂神社や伏見稲荷大社、平安神宮だ。

 この神社の名は…『晴明神社』

(晴明神社? 確か…【安倍あべの晴明せいめい】を祀ってるという神社で…ってことはコイツもしかして⁉︎)

 

「入るぞ。父に呼ばれているんだろ?」


 安倍は昭仁あきひとを連れて境内に入り、家の中へと案内した。黙ってついて行くと昭仁あきひとは客間に連れて行かれた。

 ふすまを開けた先には今朝、助けてくれた男性が畳の上で大の字になって寝転がっていた。


(というより…はぁ? この人がお父さんだと⁉︎ どう見ても俺ら変わらない見た目じゃねぇか⁉︎ 二十代半の顔だぞ!)


 男は涼月りょうきと目が合うと身体をゆっくり起こす。


「あれ? 涼月りょうきがお友達を連れて来るなんて珍しいね」


 安倍の名前は涼月りょうきと言うのか。ずっと聞けずにいたから知れてよかったよ。安倍なんて呼べないし、困ってたんだよなぁ…。

 心の中で昭仁あきひとは少し嬉しそうにした。


「友人ではない。父の客人だ」


「私の? あー今朝の子か!」


「どうも。今朝はありがとうございました。えっと…名前も言ってませんでしたよね? 俺は【藤原ふじわら昭仁あきひと】です」


昭仁あきひと君ね。私は【安倍あべ春晶はるあき】。安倍家当主であり、安倍晴明の子孫だよ」


【安倍晴明】

 日本史実の中で平安時代に活躍した陰陽師として知られている。

 しかしその実態は事実でない。

 本当の史実を知る者は存在しない。

 彼らはその子孫である。


「やっぱりそうなんですね!」


「それより涼月りょうきは何で昭仁あきひと君と一緒に? もしや…」


「コイツと同じ学校だったんだ。帰り道、後をつけて来るから尋問したら、ここに呼ばれてるって言うから偶々たまたまだ」


「なるほど。なら好都合だ。涼月りょうきにも聞いて欲しいから残るんだ」


「俺も? 何故?」


「いいから聞くんだ!」


 さっきまでにこやかだった春晶はるあきの表情は一変して、鋭い眼光をしていた。涼月りょうきはその表情を見て、溜め息を吐いてから黙って座った。


「今から言うことは昭仁あきひと君だから言うよ。絶対に口外しないと約束してくれ」


 昭仁あきひとはゴクリと唾を飲み込んで沈黙した。


「我々の本職はあやかしを祓う怪異師だ」


 怪異師とは平安時代に最も活躍した霊媒師のようなものだ。人知を超えた力を持ち、妖怪や幽霊と戦ってきた。

 安倍晴明は怪異師の祖であるが、史実として残ることはなく、陰陽師として語り継がれている。


 平安時代には、飛鳥時代・奈良時代の倒し切れなかったあやかしが多かったため、妖怪や幽霊は蔓延してしまっていた。

 天皇はあやかしの殲滅を実現するために晴明に六人の弟子を与えた。

 六人は皇族と外戚に当たる人物であった。

 しかし一人は激闘の末、命を落とし現代に残る怪異師は、安倍家を含めて六つの家となった。


 関東に小野江このえ家。

 近畿に安倍家、一尉いちじょう家、九條くじょう家。

 東海に二城にじょう家、鷹士たかつかさ家。

 安倍家を除いた家を五摂家ごせっけと呼んでいる。そして怪異師とは別に、神話時代からずっとあやかしと戦い続ける一族もいる。


「実は天皇も怪異師なんだ。だがその力も一ヶ月もすれば使いこなすのは難しくなる存在に変わる。それにその力はその代で消える」


 春晶はるあきの口から驚きの言葉が発せられた。 

 

「天皇の本来のお役目はあやかし退治なんだよ。これはずっと昔から続いているんだ」


(天皇の本来の役目があやかし退治だなんて…そんな馬鹿な話があるのか?)


「正確には怪異師ではなく、三貴子さんきしと呼ぶんだけどね」


(三貴神って確か、天照大御神アマテラスノオオミカミ月詠命ツクヨミノミコト須佐之男尊スサノオノミコトだったよな? 初代・神武じんむ天皇は、天照大御神の直系であって、その妻であった媛蹈鞴五十鈴媛ヒメタタライスズヒメは須佐之男尊の直系だったはず)


 月詠命はあまり登場はしなかったものの、天照御大神と須佐之男尊の兄弟である。

 

昭仁あきひと君は、日本書紀や古事記に詳しいんだね」


「歴史が好きなだけです」


(しかし天皇はどうやって戦っていたんだ?)

 

「三貴子と呼ばれる理由は、天皇が代々受け継いできた物を使って戦ってきたからなんだ」


「まさか…⁉︎」


昭仁あきひと君が想像した三つだね」


 三種の神器である。

 それぞれの神が所有していた神器だ。

 

 天照大御神は八咫鏡やたのかがみ

 月詠命は八尺瓊勾玉やさかにのまがたま

 須佐之男尊は天叢雲剣あめのむらくものつるぎ

 

 歴代天皇は、神の血を受け継ぎ三種の神器を駆使する力を持っていることから三貴子と呼ばれていたのだ。

 

(まさか…そんな歴史があったなんて。でもどうして天皇にその力が無くなるだ?)


「三種の神器を使うには条件があってね。それは男系天皇の血筋であること。後一ヶ月もすれば男系女性天皇へと変わるのは知ってるよね」


 三種の神器を使役する力は、男系天皇にしかないというものであった。

 初代から一二五代までは男系天皇ではあったが、一二六代目が男系女性天皇であり、結婚している相手が一般人であり、その力が潰えるのは確定している。


「まさか…皇位継承問題で反対してた理由って!?」


「いやー、昭仁あきひと君は察しが良くて助かるよ。そのまさかさ。女性天皇が誕生してしまうと男系天皇が途切れる可能性があるからね。もし女系天皇になれば、天皇の役目は終えてしまう」


(そうか…だから。推古天皇や持統天皇の配偶者は皇族だったのか。中には独身を貫いた女性天皇もいたけど、それは男系天皇を守るためだったのか)


 本物の三種の神器は、今も天皇が保有しているがこの五月に格所の神宮に保管されることになっている。それはを監視するためである。

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