第4話 Tの奇襲

4.

「おい、”海峡“調査の件はどうなってる?」

「スミス殿、ご心配なく。既にマニラから工作員を現地に派遣しております。」

「分かった。くれぐれもアンボイナ事件の二の舞だけにはなるなよ。」

「承知いたしました。」


大佐が近づてきてこう言った。

「そうだジョン、お前には現地での潜伏調査に行ってきてもらいたい。」

「と仰いますと、敵軍に潜るので?」

「察しが良いな。その通りだ。」


「今は世界を巻き込んだ戦争の最中だ。東インド経由で海峡植民地へ向かい現地の駐留軍に入り込め。」


「現地への道中、無いとは思うがダッチの連中が連合王国に加勢するようならフィリピンの友軍へ合流し撤退すべし。しかし奴らはドイツ寄りの中立だ。もし我々の同盟国として参戦するなら海峡植民地へは渡れなくなるぞ。」


「大佐、心配には及びません。オランダ側には英国がフィリピン総攻撃に向かうタイミングでの参戦の確約を得ております。そうすれば少なくともサバとサラワクを占領しマレー半島への上陸も容易いでしょう。」


「なら問題はない。これは情報戦だ。速やかに準備にかかれ。」

「了解いたしました。」


まず向かう先はドイツ植民地だった。

フィリピン救援に向かう艦隊に乗り込んで、日本軍の迫りくる中でなんとかラエ港に降り立つとそこから全速力で東へ向かった。オーストラリア軍により占領が進んでいるニューギニア地方ではあったが、北岸のフィリピン海の道はまだ通行可能だ。


道を進んで数時間した頃、煙が西から見えた。後に日本軍による奇襲があったことを知ることになる。


「で、Sir、本当に進むので?」

「かまわん、進んでくれ。」


パプアの人夫を雇い時には小舟で、時には山道を進み東インドを目指した。

まずは日本とオーストラリアの攻撃が届いていないマダン市へ向かわねばなるまい。



オランダ領東インド・ジャヤプラに何とか到着した。ここからジャカルタへまず向かわねばならない。

「パスポートを拝見します。ヤンさん、ハーグ生まれですね?」

「そうです。」


ここから北上しミクロネシア諸島を北上すれば日本へ戻れるのだが、今はあくまでもアメリカ陸軍兵ジョン・スミスとしては敵である。ドイツ領のミクロネシアを次々に占領していく日本海軍は留まるとことを知らなかった。




問題なくジャカルタに到着し船を降りたが、ジャヤプラから9日間経過していた。

この時点では何も問題は無いはずだったんだがな…。


夜中の2時頃だったか、宿で寝ていたのだが階段から音がして目が覚めた。

念のため短銃をポケットにしまい扉から外を覗くと、明らかに現地の人間ではない輩が数人いた。


数分はただ覗いているだけだったが、次第にこちらに近づいてくる。


「おい、ここはまだ見ていないんじゃないか?」と男が言った。

ドアを蹴り、輩が突入してきた。


とっさにライフルに持ち替え、連続射撃を喰らわした。

即座に2人の男を葬ったが、1人が激しく応戦している。


顔は覆われているので見てくれは分からないが、何となく覚えがあるような気がした。

そのせいか上半身を撃ち抜けずに足を狙いそいつを倒れさせると、床に押さえつけロープで縛り上げた。


「お前…。」

言葉を失った。このおかしくなってしまった世界で、またしても知っている顔に出会ってしまった。あの宇宙人と同じく、またしても敵同士で戦う羽目になってしまったとは。


武装した複数人の輩が階段を上がってきたのでロープをほどき追い返すと、下から男の声が聞こえた。


「おいT、早く戻れ!」

その声を聞き金髪の女は撤退していった。その隙に非常口から宿を抜け出し脱出を試みる。

顔を隠しながらジャカルタの西へ逃げ、タンゲランという都市で一息をつくことができた。

それにしてもさっきの連中は紅茶野郎で間違いない。

俺を襲って得をする国は少ない。それに明らかにアメリカ英語では無かったのが分かった。今日は結局ほぼ寝れない夜だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る